児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会プロバイダ責任制限法検証WGにおけるプロバイダの刑事責任論

 当初このような議題で議論されていたのですが、最近の議事録が公開されていないので、現状がわかりません。
 児童ポルノ判例が議論に先行しています。児童ポルノについては問答無用で全員有罪という感じですね。

http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/provider01siryo.html
http://www.soumu.go.jp/main_content/000086738.pdf
個別の検討項目(案)〜1プロバイダ責任制限法の取り扱う範囲?〜
論点の現状
・法制定当時、単に、特定電気通信役務提供者が違法情報が流通していることを知っただけでは、直ちに刑事上の責任を問われることは想定しにくいと考えられていたことから、プロバイダ責任制限法には刑事上の責任については規定されていない。
・しかし、同法の制定後、特定電気通信役務提供者に刑事責任を認めた判決がある(※1※2)。
※1東京高裁平成16年6月23日公刊物未掲載
特定地域の、(児童)買売春を中心とした風俗情報の提供及び交換を目的として掲示板を開設した被告人が、同掲示板に児童ポルノ画像が貼付されたことを知りながら、敢えて削除せずに放置しつづけた事案につき、「本件掲示板を開設して、…不特定多数の者に児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら、これを放置して公然陳列した」として、被告人に児童ポルノ公然陳列罪(正犯)の成立を認めた。
※2名古屋高裁平成19年7月6日公刊物未掲載
被告人が児童ポルノ画像を投稿するための掲示板を開設し管理していた事案につき、「同掲示板は違法な児童ポルノ画像データを掲載させることを目的とし、被告人は、その開設により、投稿者らが、同掲示板を使用して不特定多数のインターネット利用者に対し児童ポルノを公然と陳列する犯罪行為に及ぶことを十分に認識した上で本件電子掲示板を開設したのであって、その開設行為は、投稿者らによる児童ポルノ公然陳列罪の犯行を容易にする違法な幇助行為である」として、被告人に児童ポルノ公然陳列罪(幇助)の成立を認めた。
・電子掲示板の管理者等による送信防止措置について、当該行為が犯罪構成要件を満たす場合には刑事上の責任を問われる可能性があるか(証拠隠滅罪等?)。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000093984.pdf
資料2−2の「1 プロバイダ責任制限法の取り扱う範囲」、「2 プロバイダ責任制限法ガイドライン等」について
(佐伯構成員)
刑事免責についてどのように考えるかという問題提起については、プロバイダ責任制限法の逐条解説(註:「プロバイダ責任制限法−逐条解説とガイドライン−」(総務省電気通信利用環境整備室著 社団法人テレコムサービス協会編著)において、「単に、(関係役務提供者が)違法情報が流通していることを知っただけでは、直ちに刑事上の責任を問われることは考えにくい」との記述がなされているが、その通りと考える。それ以上になにか刑事免責を法律上規定するということは、なかなか難しいのではないか。
ここで取り上げられている2つの裁判例については、見た限りでは、役務提供者による積極的な関与があった事例で、単に削除しなかったというものではないようである。どこに責任の限界を設けるかということは、条文にすることは難しいのではないか。
(森田構成員)
掲示板に他人の名誉を侵害するような言明が書き込まれ、それを削除しないことによって掲示板の管理者が責任を問われた場合に、掲示板の管理者自身の不作為が名誉毀損罪を構成することになるかといえば、直ちにはそうはならないだろう。民事責任についても、不作為を作為と同視できるような不真正不作為犯に当たるような態様による侵害の場合と、掲示板管理者に削除すべき義務が認められるのに削除しない場合に分けて考えることができる。例えば、名誉毀損については民法上特定的救済として名誉毀損を行った者には謝罪広告を命じることができるが、プロバイダに削除義務が有るのに削除しなかった場合に、プロバイダ自身が名誉毀損を行ったとしてこれに対して謝罪広告を命じることができるかというと、通常はプロバイダ自身が名誉毀損を行ったとはいえず、あくまでも削除すべき作為義務を果たさなかった責任を問えるにすぎない。このような場合の違法行為と、プロバイダ自身が他人が書き込んだ名誉毀損の言明を自身の言明として認容してあえて放置した場合の違法行為とを民事上も分けて考えることができる。こう考えると、不作為が作為と同視できるような違法性があるのはどのような場合かという観点から横断的に整理することができよう。この点については、プロバイダ責任制限法は何も規定してはいないが、刑事免責も含めてこのような問題を仮に法律上規定するとした場合に、果たしてうまく規定することができるかを、プロバイダ責任制限法の取り扱う範囲に含めて検討するべきかどうかを考えるべき。

 別のパブコメでヤフーの意見が公表されていて、プロバイダは刑事責任の免責を望んでいるようです。

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/34083.html
ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集の結果
 総務省は、「光の道」構想の実現に向け、ICT※の利活用を阻む制度・規制等について、平成22年7月16日(金)から同年8月20日(金)までの間、意見募集を行いました。その結果、528件の意見が提出されましたので、提出された意見を公表します。


http://www.soumu.go.jp/main_content/s-news/2010/34083/i396.pdf
意見提出者
ヤフー株式会社
1.項目
プロバイダ責任制限法とプロバイダの刑事責任
2.既存の制度・規制等によってICT利活用が阻害されている事例・状況
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)は、プロバイダの民事上の損害賠償責任を制限しているが、刑事上の責任については制限していない。
民事上の責任だけを考えると、プロバイダ責任制限法はプロバイダに対して常時監視義務を課すものではなく、情報の流通によって権利侵害がされている旨の通知を受けた場合(あるいは自ら知った場合)にはじめて対応すれば足りる。
しかし、刑法における幇助犯の構成要件はかなり広く捉えられつつある中、違法な情報の監視等をしていないことが当該情報の発信を幇助したと評価される可能があり、結果としてプロバイダには常時監視義務が課せられているのに等しい。
また、構成要件該当性の判断がプロバイダにとっては困難であり、違法性の錯誤は故意を阻却しないことから、プロバイダ自身の安全確保のために危なそうな情報は全て削除せざるを得ない。
そのため、刑事分野において表現規制をしているものについては、プロバイダに対して実際の構成要件を超えて広く削除することを促す結果となっており、インターネットを利用して情報を発信・収集しようとする一般国民の表現の自由を侵害する結果をもたらしている。
3.ICT利活用を阻害する制度・規制等の根拠
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
4.ICT利活用を阻害する制度・規制等の見直しの方向性についての提案
プロバイダ責任制限法の適用範囲を刑事上の責任にも拡大する。
これにより、プロバイダは萎縮することなく特定電気通信役務を提供することができ、インターネットを通じた情報の流通を促進することができる。