児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

遊客(非使用者)の注意義務

 デリヘル・ヘルス・児童ポルノの転売者(非製造者)の年齢認識の年齢認識については、児童ポルノ法9条、児童福祉法60条4項の「使用者の注意義務」が適用されません。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第9条(児童の年齢の知情)
児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

児童福祉法第60条
④児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

 だから、故意犯に限られるし、使用者に要求される次のような確認義務はない。はずです。

岐阜家庭裁判所昭和57年6月23日
二 次に「認識のないことについての過失」の存否について考察する。
1 周知のように満一八才未満の婦女子が芸妓として稼働するを希望する余り、自からあるいはその保護者、周旋人等を通じ、その年令を偽り満一八才以上の如く装い、雇主を欺いて所期の目的を達する事例が世上決して稀でないことは経験上明らかである。
2 また身体の外観的発育状況は、甚だしい個人差があり(近時その傾向が特に顕著でもある)、必ずしも年令とは一致しないこともまた自明の理である。
3 法がかかる婦女子を雇入れる者に対し、児童の年令につきその不知を以つて、換言すればそれにつき雇主の主観的認識を以つて処罰を免れるを得ずとした所以は右実情にある。逆に言えば児童の年令の確認につき、客観的資料に基づいて正確を期するための調査方法を講じた場合は、年令を知らないことにつき過失がないものとして、犯罪の成立を阻却するもまた当然の法意と言うべきである。
4 ところで右客観的資料とは、一般には戸籍謄本、戸籍抄本、住民票等の身分関係を証する公文書が最も重要かつ有力な資料であるが、右公文書は近時他人が勝手に入手することが若干制約されるようになつたけれど、なお依然として他人の身分関係証書を自己のものとして悪用する事例は決して少なくない。
5 にもかかわらず現在当該人物の同一性を私人が確認できる客観的資料としては、右公文書が一般的でかつほとんど唯一のものであり、またその客観的手段、方法としては右公文書を取寄せたり相手から呈示を求め、本人や周旋人と面談し、身分関係を聴取等して、
右公文書等の記載と照合をはかるほか、他に簡易にして適切、有効な手だては考えられない。(それ以上の官憲への調査依頼や学校照会等は当該婦女子のいわゆるプライバシーの侵害の観点から決して妥当とは言い難いのみならず、例えば児童やその父兄が他人になりすましている以上右調査が、果してどこまで意義があるのか疑問の余地なしとしない。)而して右調査義務の程度は、右公文書のいずれか一の呈示もしくは入手で足りるが、本人あるいは同伴者がいる場合は、同人らからの事情聴取は単に当該婦女子の氏名、生年月日を確認するだけでは十分とは言えず更に該文書に記載してある本籍、世帯主(筆頭者)、続柄等にも及ぶべきであり、かつ保護者が同席していない場合は父兄への問い合わせが必要であろう。
(仮に本件のように親元からの回答が虚偽である可能性が極めて高いとしても、かかる結果の蓋然性は、確認義務を免れるものではないこと論を俟たない。)
 蓋し、かく解することが児童福祉の理念に最も則し、また雇主に対しても決して苛酷な義務を強いるものではないからである

千葉家庭裁判所判決昭和42年5月10日
 (弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は被告人が右○藤○子を使用するに際し、同女が一五歳未満であつたことを知らなかつたことにつき、過失がなかつたものであると主張する。
 第一に弁護人は判示雇入れに際し、○藤○子がその実姉○藤△子(昭和一九年一〇月一八日生)の氏名を詐称していたものであつて、被告人は船橋市役所戸籍係吏員に問い合わせをしたところ、○藤△子が実在の人であり、生年月日が符合していたため、○藤○子の言を信じたものであると主張するけれども、バー等の女給応募の女性中には氏名年齢を偽る者が相当多いことは周知の事実であり、被告人は○藤○子がその述べた年齢より若年であるだろうと危ぶんでいた事実がありながら、同人の戸籍謄抄本、住民票謄本、米穀通帳その他身分を証すべき書類のいずれかの提出を求め、または保護者に問い合せるなど年齢確認につき適切な方法を講じなかつたものであつて、右年齢確認方法についての注意義務は風俗営業者に当然課せらるべきものであつて(前記被告人が船橋市役所戸籍係吏員に対し、○藤△子の生年月日の問い合わせをしたとの被告人の当公廷における供述は突如なされたものであり、且つ具体的説明を欠いているため措信し難く、仮に該事実があつたとしても前記注意義務を尽したものとは認められないところである)、前記年齢確認方法を履行しなかつた以上過失がなかつたとの主張はこれを容認することができない。
 第二に弁護人は風俗営業者の女子従業員雇入れにつき、監督官庁において、前記年齢確認方法の履行につき、放任し自由化させ、適切な行政指導を欠いていると主張し、右行政指導が一般的には充分でない事実は確認し得るところであるが、児童福祉の理念よりして行政指導のいかんに拘らず児童の保護育成に努める責任は風俗営業者に重く課せられるものと謂うべく、被雇用者の年齢確認の義務は、行政指導の不備により、免責となるものではない

福岡高等裁判所昭和28年12月5日
従業婦が所轄警察署長から県条例に基く風俗営業従業者証の下附をうけて稼動していた事実に基き、貸席業者がその者の年齢を満18歳以上だと信じたとしても、右従業者証がたんに貸席業者の提出した雇入届書のみに準拠する便宜な取扱により交付されていた実情に在つた場合において、みずから戸籍謄本、同抄本、移動証明書、配給通帳等の公信力ある書面等により、客観的に通常可能な調査方法を講じて、児童の年齢を確認する措置を採つた形述の認められない限り、児童を使用する者が、児童の年齢を知らないことに過失がないものということはできない。

京都家庭裁判所判決昭和30年2月17日
 併し乍ら凡そ児童にして自ら接客婦たらんとする者は既に性経験を有しその容貌態度が年長けて観えこれを奇貨措くべしとなして雇主に対して十八歳以上である旨虚偽の年令を告げるのを常態とする。次に児童福祉法の立法趣旨は一般に児童の心身の健全な発達を社会的に確保し保護するを目的とし、その立法趣旨によれば十八歳なる年令はこれを絶対的、客観的な限界と解し特に児童の福祉を害すること甚だしい淫行をさせる行為についてはその年令が児童なりや否やを判断する為め年令確認方法につき相当高度の調査義務が課せられている。
 されば本件に於けるが如く児童に淫行を業とせしむる為め雇入れる場合に於ては少くとも戸籍謄本同抄本又は米穀通帳等公信力ある文書を取寄せてその年令を確認すべき周到な注意義務が課せられている。而もこの調査確認は必ずや雇入以前に為すべきことを命ぜられていることは既に数年前警察当局、労働監督局より通達戒告ずみで被告人も又熟知のところであるにも不拘本件に於てはこの調査確認義務を為さず漫然と〇ツ〇の言とその態度とにより満二十歳と誤認し以て淫行をさせたことは証拠により明白である。
 次に、右年令の確認は必ずや被告人自身の責任に於て雇入茲にこれを為すべきものであつて被告人は同業組合の紹介により雇入れたりと主張するも本件に於ては告訴外山秀なる貸席業者が為したる右〇ツ○の就業届を提出したる事実あるにすぎざるとと叉被告人提出の戸籍謄本も既に右○ツ○が被告人方を去りたる後入手しなるものにして以上の事実を以てしても未だ到底被告人の年令確認についての錯誤につき過失なしと認め得す蓋し本件児童福祉法違反につき被告人に刑責あることは刑事理念として事実錯誤について過失責任を負わしむる特則であると解すべきであるからである

名古屋高等裁判所判決昭和31年9月24日
 児童福祉法第六十条第三項には、児童を使用する者は児童の年齢を知らないことを理由として、前二項の規定による処罰を免れることができない。但し過失のないときはこの限りでない。と規定しているので、同条項の法意から考察すると、被告人等が為した前記調査その他の年齢確認の程度では、未だF子の年齢確認について社会通念上通常採り得べき十分な措置を採つたものということはできない。蓋し、若し右下子の戸籍抄本の交付を受けることができなかつたとすれば、更に同人の住民登録、米穀受給、移動証明の点などにつき、詳細且慎重な調査を為す必要があり、右調査をしていたとすれば、必ずや同人の年齢を確認することができたと思料せられるのである

宇都宮家庭裁判所栃木支部判決昭和33年2月12日
(一)弁護人は児童の年令確認についてはR、H及び児童本人に聞きただし同人らからいずれも満十八歳以上である旨を告げられたのでそれを信じたもので満十八歳未満の児童であることを知らずこれを知らなかつたことは被告人の過失によるものでない旨を主張する。
 しかしながら児童を従業婦として住込ませようとするような場合には関係人及び児童本人が雇主に対し故意に年令を偽り満十八歳以上であるように装うことは稀有ではなく児童ら自身の年令告知が必ずしも真実と一致するものではないのであるから業者としてはそれ以上自ら進んで年令確認について戸籍謄本その他につき正確な調査をすべきに拘らず証拠によれば被告人はこれらの処置をとらず漫然同女の虚偽の年令告知を軽信して児童でないと誤信したというのであるからいまだもつて被告人に年令確認につき過失がなかつたものと謂うことはできない

東京高等裁判所判決昭和33年9月3日
 〔判旨〕 被告人が三及び午の両女の各年齢が一八才未満であつたにも拘らず、そのことを確認すべき適切な方法をつくすことなく、両女をして失々売淫させたという原判示第一及び同第二の各事実は、いずれも、原判決の挙示する証拠によつて、優に、証明することができるのであつて、記録を精査してみても、原判決の右各事実の認定には、いささかも、誤ある虞の見るべきものはない。そもそも、人の年齢を確認すべき適切な方法といえば、戸籍簿上に記載するその生年月日を知るの措置に出ずることであろう。唯本人の自称する年令のみをそのまま信用し、右のごとき措置に出でず、従つて、その正確な年齢につき知るところがなかつたとすれば、それは、まさに原判決のいうように、「適切な年齢確認の方法をつくさ」なかつた場合に該るものというべきであつて、児童福祉法第六〇条第三項にいうところの、「年齢を知らないことにつき過失のないとき」には該らないものといわなくてはならない。それ故に、原判決がその認定にかかる右各事実に対し、判示法条を適用して被告人を処断したとて、何等違法とすべき筋合ではない。

大阪家庭裁判所昭和33年9月6日
そもそも児童福祉法第六十条第三項による児童を使用する者に対しては年齢確認についてどの程度の調査義務が要請されるべきか明文がなく、結局同法第一条に掲げる児童福祉の根本精神の実現を堅持する観点に立ち社会通念によつて決すべきであると思われるが、この立場から、児童の年齢確認については児童本人又はその仲介人の供述又は身体の発育状況等の外観的事情だけにとどまらず、戸籍謄本或は抄本、住民登録、移動証明書、米穀通帳等の公信力ある書面、その他児童の保護者などの関係人への問合など通常可能な方法によつて、周到且つ適確に、又は、具体的且つ綜合的に調査すべきものとされている。
ところで児童及びその仲介人が雇入方を希望する場合には雇主に対し児童の年齢を十八歳以上であるかの如く偽装することは世上一般に行われていることであるので、業者としてこの点の顧慮を必要とするのであるが、前記のように、被告人は仲介人の持参にかかる戸籍抄本及び児童本人並びに仲介人の一方的年齢の申立のみにより児童が満十八歳以上であると軽信したのであつて、この場合被告人としては、少くとも、児童の保護者又は前雇主への問合、戸籍謄本、住民登録又は米穀通帳などの公信力ある書面の取寄などにより児童側の申立ている氏名、年齢の真偽を確めるべきであり、その調査方法が可能であつたのに、その方法を採らず、これを怠つたことは右被告人の認めるところであるから前記調査義務を尽しているものというを得ない。

 しかし、児童ポルノ・児童買春において、児童が「その年令を偽り満一八才以上の如く装い、客欺いて所期の目的を達する事例が世上決して稀でないことは経験上明らかである。」という状況であるとすれば、立法によって、遊客の過失犯を処罰したり、客の注意義務を加重することもあり得ると思います。