児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

送信可能化権侵害罪と事前抑制禁止の原則

 またwinnyだというので、虫干しして反芻してるんですが、京都地裁は「既に発表済みの著作物について、著作権者以外の者が無断で送信可能化すること」は表現行為ではないといってるようです。
 やっぱり憲法判断より先に著作権法の解釈をやっているので、この理由付けは失当ですね。私物へのビラ貼りと同様に財産権を侵害する表現行為としての可否とか規制の程度も問題が出てくるでしょう。

京都地裁h16.11.30
弁護人の主張③及び④
③ 送信可能化権侵害罪は,警察や裁判所という公権力が,公衆送信という表現行為について,表現行為に先立ち,その内容を審査して著作権侵害と認めるとき,強制捜査ないし罰則により,その全部又は一部を事前に禁止することを可能とするものであるから,これは,憲法21条2項が禁止する検閲に該当し,無効である。
 ④ 送信可能化という行為は,発信者の表現行為が受信者に受信されて完了する前の準備段階をいうのであるから,これを処罰の対象とすることは,表現行為の違法な事前抑制というべきであり,許されない。
・・・・
 ⑬ 弁護人の主張③及び④について
 憲法21条2項にいう検閲とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき,網羅的一般的に発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものを指すと解されている。著作権法119条1号,23条1項は,既に発表済みの著作物について,著作権者以外の者が無断で送信可能化することを禁止するものであって,著作権を有する者が著作物を表現することを禁止するものでないばかりか,その目的も,著作物の著作権を保護することにあり,むしろ著作権者の表現行為を正当に保護するための規定であるから,同法119条1号,23条1項が,憲法21条2項にいう検閲に該当しないことはもとより,表現行為の違法な事前抑制にも何ら該当しないことは明らかである。
 弁護人の主張は明らかに失当である。

 事前抑制に他ならないのであれば、これくらいの比較較量が必要なはずです。
 対立利益は故人の財産権。
 著作権侵害に至るかは内容判断。
 罰則は懲役5年。
 強制捜査に口頭弁論なし。

福岡高裁s58.8.24
 所論は要するに、原判決は、本件びら貼り行為が人権のうちでも最も重要な政治的表現の自由の一態様であることを実質的に無視し、右自由の制約が許される場合を明白かつ現在の危険が存するときに限定するなど必要最小限度の規制手段を選択することもなく、単純に合理性の基準に基づく価値比較衡量をなし、更に、右条例が人の主観によつて性質が大いに異なり、意味の不明確な美観風致を保護法益としてびら貼りを規制したり、一定区域内の電柱等に対するびら貼り等を知事の許可にかからしめて表現活動の事前抑制を認め、しかもその違反に対して、罰則を規定するのは正当ではないのに、これらを是認し、本件について佐賀県屋外広告物条例二二条二項一号、五条一項四号を適用しているが、右規定は憲法二一条一項に違反し無効である。従つて、原判決は法令の適用に誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、破棄されるべきである、というのである。 そこで検討するに、先ず、「明白かつ現在の危険」の基準は、規制の目的が表現そのものを抑制することにある場合に適用されるものであつて、その目的が表現そのものではなく、単に表現の態様を抑制するにすぎない場合には適用されないものと解するを相当とするところ、一定区域内の電柱に対するびら貼りを規制したとしても、規制外のびら貼りはもとより、びら配り、街頭における広報活動等他の態様による表現活動の余地は残されているのであるから、右法条による規制は表現そのものではなく、単に表現の態様を抑制するにすぎないものであることが明らかである。そうすると、そのような表現行為についてはたとえ人権のうちでも特に尊重されるべき政治的表現行為であつても、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を加えることが可能であるといわなければならない。
 次に、佐賀県屋外広告物条例(昭和三九年佐賀県条例第四三号)は、屋外広告物法(昭和二四年法律第一八九号)に基づいて制定されたもので、右法律と右条例の両者相俟つて、佐賀県内における美観風致を維持し、及び公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示の場所及び方法並びに屋外広告物を掲出する物件の設置及び維持について必要な規制をしていることは明白である。ところで、所論はこの「美観風致」という概念は、意味不明確な、人の主観によつて性質が大いに異なるものであるから、これをもつてびら貼りを禁止する保護法益とすることはできないというのである。なるほど、美観という概念は美学的には多義的であり、また、美観を増進するという場合は主観性の入り込む余地があるであろうけれども、同法及び同条例にいう「美観風致の維持」とは、そのような美学的概念でも、また、そのような積極的美の創造を対象とするものでもなく、現在ある人工美及び自然美を維持する、換言すれば、現在ある人工美及び自然美を害する行為を規制するものであるから、社会通念によつて客観的に決しうるものであり、法概念としてその価値を否定されるべきほどに不明瞭なものであるとは決して考えられない。そして、電柱へのびら貼りの貼付はそれが貼りつけられた時点での不調和な様相だけでなく、時日を経過するうち雨風にさらされて荒廃した様相を呈するときは一層見苦しく、地域の美観風致を害すること等を考慮するとき、特に美観風致維持の要請の大きい一定区域内の電柱等に対するびら貼り等を知事の許可にかからしめて、表現活動の事前抑制を認め、その違反に対して五万円以下の罰金刑という比較的軽い刑罰を科したとしても、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であるから、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解することができる。

東京高裁h6.10.27
5 控訴人は、控訴人の主張7記載の理由により、原判決が控訴人文書の発行事前差止仮処分を認めたことは憲法違反である旨主張する。
 出版物の頒布等の事前差止め、すなわち表現行為に対する事前抑制は、当該出版物がその自由市場に出る前に抑止して、その内容を読者の側に到達させる途を閉ざし、又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるを得ないことなどから、事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられ、したがって、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し、検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容され得るものと解される(最高裁昭和六一年六月一一日判決・民集四〇巻四号八七二頁参照)。
 ところで、著作権侵害行為については、著作権法一一二条により事前差止めが認められているし、表現行為に対する事前抑制が許容されるために右のような要件が必要であるとされる前記理由に鑑みれば、事前差止めであっても、前記のような弊害が生じる危険性がほとんど存しない場合には、当該事前差止めは、実質的には、事前抑制に当たらないものと解するのが相当である
 本件において、控訴人は、昭和六一年九月から、被控訴人新聞が発行される毎に継続的に控訴人文書を作成・頒布してきたものであり、すでに作成・頒布された控訴人文書は被控訴人新聞の編集著作権を侵害するものであること、原判決が発行事前差止めの対象とした原判決別紙文書目録(一)、(二)の文書は、すでに発行・頒布された控訴人文書の構成と同一であって、具体的な要素(素材)の点は別として、その他の内容はすでに公のものとされているとみてよいこと、右文書目録(一)、(二)の記載は、侵害文書を構成するものとしての特定として明確であること、及び、原判決は口頭弁論を経てなされたものであることを総合すると、原判決が、控訴人文書に対する発行事前差止めの仮処分を認めたことによって、前記のような弊害が生じる危険性があるとは認め難く、実質的には事前抑制に当たらないものと認めるのが相当である。