最高懲役2年の罪ですから、否認して不合理弁解と言われても実刑にならないですよね。
原判決は無罪でした。
大阪高等裁判所
平成26年8月28日第1刑事部判決
上記の者に対する青少年愛護条例(兵庫県昭和38年条例第17号)違反被告事件について,平成25年2月27日神戸地方裁判所が言い渡した判決に対し,検察官から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官猪俣尚人出席の上審理し,次のとおり判決する。
主 文原判決を破棄する。
被告人を懲役1年に処する。
原審における未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。7 結論
以上によれば,A供述を信用することができないとした原判決には,その出発点において看過できない経験則の違反があり,A供述が信用できる一方,被告人供述は信用することができないから,被告人を無罪とした原判決の結論を是認することはできない。
論旨は理由がある。
よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,当審において,A供述の信用性評価についての視点を提示するM証人等の取調べを実施したことに鑑み,当裁判所において直ちに自判することとし,同法400条ただし書により,被告事件について更に次のとおり自判する。
第2 自判
1 罪となるべき事実
被告人は,平成21年7月下旬頃から同年9月頃までの間,神戸市α区β内所在の被告人方において,柔道の指導をするため被告人方に下宿させていた当時中学2年生のA(平成7年○月○日生)に対し,自己の性欲を満たすため,Aが18歳に満たない青少年であることを知りながら,着衣の上からAの陰部にバイブレーター様のものを押し当て,Aの乳房を手で揉むなどすることを繰り返し,青少年に対し,わいせつな行為をしたものである。
2 証拠の標目《略》
3 弁護人の公訴棄却の主張に対する判断
弁護人は,被告人の原審第1回公判期日における公訴事実に対する陳述は,当時の原審主任弁護人及び弁護人によって被告人が自白を強要された結果なされたものであるが,弁護人による自白強要は,憲法上,被告人に対して保障された弁護人の援助を受ける権利(憲法34条,37条3項)及びこれを受けた刑訴法30条並びに自己弁護権の発現である反対尋問権(憲法37条2項),これを実質的に保障する刑訴法320条を侵害するもので,違憲違法であって,このように違憲違法な自白に基づいて進められた原審第1回公判期日における公訴事実に対する陳述以降の手続は無効であるから,本件公訴は,刑訴法338条4項の準用により,棄却されなければならない,などと主張する。
しかしながら,弁護人を依頼する権利は,そもそも国家との関係で保障されるものであるところ,記録によれば,被告人は,平成22年7月21日に通常逮捕され,同月23日に解任前の原審弁護人らを選任していることが認められること,他方,捜査機関等によって,同弁護人らの弁護活動に規制が加えられたという事情も何ら認められないことに照らすと,被告人の弁護人依頼権が侵害されたとはいえない。
また,被告人の原審供述を前提としても,解任前の原審弁護人らからのアドバイスは,裁判で闘ってもよいが,否認すれば1年2か月くらいの実刑判決,自白すれば執行猶予になる,裁判で闘っても勝てないので,損得勘定で考えてはどうか,というものであるところ,弁護人が,その専門的知識に基づき,事件の見通しを告げたり,これに従ったアドバイスをしたりすることは,その職責に含まれているものといえるから,これをもって自白の強要などということはできない。
弁護人の主張は前提を欠くものであるから,採用することができない。
4 法令の適用
被告人の判示所為は,包括して青少年愛護条例(兵庫県昭和38年条例第17号)30条1項2号,21条1項に該当するところ,所定刑期中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中70日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとし,原審における訴訟費用については刑訴法181条1項本文により全部被告人に負担させることとし,当審における訴訟費用については同項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
5 量刑の理由
本件は,柔道クラブのコーチをしていた被告人が,柔道の教え子であり,自宅に下宿させていた当時14歳のAに対し,わいせつな行為をしたという兵庫県青少年愛護条例違反の事案である。
Aが被告人をコーチとして信頼していることや,ある程度の性的な知識はあるものの,これについての善悪の判断が十分でないことに乗じて犯行に及んでいること,Aが本件被害を認知した後に感じた精神的苦痛は大きく,Aの健全な成長に対する悪影響が懸念されること,Aに対する慰謝の措置が何ら講じられていない上,犯行を否認しており,反省の態度が見られないことに照らすと,被告人の刑責を軽視することはできない。
他方で,被告人に前科前歴のないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの事情を総合考慮して,主文のとおり量刑した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役1年)
平成26年8月28日
大阪高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 的場純男 裁判官 橋本一 裁判官 沖敦子