児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

プロバイダの刑事責任について只木説

 作為義務の根拠は「条理」のようです。

只木誠「刑事法学における現代的課題」P161
Sieberは,このように,危険源を監視する保証人的地位をTDG 5条2項から導き,プロバイダーの責任を否定してきたこれまでの見解からこれを肯定する見解へと立場を改めるに至ったのである。もっとも,TDGが立法化される以前の法状況からも同様の帰結を導くことができるとする見解もあり, TDG5条を刑法適用前の「フィルター」と解する彼の立場からするとむしろこのような見解に帰着すべきではないかと思われる。これによれば, TDG 5条類似の規定を有しないわが国の刑法理論においても,保証人的義務が基礎づけられることになる。この点は,今後さらに検討されるべき課題である。 

ところで,わいせつ物頒布罪に関してであるが,わが国において,プロバイダーの責任については,その可能性を示唆する見解とこれを否定する見解がある。 前者は,一般に向けられた「公然性を有する通信」24)については,一対一を前提とする従来の通信とは同一に論じえないこと,ホームページの開設等のサービスを提供している点において,サービスプロバイダーの責任は,通信の単なる媒介者とは異なって解する余地があること,諸外国でも,一定の範囲ではサービスプロバイダーも責任を負うとする理解が一般化しつつあることを根拠とする。そして,わが国の刑法解釈としても,保証人的地位を認めるために排他的支配を要求する説からは,アップロードした者については,自ら削除することは期待できないとすれば,排他的支配が認められ,それゆえプロバイダーに情報を削除する保証人的地位を肯定しうるとする。したがって,プロバイダーがあえて放置したような場合には,削除義務が肯定され,正犯となり,排他的支:配がないとすれば,共犯責任が問いうることになるとするのである。 
これに対して,プロバイダーの責任を否定する見解は,電気通信事業法に照らして,サービスプロバイダーは「電気通信事業者」であり,刑法上の責任を負わないとする。また,プロバイダーには,ホームページを削除する法的作為義務もなく,先行行為は法益にとって危険な行為でなければならないから,先行行為に基づく作為義務もなく,危険源より危険に曝される法益の保護を事実上引受けておらず,したがって危険源の所有者,竹理者でもないとする27)。もっとも,否定説もプロバイダーが,積極的にわいせつ画像のアップロードをあおり,奨励した場合には,わいせつ物公然陳列罪ないしその幇助に該当しうるとする。 
さて,選択・削除等の編集権を有するサービスプロバイダーにあって,これを何らの責任も負わない「電気通信事業者」とすることは困難ではなかろうか。思うに,権利・義務及び削除権限を定める会U規約は,パソコン通信サービス契約約款であると解しうること 違法な内容を認識するに至ったにもかかわらずこれを削除しなければ被害の拡大が予想される状況のもと,これを未然に防ぐことが唯一できる立場にあることなどを考えると,「公然性を有する通信」を利用するという一種の特権を行使する出版者としてのプロバイダーに条理上の作為義務を認めることは不可能ではないと思われる。 

ドイツで主張されている,違法な内容の削除がプロバイダーの組織範囲内に属するときは,第三者による犯罪行為に対する保証人的義務が肯定されるとする考えが参考にされるべきである。ただ,上述義務は,積極的な監視義務まで課するものではなく,プロバイダーは具体的な事実を認識した後に適切な措置を講じれば足りるとすべきであろう。 ドイツのTDG 2条の立法趣旨にいうように事実上不可能なことを強いることはできないからである。また,長期にわたり積極的に違法な情報を利用し,情報を自己のものとしたような限られた事例などでは正犯,あるいは行為者に積極的に働きかけた事例などでは教唆犯ということも可能であろうが,ほとんどの場合プロバイダーは,間接的に正犯行為(結果)を助けたものとして,不作為の従犯の責任を負うにとどまるであろう29)。刑事責任は個人の被害賠償の限界をも射程においた民事責任とは異なるというべきである。いずれにせよ,立法論としては,一定の要件のもとに削除義務をプロバイダーに課して,その義務違反について処罰の対象とすることが望ましいが現行法の解釈としてもその責任を追及することは「理論上」可能であると思われる。