児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「条例運用に当ってとくに警察官が注意する事項」(群馬県青少年保護育成条例の解説(昭和48年))

 昭和48年の解説まではこのような注意書きがありましたが、それ以降は見当たらなくなりました。

第一 条例制定の趣旨
青少年の諸問題が日本国内のみならず、世界的な問題として大きく取りあげられ、なかんつく、青少年の非行化の傾向がますます著しいものがあり憂慮すべき状態となっている。特に、本県においては青少年の非行の増加は全国的にも上位をしめる現況にあって、その原因は単に青少年自身の心理的欠陥に起閉山するとかあるいは有害なマスコミの影響、政治の貧困、社会の混乱、教育の低下等々に起因するとは決定づけられない。
しかし、これらの諸要素の中で特に青少年の非行、犯罪を強く誘発するのは青少年を取りまく不健全な社会環境であることは、明白な事実であり、したがって青少年の非行を防止するのは、社会環境の浄化であり、結論的には、社会全般が青少年を保護育成するという自覚を深めねば解決の途は聞かれない。
この条例の制定趣旨も、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、青少年の保護と健全な育成を図ることにある

第二 条例の性格
この条例は、日本国憲法第九四条(地方公共団体の権能)及び地方自治法第十四条の規定に基づいて地方公共団体が制定した行政事務条例であって、青少年の非行化を誘発する深夜外出、質受け、古物買受け、有害な映廊、文書図閥、広告物、刃物類等及び薬品類等の制限といん行、場所提供等の行為について禁止を定めているのは、あくまでも青少年の健全なる育成という公共の福祉を図るためにとられた行政事務の一環境としての措置であり、単なる一定の行為を犯罪と規定し、その行為に出たものを処罰するという刑罰権行使を目的とした方法でないことは条例全文を通じて、そのほとんどが注意的訓示規定である点よりみても容易にうなづけるところであり、青少年を取りまく環境の中で青少年に及ぼしてはならない行為の限界を有し、これに従うべき一定の義務を課することを目的とした行政法規であって、罰則は必要最少限度の義務履行を確保するための規定である。
なお、この条例の最大の特色は、罰則が青少年には適用されないことであるが、他の刑罰法令に触れる行為については当然その法令の適用が発動される。
第三 運用上の注意事項
この条例の運用にあたっては、条例制定の趣旨はもとより、その性格等をよく理解して、広く県民に、その周知徹底を図るため活発な指導啓蒙を行者い、又県民が青少年の健全な育成のために積極的に協力するように努めなければならない。
この条例で規制している面は、憲法で保障されている営業及び故人の自由権ときわめて密接かつ微妙な関連性があるので、その運用に当っては、善良な取締対象業者に不当な圧迫を加えて、その固有の権利侵害とならないように意を用いなければならないことはいうまでもなく、混同しないよう注意を要する。
この条例は、現行法令で取締りの困難な名種の有害行為を規制したものであって、正常な営業行為を取締るものでないことを念頭にわき、運用に当っては処罰の対象となっている行為については、関連する他の法令とよく比較対照し、いかなる要件といかなる程度において、そのいずれを適用すべきかを検討し、いたづらに本条例を濫用することがあってはならない。
 この条例の違反行為の捜査に当っては、その性質上対人関係によって立証措置を講ずることが多いため、関係者の供述の確保を図るとともに、情況証拠としての写真撮影等を実施して証拠を補強し、事案の真実性を篠保することに努めなければならない。

 この趣旨とする青少年の健全育成に努力せしめるよう指導することも必要である。この条例違反については、あらかじめ警告を行なうなど、努めて規制対象者の反省を求めるなどの措置を講じ、本条例の趣旨とする青少年の健全育成に努力せしめるように指導することも必要である。
第四 捜査上の留意事項
一 刑法との関係
犯罪構成要件と刑罰とを定めたものであるから、この条例は、刑法第八条(総則の適用範囲) の規定が適用される。
l 犯意(故意)
犯罪が成立するには、刑法第三十八条(故意、過失)「罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰モズ」 の規定に適合した行為者に罪を犯そうとする意思のあることが原則として必要である。
(1)犯意は、その行為者の反社会的性格の表現であり、判例においては、犯罪となるべき具体的事実を認識予見していること。
(2)認識予見している具体的事実を、実行しようとする意思のあること。
が成立要件となっており、犯罪事実に対する認識予見が確定的であろうと、不確定的であろうと、犯意として欠くところはない。
2未遂について
この条例には、未遂罪(刑法第四十四条)を処罰する規定を設けていない。
3 罪数について
この条例の罰則規定の各本条は、
いずれも独立犯で一罪を構成する。

4両罰規定
この条例は、両罰主義により、行為者たる自然人とその属するところの法人、雇主をも処罰する転嫁罰を規定している
5時効について
この条例の公訴の時効は、刑事訴訟法二五〇条及び二五一条の規定により3年である

二土地に関する効力
この条例は、群馬県内全域に効力を有し、県内において、本条例で規制してある行為に違反した者に対しては、何人といえとも適用される。
三 青少年に対する特例
この条例は、青少年に対しては罰則の適用はない。ただし、青少年が他の法令に違反した場合は、当然、その法令違反として措置しなければならない。
四 事件処理について
この条例違反の捜査も、他の法令違反と同様に、任意捜査が原別である。
悪質違反者に対しては、刑事訴訟法第一九九条(逮捕状による逮捕)を必要とする強制捜査も考えられるが、これらの逮捕に際しては、合法性、必要性、妥当性等を十分検討し逮捕権の適正な運用を図るようにしなければならない。
なお、この条例は、罰金刑のみを規定しているので、刑事訴訟法第二一〇条に規定する緊急逮捕はできない。