児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

3回の買春(被害児童1名)を包括一罪、2回の製造(被害児童2名)を包括一罪とした事例(和歌山地裁H14.8.27)

 和歌山地検で閲覧・摘録。
 多言を要せず、おいおいという感じですね。
 かつて、奥村弁護士もこんなこと主張したら、判決読んでる裁判長の表情が怒ってましたよ。和歌山地裁に親近感。

東京高裁H16.2.19
諭旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第1ないし第4として,被告人が,平成14年8月12日,同年9月12日,同月22日及び同年10月6日の四日間に,被告人方において,いずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,当時16歳の女児に対し,現金の対償を供与する約束をして,同児童と性交したとの事実を認定判示した上,これを併合罪としているが,同一被害児童に対する複数回の買春行為はもとより,児童買春罪の保護法益は社会的法益であって,被害児童を異にしても全体として包括一罪の関係にあるというべきであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
しかしながら,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「本法」ともいう。)が買春の相手方となった児童の権利を擁護するものであることは法の目的に照らして明らかであり,買春罪の保護法益は一次的には当該児童の健全な心身と解すべきであるから,買春によりこれが侵害される都度独立して同罪が成立すると解するのが相当であって,これを包括一罪とすべきいわれはない。原判決には所論のような法令適用の誤りはなく,論旨は理由がない。

阪高裁H16.1.15
5 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張(控訴理由第8)について
 所論は,原判示の各事実は,被害児童が異なり2名であるものの,1個の対償供与の約束に基づいて同一日時,場所で実行された犯行であるから観念的競合とすべきであり,あるいは,児童買春罪の保護法益と罪数についての解釈が確定していない以上,被告人に有利に解して包括一罪と評価すべきであるから,これを併合罪として処断した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。しかし,児童買春罪は,児童買春がその性交等の対象となった当該児童の権利を侵害し,その心身に有害な影響を与えるとともに,児童を性欲の対象としてとらえる社会風潮を助長し,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えることになるため,これを処罰の対象としているのであって,社会的法益のみならず,当該児童の権利保護にも処罰根拠があり,その個人的法益も保護法益であるから,被害児童が異なり,一個の行為とはいえない原判示第1の事実と同第2の事実について,これを併合罪として処断した原判決に法令適用の誤りはないというべきである。論旨は理由がない。

 しかし、これ、認定事実に「対償として」が欠けていますね。法文読んでから事実認定して欲しいな。

第2条(定義)
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

和歌山地裁H14.8.27
第1 買春
A16歳と、現金を供与する約束をして(「対償として」は抜けている)
1 1.14 性交し
2 4.15 性交し
3 4.22 性交し
第2 
B16歳と、
現金を供与する約束をして(「対償として」は抜けている)
性交類似行為した

法令の適用
判示第1の1〜3は包括して買春罪
判示第2は買春罪

 
 控訴審で問題になったことがある

阪高裁H16.1.15
 所論は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律4条の児童買春罪の構成要件は,児童に対して対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童に対し性交等をすることであるのに,①原判決の罪となるべき事実(犯罪事実)には,児童に対して約束された現金供与が児童に対する性交の対償であることがいずれも摘示されておらず,また,性交の対償に値する利益であることを示す現金の額,大小も摘示されていないから,原判決には理由不備の違法があり(控訴理由第2,第5),②本件の逮捕状及び勾留状の被疑事実,本件起訴状に記載された公訴事実には,それぞれ,被告人が児童に対して供与を約束した現金が児童に対する性交の対償であるとの摘示がなく,いずれもその構成要件を充足していないもので,このような罪とならない事実を被疑事実とする逮捕状及び勾留状に基づく本件の逮捕,勾留には重大な違法があり,違法な逮捕,勾留に引き続いてなされた本件起訴もまた違法であって,本件公訴は棄却すべきであったのにこれを看過して有罪とし,また,違法な逮捕,勾留中の供述を録取した被告人の検察官及び警察官に対する各供述調書には証拠能力がないのに,これを証拠として採用し,事実認定の用に供して原判示の各事実を認定し有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある(控訴理由第4,第6),というものである。
 確かに,本件の逮捕状及び勾留状の各被疑事実,さらに,起訴状記載の公訴事実のいずれについても,当該児童に供与を約束した現金が児童に対する性交等の対償であるとの明示がされていないこと,原判示第1及び同第2のいずれの犯罪事実についても,同様にその旨の明示及びその供与を約束した現金の額が摘示されていないが,いずれの摘示についてみても,供与を約束した現金が児童に対する性交の対償であることはその事実の記載ないしは判文から明らかに読みとれるし,現金供与の約束の記載がある以上その金額の摘示までは必ずしも必要としないから,いずれの点においても対慣性の摘示に欠けるところはないというべきであって,所論はいずれも前提を欠き採用できない。論旨はいずれも理由がない。