児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「盗撮はしたが、強制わいせつとは思っていません」

 昔から判例上撮影行為はわいせつ行為(刑法175)なので、13歳未満の裸を撮影する行為は、強制わいせつ罪(175条後段)になります。
 盗撮の場合、3項製造罪は「姿態をとらせ」がネックになるのですが、カメラの前で「服脱いで〜」なんて指示している場合には、成立を認める裁判例もあります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100716-00000208-mailo-l34
逮捕容疑は09年11月、島根県内の医院で診療中、当時11歳と8歳だった女児の裸の上半身を、診療室の机の上に置いてあった小型のデジタルカメラで撮影した、とされる。
 被告は同じ医院で同年7月、当時12歳だった女児の裸の上半身を撮影したとして逮捕、起訴された。調べに対し「盗撮はしたが、強制わいせつとは思っていません」などと話しているという。

 児童ポルノ製造罪の関係で問題になるので新しい判例があります。主張が似ているのは控訴理由を使い回しているからです。ルーティーンの主張なのにそんなにあっさりと否定されていないところが難しさを反映しています。
それと、判例が公開されていないので、よそでどんな判決が出てるのかがわからないのです。弁護人も黙ってるし。

東京高裁H22.3.1
第2法令適用の誤りの主張について
論旨は,要するに,原判決は,原判示第1の女児の陰部及び同第2の女児の下着をそれぞれカメラ付き携帯電話機で撮影した行為(以下「本仲各撮影行為」ということがある。)がいずれも刑法176条の「わいせつな行為」(以下,単に「わいせつ行為」ということがある。)に当たると判示しているが,?これらの行為は,被害者との身体的接触がないからわいせつ行為には当たらず,?仮に,従来の議論ではこれらの撮影行為がわいせつ行為に当たるとしても,平成16年に児童買春等処罰法により児童ポルノ製造罪が設けられた以上は,上記撮影行為は同罪で評価されるべきであって,強制わいせつ罪に当たるとすることは許されないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。
しかしながら,?については,刑法176条の「わいせつな行為」とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいい,被害者との直接的な身体の接触を必要とするものではないと解するのが担当である。
また,?について
は,児童ポ2ルノ製造罪と強制わいせつ罪とは保護法益や処罰対象の範囲が異なっており,後者についてより重い法定刑が定められていることに照らしても,所論は失当である。
さらに,所論は,公然わいせつ罪に当たる行為及びいわゆる迷惑防止条例上の盗撮行為と強制わいせつ罪に当たる行為とを区別する必要があるともいうが,同様の理由により失当である。

仙台高裁H21.3.3
2控訴趣意中,法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について
(1)所論は,原判示第2から第4までの各事実について,
?原判決は,被告人が各被害児童の陰部をデジタルカメラ等で撮影した行為をわいせつな行為と評価しているが,刑法176条のわいせつな行為は身体的接触を伴うものに限定されるから,上記各行為に同条後段を適用した原判決には法令適用の誤りがある,
?原判決は,各被害児童の陰部をカメラ機能付き携帯電話やデジタルカメラで撮影した電磁的記録を携帯電話機やSDカードに記録した行為をも強制わいせつ罪の実行行為としているが,仮に撮影行為がわいせつな行為と評価されるとしても,撮影後に記録媒体に記録する行為は,いかなる意味においても対人的行為ではないし,性的自由を害するものではなく,強制わいせつ罪の実行行為とはいえないから,これらの行為をわいせつな行為として同条後段を適用した原判決には法令適用の誤りがある,
などと主張する。
(2)しかしながら,
?については,刑法176条のわいせつな行為は,法文上,態様について限定がなく,また,自己の裸体を他人の目に触れさせたくないという気持ちは,人間の本質的部分に由来するものであるから,強制わいせつ罪の保護法益である性的自由には,自己の裸体を他人に見られたり写真等に撮影されたりしない自由を含むものと解される。そうすると,自らの性的欲求を満足させるために,各被害児童の陰部をデジタルカメラ等で撮影した被告人の行為が,同条にいうわいせつな行為に該当することは明らかというべきである。所論は,公然わいせつ罪の主たる保護法益が善良な風俗であるとしても,多少なりとも見せられた者の性的自由が害されているから,強制わいせつ罪と公然わいせつ罪とを区別するためには,強制わいせつ罪については身体的接触を要件とすべきであるなどとも主張するが,所論も認めるとおり,公然わいせつ罪は善良な性的風俗の侵害を本質とするものであり,わいせつ行為を見せられた者の性的自由を侵害する場合があるとしても,それは副次的なものにすぎず,直接的な性的自由の侵害を本質とする強制わいせつ罪とは行為態様において大きな違いがあるといえるのであって,身体的接触を強制わいせつ罪の要件としなければ両者を区別し得ないものではない。所論は独自の見解に基づくものであって採用の限りでなく,この点において原判決に法令適用の誤りはない。
?については,上記のとおり被害児童の陰部を撮影する行為は,刑法176条のわいせつな行為に該当するというべきところ,撮影の際に電磁的記録であるその画像データが携帯電話機やSDカードに同時に記録されるような場合には,このような記録行為も撮影行為と不可分なその一部と評価できるのであるから,原判示第2から第4までの各事実における各記録行為も撮影行為の一部としてわいせつな行為に該当するということができる。したがって,この点においても原判決に法令適用の誤りはない

名古屋高裁H22.3.4
 論旨は,原判示第2,第3,第6,第7及び第8の各事実について,同一機会の強制わいせつと児童ポルノの製造であるから,観念的競合とすべきであったのに,両者を併合罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 確かに,所論のとおり,被害児童らに対し手淫ないし口淫させた姿を撮影した行為は,児童ポルノ製造の実行行為となるほか,強制わいせつ罪の実行行為にも当たるから,強制わいせつの事実において上記撮影の点が起訴,認定されていないことを考慮しても,上記の行為は1個の行為が児童ポルノ製造罪及び強制わいせつ罪の2個の罪名に触れるものというべきであって,両罪は観念的競合となると解される。原判決にはこの点において法令適用の誤りがあるといわざるを得ないが,正しく法令適用した場合と原判決のした法令適用とにおいて最終的な処断刑の範囲は変わらないから,その誤りは判決に影響を及ぼすものではない。論旨は理由がない。





軽い迷惑条例違反だと思ったら強制わいせつ罪だったというのはあてはめの錯誤なんでしょうかね。

第38条(故意)
1 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。