児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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間接正犯と観念的競合

 「1個の行為」(刑法54条前段)の解釈なんですけど、

一個の行為とは、法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいう。(最大判昭49・5・29)

 間接正犯については利用者基準説にせよ被利用者基準説にせよ国際宅配便のラベルを書いて発送すれば利用者の行為は終了するような間接正犯による輸出罪と輸入罪というのは、「法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される」と思うんですが。
 観念的競合説は奥村弁護士独自の見解だそうです。

名古屋高裁H18.5.30
12控訴理由第12,第13(原判示第1,第2につき,法令適用の誤り【児童ポルノ輸出罪,関税法の輸入未遂罪の罪数】)
所論は,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は包括一罪であり,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪とは観念的競合の関係にあり,結局,原判示事実全体が一罪となるから,児童ポルノの外国からの輸出罪6罪及び関税法の輸入未遂罪6罪の併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は,これらの行為が同一機会に同一意思をもってなされたものとは認められないから,それぞれ各別に児童ポルノの外国からの輸出罪が成立し,また,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪は,前記のとおり,対象物を他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた航空機等の輸送機関にその対象物を積載ないし搭載したときをもって既遂に達すると解されるのに対し,関税法の輸入罪は,外国から本邦に到着した貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては,保税地域を経て本邦に)引き取ったときをもって既遂に達するのであって,児童ポルノの外国からの輸出罪が既遂に達した後,児童ポルノを本邦に引き取るまでの部分は児童ポルノの外国からの輸出罪の実行行為とは重ならないから,児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪は一個の行為とはいえず,所論のいう国際スピード郵便(EMS)発送ラベルが複写式になっていて通関手続に必要な書類はそのラベルへの記入で完成することなどを前提にしても,両罪は観念的競合ではなく,併合罪の関係に立つというべきであるから,これらの点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。

 コンメンタール見ても、判例がないんですね。
 僭越ながら、作らせていただきました。

9控訴理由第9(原判示第1につき,訴訟手続の法令違反【訴因逸脱認定】)
所論は,本件児童ポルノ輸出罪の各公訴事実は,直接正犯構成となっているところ,訴因変更手続をすることなく間接正犯構成にした原判決は,不意打ちであって,訴因逸脱認定(審判の請求を受けない事件について判決をした違法)による訴訟手続の法令違反がある,というのである。
たしかに,本件各起訴状の児童ポルノ輸出罪に係る公訴事実には,原判決の(罪となるべき事実)と異なり,「空港関係作業員ら」の文言はない。しかしながら,本件児童ポルノを国際郵便物として航空便で発送すれば,空港関係作業員らがこれを航空機に搭載させることは自明の理であり,公訴事実の記載も明示はされていないものの,黙示的に間接正犯構成をとっているものと解される。したがって,この点について訴因変更手続をしていなくても,訴因逸脱認定とはならず,また,被告人の防御に支障はなく何ら不意打ちとはならないから,この点につき原判決には訴訟手続の法令違反はない。所論は前提を欠き,理由がない。

追記
 観念的競合の「行為の一個性」は共犯については、共犯行為を基準とするようです。
 間接正犯についても、利用者を基準とすべきです。

最高裁判所第1小法廷昭和57年2月17日
 なお、上告趣意第一点にかんがみ職権をもつて判断するに、幇助罪は正犯の犯行を幇助することによつて成立するものであるから、成立すべき幇助罪の個数については、正犯の罪のそれに従つて決定されるものと解するのが相当である。原判決の是認する第一審判決によれば、被告人は、正犯らが二回にわたり覚せい剤を密輸入し、二個の覚せい剤取締法違反の罪を犯した際、覚せい剤仕入資金にあてられることを知りながら、正犯の一人から渡された現金等を銀行保証小切手にかえて同人に交付し、もつて正犯らの右各犯行を幇助したというのであるから、たとえ被告人の幇助行為が一個であつても、二個の覚せい剤取締法違反幇助の罪が成立すると解すべきである。この点に関する原審の判断は、結論において相当である。
 ところで、右のように幇助罪が数個成立する場合において、それらが刑法五四条一項にいう一個の行為によるものであるか否かについては、幇助犯における行為は幇助犯のした幇助行為そのものにほかならないと解するのが相当であるから、幇助行為それ自体についてこれをみるべきである。本件における前示の事実関係のもとにおいては、被告人の幇助行為は一個と認められるから、たとえ正犯の罪が併合罪の関係にあつても、被告人の二個の覚せい剤取締法違反幇助の罪は観念的競合の関係にあると解すべきである。そうすると、原判決が右の二個の幇助罪を併合罪の関係にあるとしているのは、誤りであるといわなければならない。