児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

前払いの児童ポルノ「販売代金」は、「犯罪収益」(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律2条2項)か?

 犯罪収益となるには、前提犯罪はどこまで完成していることを要するのか?という問題です。既遂・未遂・予備の段階、構成要件該当性・違法性・有責性で問題になります。
 文献がないので、筆が進みません。
 裁判所も同じはずで、2件で問題になっているのですが、判決では多分、理由付けが違うと思います。

(1)前提犯罪が成立しないと「犯罪収益」とならない。
 2条2項は「犯罪行為の・・・」と定義づけていることから、「犯罪収益」となるためには「犯罪=構成要件該当性+違法性+有責性」が要件となることが明らかである。
 前提犯罪について、構成要件該当性・違法性・有責性のいずれかが欠ければ、「犯罪収益」とはならない。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
第2条(定義)
2 この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産

(2)前提犯罪が既遂犯であるとき(未遂・予備がないとき)は、既遂にならないと「犯罪収益」とならない。
 別表*1に掲げられた罪の一覧は、予備罪・未遂罪があるものは予備罪・未遂罪まで列挙されている限定列挙である。

別表(第二条、第十三条、第二十二条、第四十二条、第五十六条、第五十九条関係)
一 第三条(組織的な殺人等)、第四条(未遂罪)若しくは第六条第一項第一号(組織的な殺人の予備)の罪、同号に掲げる罪に係る同条第二項(団体の不正権益に係る殺人の予備)の罪又は第十条第一項(犯罪収益等隠匿)若しくは第二項(未遂罪)の罪
二イ 刑法第百八条(現住建造物等放火)、第百九条第一項(非現住建造物等放火)若しくは第百十条第一項(建造物等以外放火)の罪、同法第百十五条の規定により同法第百九条第一項若しくは第百十条第一項の例により処断すべき罪又はこれらの罪(同法第百十条第一項の罪及び同項の例により処断すべき罪を除く。)の未遂罪
ロ 刑法第百三十七条(あへん煙吸食器具輸入等)若しくは第百三十九条第二項(あへん煙吸食のための場所提供)の罪又はこれらの罪の未遂罪
ハ 刑法第百四十八条(通貨偽造及び行使等)若しくは第百四十九条(外国通貨偽造及び行使等)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第百五十三条(通貨偽造等準備)の罪
ニ 刑法第百五十五条第一項(有印公文書偽造)若しくは第二項(有印公文書変造)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪、同法第百五十七条第一項(公正証書原本不実記載)の罪若しくはその未遂罪若しくはこれらの罪(同法第百五十七条第一項の罪の未遂罪を除く。)に係る同法第百五十八条(偽造公文書行使等)の罪、同法第百五十九条第一項(有印私文書偽造)若しくは第二項(有印私文書変造)の罪若しくはこれらの罪に係る同法第百六十一条(偽造私文書等行使)の罪又は同法第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪

 これは、予備罪−未遂罪−基本犯がある場合、予備罪−未遂罪がある場合にのみ、予備・未遂段階でも犯罪収益となるというのが法の趣旨であることを示す。
 ところで、代金先払の児童ポルノ提供の場合の代金の授受は、提供罪の関係では予備行為であるところ、児童ポルノ提供罪には予備罪がないから、別表にも児童ポルノ提供予備罪はあげられてない。
 だとすれば、提供罪の予備段階にとどまるときはいまだ「犯罪収益」といえないことになる。