お金を払うつもりなんて毛頭無いのに騙して買春した場合なんて、凖強姦罪がふさわしいと思うのですが、判例上、買春罪の重い量刑(実刑)になります。
被害者の調書も
お金をくれるといったのでSEXしたのに、騙されて許せません
タダでSEXさせた犯人を厳罰にしてください。
などと、被害感情は強姦なみに強烈。(中高生がこんなこと言うのもおかしいですよ。プロの売春婦みたいに。)
強姦の方が重いし、一審では告訴を追完して強姦罪に訴因変更される危険があるので一審では黙っていますが、控訴審ではハッキリ主張します。
本件は凖強姦罪だ。
買春罪の起訴は違法。
って。
被告人に説明・同意得てから主張しますが、たいていビックリしますね。
弁護になってない!
強姦罪の方が重くなるんじゃないですか?
同房の人に相談しても、有り得ない弁護だ。
って。(「同房者」はあてにならんとおもうのだが。)
しかし、判例を見ると、時々主張されていて、成功事例もある。
実際、買春被害者は、非親告罪なので、被害者の意思によらず立件されて、しかも、場合によっては、公判廷で性交等の状況について供述させられます。
これは、法制定当時から指摘されていたことです。
この主張に対する回答が、名古屋高裁金沢支部H14.3.28。対償について騙しても準強姦罪は成立しないとまで言ってしまって、準強姦罪の成立範囲が減縮した。
弁護人が女性団体からえらい剣幕で抗議を受けたが、弁護人は「強姦罪だ」って指摘しているわけで、抗議は理由がない。
なお、実刑は維持されたが、未決勾留日数の算入と減刑とで、実質1/2くらいに減刑されたので、被告人は大喜び。
先生の弁護のおかげです!
何月何日に出れますか?
だって。前回会ったときも
弁護になってない!
強姦罪の方が重くなるんじゃないですか?
同房の人に相談しても、有り得ない弁護だ。
言ってたくせに。
被告人に罵倒されても、ちゃんと弁護してますがな。仕事だから。
だいたい、検察官が証拠をみて、強姦事件は強姦罪、児童買春事件は児童買春罪で起訴していればこんなことはない。
しかし、逮捕容疑は児童福祉法淫行罪だし、起訴検察官が擬律を迷ったのは記録上明白。そこは、控訴理由で指摘して、裁判所にも考えてもらいます。
強姦犯人には強姦罪の被告人として責任を取らせないと意味がない。反省も謝罪も再犯防止もポイントがずれる。
第2 被告人の行為は(強姦・準強姦・強制わいせつ罪・凖強制わいせつ罪)(以下「強姦罪等」という。)にあたる。
1 強姦・準強姦・強制わいせつ罪・凖強制わいせつ罪の成立
詳細な事実の指摘はおって行うが、原判決が指摘するように、「児童に対して高額の謝礼を支払う旨の甘言を用いて,買春の相手方とさせた上,その一部について販売の目的で児童ポルノを製造しながら,いずれも約束に反して対償となる金額を支払わなかった犯行態様は」準強姦・準強制猥褻の「抗拒不能に乗じ」にあたる。
被告人らの、性交又は撮影行為は姦淫又はわいせつ行為にあたる。
写真撮影がわいせつ行為となることについては次の判決もある。
強制わいせつ被告事件
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和43年(あ)第95号*1
【判決日付】昭和45年1月29日
【判示事項】専ら報復または侮辱・虐待のため婦女を脅迫して裸にさせ、その立つているところを撮影する行為と、強制わいせつ罪の成否
【事件番号】静岡地方裁判所浜松支部判決*2/平成11年(わ)第209号
【判決日付】平成11年12月1日
【判示事項】異常な性的嗜好である幼児性癖(ロリータコンプレックス)を有する被告人が一一歳と八歳の少女二人を全裸にさせてわいせつ写真を撮った事案につき、二年六月の実刑判決を言渡した事例
【参考文献】判例タイムズ1041号293頁
抗拒不能であって、被害者の真摯な承諾はない。
さらに、論告が指摘する「『撮影進行中の拒否は一切受け付けません。』という内容の書面に氏名等を記載させた上で,半ば強制的に本件児童をして性交をさせるにとどまらず,様々な性交類似行為をさせ,さらには,その状況をビデオで撮影しており,予想外の行為をさせられた」点は、脅迫にあたるから、強姦・強制わいせつの可能性もある。2 本件犯行につき、被害者らの告訴はない。
追完不可能である。3 親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されない。
本件買春行為・児童ポルノの撮影行為は強姦罪等の実行行為として評価されうる。被告人は買春ないし写真を撮影するという行為を通じて自己の性的欲求を満たそうとしたのであるからこれらの行為がわいせつ行為であることは疑いがない。
強制わいせつ被告事件
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和43年(あ)第95号*3
とすると、本件買春・児童ポルノ製造罪の起訴は、実は告訴がない強姦罪等の一部起訴であると言わざるを得ない。
しかも、公訴事実で被撮影者の氏名を掲げて、あたかも被撮影者が被害者である性犯罪であるかのような公訴を提起している。被害者の意思に反してこのようなことがあってはならないというのが親告罪の趣旨である。
強姦罪等については刑事裁判を望まなかった被撮影者が、その一部である撮影行為についてだけ刑事裁判を希望するというのは通常の被害者感情に反する。
本件起訴はこのような強姦罪等が親告罪とされている趣旨を潜脱するものであるから、違法である。
暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
【事件番号】最高裁判所第2小法廷判決/昭和26年(れ)第1732号*4
【判決日付】昭和27年7月11日
暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
【事件番号】札幌高等裁判所判決/昭和27年(う)第168号*5
【判決日付】昭和27年6月25日
【事件番号】東京地方裁判所判決/昭和37年(わ)第377号*6
【判決日付】昭和38年12月21日
脅迫被告事件
【事件番号】広島高等裁判所判決/昭和25年(う)第664号*7
【判決日付】昭和25年12月26日脅迫事件
【判決日付】昭和25年12月26日*8
【参考文献】高等裁判所刑事判決特報15号147頁
なお、注意しておくが、これらの判決例は、強姦の実行行為のうちの暴行または脅迫という手段的部分について暴行罪・脅迫罪等として起訴することは親告罪の趣旨を没却させるから違法と判示しているのである。
ところが、被告人は営利目的に加えてまさに自己の性欲を充たすために撮影行為・買春行為をしたのであるから撮影行為がわいせつ行為、買春行為が姦淫行為にほかならないのである。つまり、本件で問題にしているのは強制わいせつ罪の核心的行為・本質的行為である「被害者を裸にして裸体を撮影するという行為」について、強姦罪の核心的行為・本質的行為である「姦淫行為」について、非親告罪の別罪として起訴することの可否である。手段的部分が許されないのに核心的部分の起訴は許されるという結論は絶対に許されない。
さらに、もし児童ポルノ製造罪や買春罪が強制わいせつ罪に比べて比べものにならないほど重罪であるならば親告罪の趣旨より児童ポルノ製造・買春の処罰が優先されることにまだ理解の余地はある。しかし、児童ポルノ製造罪・買春罪の法定刑の上限は懲役3年であるのに対して、強制わいせつ罪のそれは懲役7年、強姦罪は15年である。懲役7年・15年もの重罪について告訴なければに起訴できないとされているにもかかわらず、つまりそれだけの被害者の意思尊重の趣旨で親告罪とされているにもかかわらず、特別法の懲役3年の軽い罪でそれらの趣旨を無に帰すことは許されない。