児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「性器の裁判」

 これを性器の裁判っていうんや!

 児童買春の犯情としては、一般的には 
   性交>性交類似行為>性器接触行為
とされているのですが、挿入しても「性器接触行為」としている裁判例が沢山あります。

東京高裁H16.2.19
上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成15年10月22日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し,原審弁護人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官飯塚和夫出席の上審理し,次のとおり判決する。
主     文
本件控訴を棄却する。
理     由
1 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の平成16年1月14日付け控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。
二2 控訴趣意中,法令適用の誤り等の主張について
(1)原判示第1ないし第4の各事実について
諭旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第1ないし第4として,被告人が,平成14年8月12日,同年9月12日,同月22日及び同年10月6日の四日間に,被告人方において,いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,当時16歳の女児に対し,現金の対償を供与する約束をして,同児童と性交したとの事実を認定判示した上,これを併合罪としているが,同一被害児童に対する複数回の買春行為はもとより,児童買春罪の保護法益は社会的法益であって,被害児童を異にしても全体として包括一罪の関係にあるというべきであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
しかしながら,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「本法」ともいう。)が買春の相手方となった児童の権利を擁護するものであることは法の目的に照らして明らかであり,買春罪の保護法益は一次的には当該児童の健全な心身と解すべきであるから,買春によりこれが侵害される都度独立して同罪が成立すると解するのが相当であって,これを包括一罪とすべきいわれはない。原判決には所論のような法令適用の誤りはなく,論旨は理由がない。
(2)原判示第5及び第6の各事実について
論旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第5及び第6として,被告人が,平成15年5月5日,被告人方において,いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,当時13歳の二人の女児に対し,現金の対償を供与する約束をして,両児童に口淫させ一人の児童に対しては更に陰部をなめるとともに,両児童の陰部にバイブレーターを挿入するなどの性交類似行為をしたとの事実を認定判示した上,被告人の上記各行為が本法2条2項の「性交類似行為」に該当するとしているが,被告人のこれらの行為は「性交類似行為」ではなく,同項所定のいわゆる「性器接触行為」に該当するにすぎないのであるから,性的好奇心を満たす目的を認定していない原判決には理由不備ないし判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,これまでの裁判例では,上記の被告人の行為はいわゆる「性器接触行為」とされてきたのであって,被告人のみ「性交類似行為」に該当するとするのは憲法14条,ひいて罪刑法定主義を定めた同法31条にも違反しており,法令適用の誤り,理由不備があるというのである。
しかしながら,原判決認定に係る児童に口浮させる行為,児童の陰部をなめる行為,その陰部にバイブレーターを挿入する行為が関係証拠により明らかな行為の状況に照らして,単に性器等を触るにすぎないと解されるものではなく同法2条2項所定の「性交類似行為」に該当することは原判決が正当に説示するとおりである。所論は採用できず,もとより各憲法違反の主張も失当である。原判決には所論のような憲法違反はなく法令適用の誤りや理由不備もない。論旨は理由がない。
3 控訴趣意中,事実誤認の主張について
論旨は,要するに,原判決は罪となるべき事実第6として上記の事実を認定判示しているが,被害児童は直接被告人と交渉したのではないから,直接的な対償供与の約束を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。
そこで関係記録及び証拠物を検討すると,原判示第6の被害児童と同第5の被害児童が二人で相談して,被告人から現金6万円の対償供与と引き換えに口淫することを約束したことは明らかであり,被告人との交渉が同第5の被害児童の携帯電話のメールを利用して行われ,その操作を専ら同被害児童が行っていたとしても,同児童は同第6の被害児童の意向も体して応諾したと認められるのであるから,同被害児童との間に直接的な対償供与の約束が存すると認めた原判決に,所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。
4 控訴趣意中,量刑不当の主張について
論旨は,要するに,被告人を懲役1年6月,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。
そこで,原審記録及び証拠物を調査して検討することとする。
本件は上記のとおりの児童買春の事案であり,被告人は短期間に複数の児童との間で連続して犯行を重ねており,この種犯罪に対する規範意識が欠如しているといえ,買春の相手となった児童に対する心身に消し去ることのできない傷痕を残しており,その結果の重大さはいうに及ばず,これらに,原判決が量刑の理由の項において適切に説示するとおり,原判示第5,第6の犯行に被告人の牧滑さも窺えること,犯行に至る経緯に酌むべきものがないことなどの事情を併せ考慮すると,本件の犯情はよくなく,被告人の刑事責任は軽いものではない。
そうすると,被告人が反省していると述べていること,被告人には前科がないこと,雇用主が継続雇用と監督を誓っていること,法律扶助協会に20万円を購罪寄附していること,その他被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人を懲役1年6月,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,刑期はもとより執行猶予の期間においても重過ぎて不当であるなどとはいえない。
なお,所論は,被害児童に帰責性があること,行政機関が被害児童の保護を怠っていることを被告人に量刑上有利に掛酌すべきであると主張する。しかしながら,同法は,未だ健全な性的観念の備わっていない児童を前提に,児童買春を行う者を処罰するものであって,被害児童が買春に同意していたとしても,犯罪の成立に消長を来さないことは勿論,その量刑に影響を及ぼさないことも明らかである。被害児童に対する本件後の行政機関の保護状況が被告人の刑責に影響を及ぼすものでないことは多言を要しない。論旨は理由がない。
5 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成16年2月19日
東京高等裁判所第12刑事部
裁判長裁判官  河辺義正
裁判官  古田浩
裁判官  小坂敏幸