児童ポルノ罪で「児童とは知らなかった」と弁解する人がいるわけですが、使用関係があれば、無過失を証明する必要があり、それは極めて困難。
使用する者の定義もはっきりしませんね。年齢確認を負う者は誰かと聞いたら「特にその年齢の確認を義務づけることが.社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者」って答えていて循環してますしね。
木村光江 児童買春等処罰法の運用と課題 (「犯罪と非行」124、P119〜)
「児童を使用する者」の定義規定は本法にはないが.児童福祉法上「雇傭その他,児童との身分的若しくは組織的関係において児童の行為を利用しうる地位にある者」あるいは「特にその年齢の確認を義務づけることが.社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者」をいうとされる。本法に即していえば,買春の周旋者,児童ポルノ製造者等がこれに当たる(46)。
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第9条(児童の年齢の知情)
児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。児童福祉法
第60条
?児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
東京高裁S41.7.19
渡辺が右供述どおりに事を運んだものとすれば、そのやり口は甚だ打算的であるとのそしりは免かれないが、筋は一応通つているのであつて、この点に関する同人の前掲司法警察員に対する供述の真否は、はなはだ疑わしくなるのである。以上をかれこれ勘案すると、被告人がさく江を雇い入れる際同女が満十八歳未満であることを知つていたことを確認するに足りる証拠はないのであつて、結局、被告人は同女が満十八歳未満であることを当時知らなかつたものと認定するのほかはない。よつて進んで、被告人においてさく江が満十八歳未満であることを当時知らなかつたことにつき過失があつたかどうかにつき審按するに、原判決の引用証拠により明らかであるとおり、いわゆる社交クラブなるものの正常の業態は、社交婦すなわち料亭等の酒席に侍し客を接待する婦女子を派出することを業とするものである。しかして、かような社交クラブに社交婦として雇われることを希望する満十八歳未満の婦女子が、その希望を遂げるため、みずからまたは周旋人等を通じ、その年齢を偽つて満十八歳以上であるもののように装い、雇主を欺いて雇われる事例が世上けつして稀でないことは経験上明らかであり、(このことは、さく江自身がさきに社交クラブ晴美で社交婦として働き、同夢ぞので同様働く約束をしたことによつても実証されている)、したがつて、同種職業にいた前歴を有する婦女子についても、その前歴自体は、常に必ずしも同女が満十八歳以上であることを裏書きする資料として充分であるとはいえないのである。されば、社交クラブの経営者が十八歳あるいは十九歳であると自称するような若い年齢層の婦女子を雇い入れるに当つては、単に本人若しくは周旋人等の供述、本人の身体の外観的発育状況や同種職業に従事した前歴の有無等のみに頼ることなく、更に本人の戸籍を調べ、その父兄に問い合わせる等の確実な調査方法を講じて、本人の年齢を確認すべき注意義務を負うていることは、児童福祉の理念(同法第一条)に照し当然の事理であつて、雇主に対し右程度の注意義務を課することを目して、所論のように児童を雇い入れた場合の無過失の抗弁をすべて封じ、刑法における責任主義を否定する結果になると極論しなければならぬほどに、しかく苛酷な義務を強いるものと認めることはできない。しかるに、原判決の引用証拠によると、被告人は、さく江を雇い入れるに当り、前説示のとおり同女及び下川から同女の偽りの年齢を聞き、さきに同女が渡辺の内妻の経営する夢ぞので働く約束をして渡辺から金十万円を借り受けたことを知つて同人の諒解を得ただけで、他に同女の年齢を確認するための確実な調査方法を何ら講じなかつたことが明らかであるから、被告人は同女が満十八歳未満であることを知らなかつたことにつき過失の責があつたものといわなければならない。
福岡家裁小倉支部S34.2.24
弁護人は被告人並にその妻が女給を雇入れるに際つてその年齢確認の方法として当該女給の容貌、身体の発育程度、態度より観察して十八歳以上と認めれば十分でありそれ以上当該女給の戸籍謄本、又は抄本、移動証明書身元証明書を取寄せることまで要請して被告人に過失なきことを期待するは不可能であるので被告人には罪責ないと主張するが児童福祉法が児童の健全な育成を目的とし同法第六十条第三項に於いて同条第一項第二項違反の者にして児童を使用する者に対しては唯単にその児童が十八歳未満であることを知らなかつたことで責任を阻却するのでなく十八歳未満であることを知らなかつたことに過失がなかつた場合に於いてはじめて責任を阻却して居り一般に過失がなかつたと言い得るためには少く共当該児童につき戸籍謄本又は抄本、移動証明書等を取寄せて調査しその年齢を確認することを要するものといはなければならないので独り被告人に対してのみ児童の年齢確認について右の調査義務を期待することができず被告人に罪責がないという弁護人の右主張はこれを採用することができない
大阪家裁S33.9.6
被告人与儀貞子及び同弁護人は児童を雇入れに際して年齢確認の方法を尽したのであるから、その年齢を知らなかつたことにつき過失がなかつた旨主張するのであるが、なるほど、前掲証拠に徴すれば、判示児童の仲介人が他人名儀の戸籍抄本(領置に係る坂本多弥に対する戸籍抄本)を右被告人に手交し、右児童本人及びその仲介人において、被告人に同児童の年齢が満十八歳以上であると信じさせるよう申欺いたことは認められる。ところが、これをもつて被告人の責に帰すべき調査義務を尽したものと言えるかどうか。そもそも児童福祉法第六十条第三項による児童を使用する者に対しては年齢確認についてどの程度の調査義務が要請されるべきか明文がなく、結局同法第一条に掲げる児童福祉の根本精神の実現を堅持する観点に立ち社会通念によつて決すべきであると思われるが、この立場から、児童の年齢確認については児童本人又はその仲介人の供述又は身体の発育状況等の外観的事情だけにとどまらず、戸籍謄本或は抄本、住民登録、移動証明書、米穀通帳等の公信力ある書面、その他児童の保護者などの関係人への問合など通常可能な方法によつて、周到且つ適確に、又は、具体的且つ綜合的に調査すべきものとされている。
ところで児童及びその仲介人が雇入方を希望する場合には雇主に対し児童の年齢を十八歳以上であるかの如く偽装することは世上一般に行われていることであるので、業者としてこの点の顧慮を必要とするのであるが、前記のように、被告人は仲介人の持参にかかる戸籍抄本及び児童本人並びに仲介人の一方的年齢の申立のみにより児童が満十八歳以上であると軽信したのであつて、この場合被告人としては、少くとも、児童の保護者又は前雇主への問合、戸籍謄本、住民登録又は米穀通帳などの公信力ある書面の取寄などにより児童側の申立ている氏名、年齢の真偽を確めるべきであり、その調査方法が可能であつたのに、その方法を採らず、これを怠つたことは右被告人の認めるところであるから前記調査義務を尽しているものというを得ない。従つて被告人に年齢確認につき過失責任あるものといわなければならないと考えるので、これに反する右被告人及び同弁護人の主張は、これを採用することができない。
東京高裁S27.5.29
弁護人控訴趣意第一点乃至第三点(事実誤認に関する点)について。
児童を使用する者は児童の年齢を知らなかつたことにつき過失ない場合を除いては児童福祉法第三四条第一項第六号の所為に対しその罪責を免れ得ないことは同法第六〇条第三項の規定するところである。而してここに年齢を知らざるにつき過失なしとするには使用者が被用者たる児童の戸籍謄本又は抄本等についてその生年月日を調べたとか或は児童の親権者について年齢を確めてみたとかその他確実性ある調査方法を一応講じたことを要すると解せねばならぬ。
所論の如く単に被用者本人の言を信じたとか或は来客の一、二の者が被用者をその体格、容姿などの点から二十歳位に見たというような事情から被告人において被用者を十八歳未満に非ずと信じたとしても、それは結局年齢についての調査方法の不十分の致すところであつて過失なしとはいい得ない。
福岡高裁S27.10.29
児童福祉法所定の児童を使用する者は、児童の保護者又は監督者につき、或は児童の戸籍謄本(及びこれに準ずべきもの)等により即ち客観的に通常可能な調査によりその年令を覚知すべき方法を講じないで、漫然主観的に児童を満十八才以上であると信じたとか、或は児童が満十八才以上であると申述したとかの事由を以てしては児童福祉法第六十条第三項にいわゆる児童の年令を知らないことにつき過失のないときに該当するものとし同条第一項第二項所定の処罰を免れることはできない。
けだし同法第一条第一項には「すべて国民は児童が心身ともに健やかに生れ、且つ育成されるよう努めなければならない」旨規定し、国民のすべてが児童が心身ともに健やかに育成されるよう努力すべき義務のあることを明かにしているのであるから、児童を殊に心身の健やかな育成を阻害すべき売淫行為に従事させるため使用する者は法律上児童の年令覚知については単に使用者の主観はもとより児童の申述のみを以てしては足らず、前叙のごとき年令覚知の方法を講ずべき義務を科せられたものと解するのが相当だからである。
しかして記録を調査すると、原判示児童Oの年令については単に被告人が同女を二十才位と思つたとか、或は同女の同僚から二十歳であるとのことを聞知したとの事実を認められるに過ぎずして、被告人が前記説示のごとき法律上要請されている調査方法を講じた事実は全く認めることができない。
東京高裁S28.9.28
なおX女が○日雇い入れられる際、すでに成年に達している実姉Y女の名を偽り称したのを被告人等においてそのまま軽信し、その後同女が○日検診された際、その偽名の事実が暴露され、実は十八年未満の少年であることが判明するに至つたことは洵に所論のとおりであるが、児童福祉法第六〇条第三項には、児童を使用する者において、過失のない限り児童の年令を知らないことを理由として児童に淫行をさせた所為につき同条第一項所定の処罰を免かれない旨を定めており、被告人等は、右検診の折まで、現実にX女の戸籍謄本について見る等同女の年令を確認するにつき、予かじめ適切な調査を遂げた事跡なく、ただ漫然と同女の詐言を信じて同女を淫行に従事させたことが証拠上明らかであるから、被告人等は、少くとも同女を十八年以上の成年と信じたるについて当然なすべき注意義務を怠りたるによる過失の責を免かれない。
福岡高裁S28.12.5
そもそも、児童福祉法第六十条第三項において、児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことに過失のない場合でない限り、児童の年齢を知らないことを理由として、児童の使用に関する禁止違反行為の処罰を免かれ得ないものとした所以のものは児童を業務上使用する者に対し法律上、児童の年齢を確認するについては、たんに児童を使用する者の主観はもとより児童の申述のみを以ては足らず、児童の保護者或は監督者につき、又は戸籍謄本、同抄本、移動証明書、配給通帳等の公信力ある書面等により、客観的に通常可能な調査方法により児童の年齢を確認すべき義務を科し、苟も、十八歳未満の児童をして、同法所定の児童の使用に関する禁止行為に従事させることのないようにし、以て児童が心身ともに健やかに育成されることを保障し企図したものであることに鑑みると、児童を使用する者が、その児童の年齢を確認するについて、客観的に通常可能な調査方法を講じ万全の措置を採つた形迹の認められない限り、児童を使用する者がたとい児童の年齢を知らなかつたとしてもその知らなかつたことに過失がないものとはいい得ないものと解するのが相当であるところ、既に前段認定したように(一)所轄警察署長から交付される従業者証が多くの場合実際、営業者の提出した雇入届書のみに依拠する便宜な取扱により交付されていた経緯に関する事実に、本件記録によつて窺われるように(二)被告人は八重子から年齢確認の点につき戸籍謄本又は同抄本に代わる公信力あり、しかも日常生活上必要欠くべからざる移動証明書を徴することなく、漫然同人を従業婦として雇入れている事実、また(三)被告人は八重子を雇入れるに際し、同人の年齢を熟知している近親者を関与させることもなく、ただ八重子本人と交渉しただけにすぎない事実、更に(四)被告人方において、八重子が所轄警察署長から交付を受けた従業者証は前記のとおり便宜な取扱により、同署長から同人の戸籍証明書を追完することを条件として交付されたのにかかわらず被告人はその後八重子に戸籍謄本又は同抄本の取寄を命じもせず又自ら同人の本籍地にその戸籍の回答を求めたこともない事実など、これら諸般の事実を考え併せると、被告人は児童を使用する者として、負担する児童の年齢を確認するについての前掲義務を充分に尽した者とは到底認められないので前段説明したところにより、被告人は十八歳未満の児童である八重子の年齢を知らなかつたことに過失がないものとは、いい得ないものといわねばならない。