児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ単純製造罪の訴因の記載例

 人づてにもらってきた起訴状にこういう公訴事実がある。判決ではどうなったのかは刑事確定訴訟記録法により調査中。

公訴事実
被告人は,平成16年月日,所在のホテル号室において,A(昭和年月日生,当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら
第1 同女に対し,現金万円を対償として供与する約束をして,同女と性交するなどし,もって児童買春をし
第2 上記性交の場面等をデジタルカメラで撮影することにより,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるハードディスクを製造したものである。

 証拠や客観的真実は知らないが、訴因の問題を指摘すれば、製造罪の訴因として、7条3項の製造罪(単純製造罪)の構成要件における、「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」が記載されていない。

児童ポルノ提供等)
第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。

姿態をとらせるというのはこういうことなんでしょう。

阪高裁H14.9.10
第4事実誤認ないし法令適用の誤り(控訴理由第9)及び事実誤認(控訴理由第10)の主張について論旨は,①原判決は,本件ネガにつき,単なる裸体ではなく両脚を開かせ性器を露出させた露骨な描写をしており,一般人の性欲を興奮させ又は刺激すると判示しているが,被害児童は6歳であって,このような児童の姿態からは,どのようなポーズを取らせてみても,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとは解されず,本件ネガが児童ポルノに当たるとはいえず(控訴理由第9),②被告人も,本件ネガが一般人の性欲を興奮又は刺激されるものであるとの認識はなかったから,被告人に故意があるとはいえないのに(控訴理由第10),本件ネガが児童ポルノに当り,被告人にもその認識があったとして児童ポルノ製造罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがある,というものである。しかしながら,捜査報告書(「差し押さえにかかる証拠品ネガフィルムの焼付けについて」(原審検甲5,6号証)によれば,被害児童は当時6歳の女児であるが,被告人によって撮影された被害児童の姿態は,幼女のあどけない自然な裸の姿ではなく,寝そべって両足を開いたり,足を立てて座ったりして,ことさら性器を露出するなど煽情的なポーズをとっており,これが鮮明に撮影されているものであるから,一般人の性欲を興奮又は刺激することのある態様のものと認められ,本件ネガが児童ポルノに当たることは明らかであり,また,上記のような被害児童のポーズを被告人がとらせたものであるから,これを撮影した被告人に児童ポルノ製造の故意があることも明らかであり,被告人に対し児童ポルノ製造罪の成立を認めた原判決に事実誤認ないし法令適用の誤りがあるとは認められない。 論旨は理由がない。


「上記性交の場面等をデジタルカメラで撮影することにより,」に「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」を詠み込んだと理解するしかないが、
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050102/1105797054
で説明したように、島戸検事は、児童買春場面の盗撮は製造罪に当たらないという。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」現代刑事法'04.10
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。描写される児童が当該製造について同意していたとしても同様である(8〉。

 だとすると、島戸説では、単に「上記性交の場面等をデジタルカメラで撮影すること」では、「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」に該当しない。それは盗撮のパターンだから。

 また、児童買春行為(性交)に「姿態をとらせて描写」を読み込むこともできない。
 児童買春罪と児童ポルノ製造罪の両罪の行為は社会的には別個であって、行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないからである。

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
(3)所論は,原判示第3の1の買春行為がビデオで撮影しながら行われたものであることから,上記児童買春罪と原判示第3の2の児童ポルノ製造罪とは観念的競合となるともいうが(控訴理由第21),両罪の行為は行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから,採用することはできない。

 ここで、用語を整理する。「単純製造罪」などというから誤解される。誤解がないように、「2項(5項)製造罪」「3項製造罪」と呼ぶことにする。

2項(5項)製造罪(7条2項・5項)
 盗撮であろうと、姿態をとらせてもたらせなくても、製造したものが児童ポルノであって、一定の目的が有れば製造罪となる。
 旧法の製造罪と同じ。

3項製造罪(7条3項)
 一定の目的がなくても、姿態をとらせて、児童ポルノが産み出されれば成立する。

 つまり、改正法の3項製造罪の趣旨は、2項(5項)所定の目的がない場合に、旧法では一律不可罰であったところを、姿態をとらせた場合に限り、従来の5項製造罪よりは軽く処罰する・2項製造罪と同等に処罰することにある。
 だとすれば、「姿態をとらせること」は、従来、不可罰であった所定の目的のない製造行為のうち、姿態をとらせた場合のみを処罰し、それ以外は処罰しないために設けられた要件であるから、まさに、構成要件そのものである。
 「姿態」は、「姿態をとらせた」か「姿態をとらせなかった」かの二者択一であって、「姿態をとらせた」のではないのであれば、「姿態をとらせなかった」ということになるから、3項製造罪は成立しない。
 冒頭の起訴状は、主張自体失当の起訴状である。

 これは、どれくらいのミスかというと、殺人罪の訴因で人が死んでいないのと同じである。窃盗罪の訴因で財物の他人性が主張されていない、放火既遂罪で焼燬してないのと同じである。

 まあ、おそらく裁判所は適当に救済してくれると思うが(島戸説は採用されていない)、推測するに、起訴検察官は、「児童ポルノ法改正により販売目的がなくても製造罪が成立する」と聞き及んだものの、条文の確認を怠り、単なる撮影行為が製造罪となると誤解したためであろう。

 検察官が「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」を意識していたならば、「A子に指示して××のポーズをとらせるなどして、」という記載があるはずで、

第2 上記性交の際に、
A子に指示して××のポーズをとらせるなどして、
その場面等をデジタルカメラで撮影することにより,
児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態をとらせて、
もって児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるハードディスクを製造したものである

という訴因になるはずである。

 なお、こういう訴因が維持されていれば、無罪又は公訴棄却(刑事訴訟法339条1項2号)となる可能性があるが、こんな凡ミスは滅多に見られない。

第336条〔無罪の判決〕
被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
第339条1項〔公訴棄却の決定〕
左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
二 起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。

 仮に判決で、「児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」が認定されていれば、それは訴因逸脱認定で訴訟手続の法令違反である。

 検事の著作でも「通常考えられないが、特別法の場合は注意せよ」と書かれていた。

土本武司「訴因の特定」公判法体系Ⅰ第1編公訴P131
①構成要件要素の充足性 
訴因には、当該犯罪の特別構成要件のすべての要素を含まなくてはならない。問題となるものとして、まず文書偽造における「行使の目的」、背任における「図利加害目的」のごとき主観的構成要件要素は、これを主観的違法要素と解するとしても、やはり構成費件の一部であるから記載しなければならない。次に住居侵入における「故ナク」、逮捕監禁における「不法ニ」のごとき規範的構成要件要素は、違法性の存在の必要を注意的に規定したにとどまるから、理論的には記載することを要しない。しかし実務でほ、右の法律用語をそのまま用いるか、それに代る語句を用いるかして記載するのが慣例になっている。第三に結果的加重犯における結果は、基本となる犯罪の構成要件にほ属しないが、その結果があることによって基本的犯罪と異なる別個の犯罪を成立せしめるのであり、その別個の犯罪の構成要件要素であるから、記載しなければならない。
そこで、構成要件要素の全部(が欠如すること実際上ありえないが)または一部が欠如していたり、いかなる構成成要件に該当するか不明であったりした場合、訴因の明示はないことになる。しかし、補正によって治癒しうる場合があることについては後述。


 こんな起訴状とそれを見逃すような手続で3年とか5年とか刑務所に入れられたらたまらない。
 ちゃんと、訴因変更されてから、有罪判決になってるんでしょうね。

 単純製造罪で有罪にする証拠はあるかもしれませんよ。
 しかし、捜査機関が組織をあげて一生懸命に有罪立証に充分な証拠を集めてきても、起訴検事がこんな凡ミスをすると、無罪とか控訴棄却になってしまう。検事さんが、ちゃんと起訴してくれたかどうかを確かめる必要がある。
 被告人からすれば、弁護人に条文を確認してもらうだけで、もっけの幸いで刑を逃れることになる。



追記 
 判決入手しました。
 ダビングによるHDDの製造は罪にならないはずなのに。
 法文の「姿態をとらせて」はどこにあるのか?

金沢地裁判決H17.1.11被告人控訴
理由(罪となるべき事実)
被告人は
第2平成16年8月6日,大阪市所在のホテル611号室において,T(昭和年月日生,当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら
1 同女に対し,現金5万円を対償として供与する約束をして,同女と性交する
などし,もって児童買春をし
2 上記性交の場面をデジタルビデオカメラで撮影するとともにデジタルカメラで撮影することにより,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるミニディスク3本及びメモリースティック3本を製造し,さらに,同日,前記被告人方において,上記メモリースティック3本に記憶させた画像データ127個をパーソナルコンピューターのハードディスクに記憶させることにより,上記同様の児童ポルノであるハードディスクを製造したものである。