吉田検事が注5で挙げた文献で紹介されている判例は、全部弁護人奥村の事件です。
奥村事件では、
東京高裁H16.6.23は管理者の単独正犯説(共謀否定)
東京高裁H30.2.6は東京高裁H16.6.23に従い管理者の単独正犯説(共謀否定)→上告中(第一小法廷)
となっていて、東京高裁H16.6.23に対する「被告人が直接児童ポルノの蔵置を他人に働きかけたのであればともかく,そのような直接的行為を認めることができない事案においては,児童ポルノ蔵置後の不作為を問題とすることが不可欠であり,他人により蔵置された児童ポルノを削除等する保障人的地位・作為義務をプロパイダに認めた理論的根拠が示されていないなどという批判がされている(山口・前掲「プロバイダの刑事責任」115頁)」という批判を、第一小法廷山口厚判事自身がどう処理するかが見物です。
第1 はじめに
インターネット上のウェブサイトで画像等の投稿を受け付け,不特定多数の者に閲覧させる, いわゆる「投稿サイト」が多数開設され, その中には,投稿されたわいせつ画像を有料会員に閲覧させることにより利益を得ているものもあり, 近時, このようなサイトを管理.運営する者の刑事責任が問題となっている○
本判決は,投稿サイトを管理運営する法人の実質的相談役等である被告人2名について, わいせつ動画の投稿者との共謀によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成立を認めたものであり,事例判断ではあるものの,実務上参考となると思われることから,紹介する次第である。
なお,本判決には, わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成否のほか,公然わいせつ罪の成否及び証拠採用に関する訴訟手続の法令違反(注1)等の論点も含まれているが,本稿では,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成否に関する部分に限って紹介する。
また,本稿中,意見にわたる部分は, もとより筆者の私見である。
・・・・・・・・・
第5おわりに
プロバイダの刑事責任については, 「違法コンテンツをプロバイダが自ら積極的に利用するために, たとえばアップロードを事実上,推奨するような状況の下で,蔵置された違法コンテンツをあえて放置したような場合において, きわめて例外的に」刑事責任が認められるとする見解が有力に主張されているが,作為犯なのか不作為犯なのか,正犯なのか共犯なのか,共犯として共同正犯なのか常助犯なのかなどという点が問題とされている(注5)。
そのような中で,投稿サイトを管理・運営する被告人らについて,投稿者(実行犯) との黙示の意思連絡によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の共謀共同正犯の成立を認めた本判決は注目すべきものであるが,同種事案について,今後の裁判所の判断を注視していく必要がある。
(注5)大コンメンタール刑法第三版9巻52頁参照。
また,参考文献として,例えば,山口厚「プロバイダの刑事責任」(情報ネットワーク法学会他編「インターネット上の誹誇中傷と責任」111頁以下),佐伯仁志「プロバイダの刑事責任」(堀部政男監修「プロバイダ責任制限法実務と理論」161頁以下)等がある。
大コンメンタール刑法第三版9巻52頁
⑤のプロパイダの刑事責任については,正犯なのか共犯なのか,正犯だとして作為犯なのか不作為犯なのか,不作為犯だとして作為義務の根拠は何かなどという点が問題とされており, ["違法コンテンツをプロパイダが自ら積極的に利用するために,たとえばアップロードを事実上奨励するような状況の下で,蔵置された違法コンテンツをあえて放置したような場合において,きわめて例外的に」刑事責任が認められるとする見解が有力に主張されている(山口厚「プパイダの刑事責任」情報ネットワーク法学会・テレコムサービス協会編・インターネット上の誹誇中傷と責任124).
なお, ドイツではプロパイダの不作為犯としての刑法上の責任を認める見解が主張されており(只木誠「インタネットと名誉段煩」現刑8巻47頁),プロパイダに削除要求がなされたが,それをあえて放置した場合には,積極的な陳列と同視し得ることを理由に,わいせっ物公然陳列罪の成立を認める余地があるとするなど,上記有力説よりも広い範囲でプロバイダ、の刑事責任を認める余地があるとする学説もある(伊藤ら・各論〔島田421頁,只木・前掲49良).
横浜地裁、平成15年12月15日判決(奥村徹「プロハイタの刑事責任判例の考察」前記インターネット上の誹訪中傷と責任149良〕は,被告人は,サーパコンビュータの記憶装置であるディスクアレイにiP掲示板」と称するインターネット!-のホームページを開設し管理運営するものであるが,インターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者が送信した児童ポルノである画像合計22画像分を記憶・蔵置させたままこれらを削除せず,もって,児童ポルノを公然と陳列したという公訴事実について, ["児童ポルノ公然陳列罪において不作為の態様による犯罪の成立を否定すべき理由はな」いとして不作為による児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた.
これに対する控訴審判決(東京高判平16・6・23. 奥村・前掲151頁以下ーなお,本判決については被告人が上告申立をしたが,最決平19・3・29公刊物本投載は,特段の理由を付することなく棄却している)は, I被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本件の犯罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信さぜて本件ディスグアレイに記憶・蔵置させながら, これを放十置して公然陳列したことである.そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーパーコンピュータによるみ;件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる.したがって,この陳列行為が作為犯であることも明らかである.。」「確かに,被告人が,本件児童ポノレノを削除するなど陳列行為を終了さぜる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解される
が,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される.Jなどと判示した上,作為義務の内容等が明示されていないとの控訴趣意に対しては, 「被告人の本件犯罪行為の主要なものは作為犯である上,所論のいう不作為についても,原判決は,被告人は,本件陳列行為の開始当初から,被告人に児童ポルノ画像の未必的な認識があったとしていて,この点を明確にしている.また,本件陳列の対象となっているのは,児童ポルノであって,犯罪行為を構成するものとしてすみやかに削除されるべきものであるから,削除義務の内容,根拠等も原判決の認定事実自体から明らかにされていると解することができる」などと判示した.
上記東京高裁判例に対しては, 被告人が直接児童ポルノの蔵置を他人に働きかけたのであればともかく,そのような直接的行為を認めることができない事案においては,児童ポルノ蔵置後の不作為を問題とすることが不可欠であり,他人により蔵置された児童ポルノを削除等する保障人的地位・作為義務をプロパイダに認めた理論的根拠が示されていないなどという批判がされている(山口・前掲「プロバイダの刑事責任」115頁).未だ判例・学説の蓄積が少ない論点であり,違法コンテンツに対する管理処分権限の有無や管理者の目的の有無等も検討した上,事案ごとに犯罪の成否を判断すべきであろう(本稿脱稿後,佐伯仁志「プロバイダの刑事責任」 プロバイダ責任制限法実務と理論施行10年の軌跡と展望別冊NBL141号161頁に接した).