児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

福祉犯では、刑事損害賠償命令が使えないこと

 児童淫行罪の被害者代理人が、和解して債務名義取るというので「刑事損害賠償命令」は使えないのかと思ったんですが、無理なようです。
 児童ポルノ・児童買春もダメです。
 強姦・強制わいせつ罪+児童ポルノ製造という場合、児童ポルノ罪の部分の損害賠償命令はできません。

 金銭賠償を予定してないんだよね。

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
(平成十二年五月十九日法律第七十五号)
 第一節 損害賠償命令の申立て等

損害賠償命令の申立て)
第十七条  次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一  故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二  次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2  損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3  前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。

 たとえば、こういう事件ですと、Aの強姦致傷(第1)と強姦(第2)は損害賠償命令が可能ですが、児童ポルノ製造罪(第3)は損害賠償命令の対象外。
 Bの児童ポルノ製造(第4)は、実は強制わいせつ罪(176条後段)でもあるので、強制わいせつ罪を立てれば、損害賠償命令が可能ですが、児童ポルノ製造罪だと損害賠償命令の対象外になります。この事件ではBは全く適用されないことになります。

東京地方裁判所平成23年9月6日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1 〔所在地省略〕被告人方において開講していた英会話サークルの生徒であるA〔生年月日省略〕が13歳未満の女子であることを知りながら,平成21年9月下旬ころ,前記被告人方において,A(当時9歳)と性交し,その際,同人に全治約1週間を要する処女膜損傷の傷害を負わせ[平成22年12月15日付け追起訴状記載公訴事実]
第2 Aが13歳未満の女子であることを知りながら,別表1記載のとおり,平成22年1月28日ころから同年3月31日ころまでの間,前後5回にわたり,いずれも前記被告人方において,A(いずれも当時10歳)と性交し[訴因変更後の平成22年8月17日付け追起訴状記載公訴事実及び訴因変更後の同年11月8日付け追起訴状記載公訴事実]
第3 Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,別表2記載のとおり,平成22年1月28日ころから同年3月31日ころまでの間,前後5回にわたり,前記被告人方において,A(当時10歳)に,被告人と性交する姿態,被告人がAの陰部を触る姿態及び同人の陰部等を露出させる姿態をとらせ,その場面をビデオカメラで撮影し,その動画データ合計8点を同ビデオカメラに装着したSDカード合計4枚に記録させて保存し,もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態並びに他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し[平成22年12月20日付け追起訴状記載公訴事実]
第4 前記英会話サークルの生徒であるB〔生年月日省略〕が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,平成21年11月1日ころ,前記被告人方において,B(当時11歳)に対し,服を脱いでソファーに横になるように言い,同人を全裸で同所のソファーに仰向けにさせた上,その陰部を右手指で押し,その両胸を両手でなで回し,さらに股を開かせてその陰部などをポラロイドカメラで撮影し[平成22年4月30日付け起訴状記載公訴事実]
たものである。

166-衆-法務委員会-21号 平成19年05月29日
○椎橋参考人 おはようございます。中央大学の椎橋でございます
それから、少し戻りまして、損害賠償命令ということですけれども、これについて一言だけ申し上げますと、財産的被害の回復というのも犯罪被害者にとっては重要なことでございます。それを、迅速簡易な救済の方法ということで、一定の犯罪に限定して、迅速簡易な処理による回復が可能な罪種に限定して、それにふさわしい簡易な手続をもって、そして安い費用のもとで財産的な回復を図ろうという制度をつくるということにも、私は基本的に賛成でございます。

166 - 衆 - 法務委員会 - 23号 平成19年06月01日
○神崎委員 損害賠償命令の申し立てのできる事件は、故意犯で、かつ、一定範囲の罪に限定をしているところでございます。
まず、対象犯罪を限定した理由及びどういう基準でこれを限定したのか、この点について大臣にお伺いをいたします。
○長勢国務大臣 対象犯罪を限定したのは、本制度を円滑に導入して運用していくためには、救済の必要性が強く認められ、かつ、簡易迅速な手続で審理するのが相当と思われる犯罪を対象とするのが相当であると考えられたことによるものであります。
対象犯罪を限定した基準でございますが、一つは、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や、強姦罪等、類型的に身体的、精神的に疲弊して通常の民事訴訟を提起することが困難であると思われる犯罪であり、救済の必要性が強く認められること、二つ目に、刑事手続において認定された事実をもとに簡易迅速な手続で民事上の請求についての判断をすることができることを基準として限定したものでございます。
○神崎委員 この制度では、業務上過失致死傷を除外しておりますけれども、それはどういう意味なんでしょうか。
○長勢国務大臣 対象犯罪を限定した理由、基準は今申し上げたとおりでございますが、そういった観点から見ますと、業務上過失致死傷罪については、事故の当事者のどちらの過失が大きいかという、いわゆる過失割合が問題となるような事案においては、刑事裁判の中で争っておかないと後の民事の手続で不利になるという理由でその争いが刑事裁判に持ち込まれ、迅速な刑事裁判の実現を阻害するおそれがあると思われること、また、交通関係の民事訴訟については、そのような過失割合等の審理に時間を要しているとのことであり、現に交通事件の専門部や集中部が設けられている裁判所もあるなど、専門的な判断を要する事項が多いものと思われること、さらに、保険会社が絡むような事件については、加害者と被害者だけではなく、保険会社も含めて解決を図る必要があることなどからすると、そもそも刑事手続を利用して簡易迅速な審理により紛争の解決を図ることとする本制度にはそぐわないと考えられます。そこで、この業務上過失致死傷罪は本制度の対象犯罪とはしないということとしたものでございます。

166 - 参 - 法務委員会 - 19号 平成19年06月12日
浜四津敏子損害賠償命令につきましては、対象犯罪が故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪とかあるいは強制わいせつとか強姦など、一定の範囲に限定されております。被害者の方々の迅速な損害の回復のためには、被害者がいるすべての犯罪を対象とする必要があるとも考えられますけれども、なぜ対象犯罪を限定したのでしょうか、御説明願います。
○政府参考人(小津博司君) 本制度、新しい制度でございますので、円滑に導入して運用していくために、救済の必要性が強く認められ、かつ簡易迅速な手続で審理するのが相当と思われる犯罪を対象とするという考えで立案させていただきました。
対象犯罪につきましては、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や強姦罪等、類型的に身体的、精神的に疲弊して通常の民事訴訟を提起することが困難であると思われる犯罪でありまして、救済の必要性が強く認められ、かつ刑事手続において認定された事実を基に簡易迅速な手続で民事上の請求についての判断をすることができる犯罪に限定させていただいたところでございます。
浜四津敏子君 そうであれば、おっしゃる趣旨は分かりましたけれども、なぜ業務上過失致死傷、また本日施行だったでしょうか、自動車運転過失致死傷をその対象犯罪から除外したのでしょうか。
○政府参考人(小津博司君) お尋ねの業務上過失致死傷罪あるいは自動車運転過失致死傷罪でございます。非常に重大な深刻な事故も多いわけでございます。ただ、このような事案につきましては、民事上の争いは、過失がそもそもあるかないかということよりも、双方にどの程度過失があるかという、いわゆる過失割合が問題になることが多いと理解しておりまして、この過失割合の問題になりますと、先ほど私が御説明申し上げましたように、刑事裁判と民事裁判の手続は遮断されてはおりますけれども、過失について刑事で双方の主張、立証活動が行われる中でその争いが持ち込まれるおそれもあり得るのではないかというのが一つでございます。
それから、このような過失割合等の審理は大変に専門的でございまして、現に交通事件の専門部や集中部が設けられている裁判所もあるわけで、かなり専門的な判断を要する事項が多いのではないかと。また、保険会社が絡むような事件につきましては、保険会社も絡めて解決する必要があると。このようなことを考えますと、本制度のような簡易迅速なやり方になじまないのではないかと考えられまして、対象から外させていただいたということでございます。

酒巻匡 Q&A平成19年犯罪被害者のための刑事手続関連法改正
損害賠償命令制度を円滑に導入して運用していくためには,救済の必要性が強く認められ,かっ,簡易迅速な手続で審理するのが相当と思われる犯罪を対象とするのが相当であると考えられるところ, 17条1項各号に掲げる罪は,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や強姦罪,誘拐罪等,被害者等が類型的に身体的・精神的に疲弊して,通常の民事訴訟を提起することが凶難であると思われる犯罪であって,救済の必要性が強く認められ,かつ,刑事手続において認定された事実を基に簡易迅速な手続で民事上の請求についての判断をすることができる犯罪であると考えられることから,同項各号に掲げる罪が損害賠償命令の申立ての対象犯罪とされたものである(注)

自動車道転過失致死傷罪(業務上過失致死傷罪)については,交通県警の民事訴訟については,過失割合等の審理に時間を要しており,専門部,集中部が設けられている裁判所も現に存在するなど,専門的な判断を要する事項が多いことなどから,財産犯については,盗品が犯人の手元にあれば,被害者還付の規定による返還が可能であり,犯人に資力がある場合には,公判中に被害弁債がなされることも相当程度期待できることなどから,この制度の対象犯罪とはしないこととされた。