児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「姿態をとらせ」は3号製造罪の構成要件である(東京高裁H17.12.26)

 構成要件なので、捜査段階「被疑事実」、起訴状「公訴事実」、判決「罪となるべき事実」のすべての段階で記載してください。
しかし、こう判例が変わるようじゃ、困りますね。

 なお、従来の判例は・・・

名古屋高裁金沢支部平成17年6月9日
第1 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反等の論旨について(控訴理由第7,第11 ないし第13,第15,第17)
1 所論は,・・・②公訴事実には,ミニディスク,メモリースティック,ハード ディスクの作成につき,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の 保護等に関する法律(以下,単に「法」という。)7条3項に規定する児童ポ ルノ製造罪の構成要件である「姿態をとらせ」に該当する事実が記載されてい ない,のに,公訴を棄却せず,実体判決をした原判決には訴訟手続の法令違反があるというのである。
2 しかしながら,・・・所論②については,確かに, 公訴事実には,「姿態をとらせ」に当たる事実の記載がなく,それを明確に記 載するのが望ましいとはいえるものの,平成16年10月20日付け起訴状で は,第1で被害児童と性交するなどして児童買春をした旨の記載があり,それ に引き続き第2の事実が記載されており,第2の罰条について法7条3項が挙 げられていることからすると,被告人の言動等によって,当該児童が性交に伴 う「姿態」等をとったことは,上記起訴状記載の公訴事実の記載から理解する ことができる。したがって, 「姿態をとらせ」の文言が記載されず,それに該 当する事実が明示されていなくても,訴因が特定されていないとはいえず,こ れをそのまま認定した原判決に違法な点があるとまではいえない。

 わかりにくいけど、控訴理由第13が排斥されています。
 その控訴理由第13とは・・・・
(最初から、使い回しできるように、資料も文中に引用してある。)

控訴理由13 訴訟手続の法令違反〜罪となるべき事実は3項製造罪の構成要件をみたさない。
1 はじめに
 製造罪の犯罪事実には、構成要件である「姿態をとらせる」に該当する事実が全く記載されていない
       原判決罪となるべき事実の引用

2 3項製造罪の趣旨
 「姿態をとらせる」要件の趣旨について、島戸検事はこう解説する。撮影行為のうち処罰するものを限定する趣旨であるという。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(5)第3項の罪
ア 趣   旨
他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。
実際、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」(producing)を犯罪化の対象としており、かつこれについては、「所持」について目的要件を係らせているのとは異なり、目的のいかんにかかわらず、犯罪として処罰することが求められている。
一方、既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は、必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上、いわゆる単純所持と同様、児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから、複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われない。そこで、複製を除き、児童に一定の姿態をとらせ、これを写真等に描写し、よって児童ポルノを製造する行為については処罰する規定を新設したものである。

 衆議院法制局第二部第一課 井川良によっても、撮影行為一般のうち、姿態をとらせる場合のみを処罰するのだと説明されている。

衆議院法制局第二部第一課 井川良「児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」法令解説資料総覧(第一法規、2004)
提供目的のない児童ポルノの製造行為(単純製造)
他人に提供する目的のない児童ポルノ (=有体物) の製造のうち、児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。また、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」 については目的を問わず犯罪化することが求められている。
このため、改正法では、児童に本法l一条三号に掲げる姿態をとらせ、これを写真等に描写することにより児童ポルノを製造する行為については、これを処罰することとした (七条三項)。ここでいう「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。

3 「姿態をとらせ」とは
 島戸検事によれば、「『姿態をとらせ』とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったこと」をいうそうである。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」現代刑事法'04.10
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。描写される児童が当該製造について同意していたとしても同様である(8〉。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない(22)。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉毀損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。
23)もっとも、例外的に、児童が他者に対して執拗、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。

 ここで注目しなければならないのは、性交場面を被害児童に黙って撮影した場合(ポーズを取らせず単に性交等した場合)には、「姿態をとらせ」には当たらないとされていることである。
 島戸検事も、3項製造罪の場合は製造の態様が限定されていると指摘する。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」研修676号

4 製造罪が行われた状況である買春罪の事実に「姿態をとらせ」が読み込まれているか?
 「姿態をとらせ」が構成要件であるとすれば、他の認定事実、例えば「上記性交の場面等をデジタルカメラで撮影することにより,」に「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」を詠み込んだと理解するしかない。
 しかし、

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない(22)。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉毀損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。

という通り、盗撮の場合は3項製造罪が成立しないとすると、性交に、「姿態をとらせ」を読み込むことは不可能である。
 島戸説では、単に「上記性交の場面等をデジタルカメラで撮影すること」だけでは、「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」に該当しない。それだけでは盗撮のパターン(犯罪不成立)と区別できないからである。

 さらに、児童買春罪と児童ポルノ製造罪の両罪の行為は社会的には別個であって、行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから、買春行為に「姿態をとらせて撮影」を読み込むこともできない。

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
(3)所論は,原判示第3の1の買春行為がビデオで撮影しながら行われたものであることから,上記児童買春罪と原判示第3の2の児童ポルノ製造罪とは観念的競合となるともいうが(控訴理由第21),両罪の行為は行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから,採用することはできない。
 裁判例をみても、単なる撮影行為なら「わいせつ行為」に含めて評価される余地もあるが、「姿態を取らせる行為」は必ずしも「わいせつ行為」に包含されるとは言えない。同様に、「姿態を取らせる行為」が買春行為に包含されるとのも言えない。

【事件番号】静岡地方裁判所浜松支部判決/平成11年(わ)第209号
【判決日付】平成11年12月1日
【参考文献】判例タイムズ1041号293頁
 (罪となるべき事実)
 被告人は、平成一一年四月二五日ころ、静岡県浜松市〈番地等略〉五階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、甘言を用いて誘い出した甲野春子(当一一年。昭
和五三年五月一八日生)および乙山夏子(当八年。平成三年七月一日生)に対し、同女らが満一三歳未満であることを知りながら、「ゲームボーイを買うお金をあげるから、裸の写真を撮らせて。」などと申し向け、同女らをしてその着衣を脱がせて全裸にさせたうえ、同女らの陰部等の写真を撮影し、もって一三歳未満の婦女に対しわいせつな行為をしたものである。

5 新旧製造罪の比較
 ここで、用語を整理する。「単純製造罪」などというから誤解される。誤解がないように、「2項(5項)製造罪」「3項製造罪」と呼ぶことにする。

2項(5項)製造罪(7条2項・5項)
 盗撮であろうと、姿態をとらせてもたらせなくても、製造したものが児童ポルノであって、一定の目的が有れば製造罪となる。
 旧法の製造罪と同じ。

3項製造罪(7条3項)
 一定の目的がなくても、姿態をとらせて、児童ポルノが産み出されれば成立する。

 つまり、改正法の3項製造罪の趣旨は、2項(5項)所定の目的がない場合に、旧法では一律不可罰であったところを、姿態をとらせた場合に限り、従来の5項製造罪よりは軽く処罰する・2項製造罪と同等に処罰することにある。

 ここで、児童ポルノ製造罪の処罰範囲(守備範囲)を図解する。

旧法

現行法

 だとすれば、「姿態をとらせること」は、従来、不可罰であった所定の目的のない製造行為のうち、姿態をとらせた場合のみを処罰し、それ以外は処罰しないために設けられた要件であるから、まさに、構成要件そのものである。
 「姿態」は、「姿態をとらせた」か「姿態をとらせなかった」かの二者択一であって、「姿態をとらせた」のではないのであれば、「姿態をとらせなかった」ということになるから、3項製造罪は成立しない。

 訴因には「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」が記載されていない。仮に判決で、「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」が認定されていれば、それは訴因逸脱認定で訴訟手続の法令違反である。

6 まとめ
 原判決の認定事実には「姿態をとらせ」が記載されていない点で犯罪を構成しない。にもかかわらず無罪判決をせず有罪をした原判決には、訴訟手続の法令違反がある。