児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

買春罪と児童福祉法淫行罪との関係

 逮捕容疑は「児童福祉法淫行罪」だったことにヒントをえて、両罪の関係を問いました。
 択一関係とか補充関係ではないそうです。
 観念的競合でしょうね。


名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
平成13年(う)第78号
判決
上記の者に対するわいせつ図画販売,児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春処罰法」ともいう。)違反被告事件について,平成13年9月14日金沢地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官村主意博出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄する。被告人を懲役1年10か月に処する。
原審における未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
押収してある8ミリビデオカセットテープ2本(原庁平成13年押第13号の1,2)を没収する。

理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の各控訴趣意書(平成13年11月13日付け並びに「その2」,「その3」及び「その4」と題するもの),各控訴理由補充書(平成14年1月15日付け及び「最終」と題するもの。なお,各補充書中,控訴理由第23「訴訟手続の法令違反」の項は,職権発動を求める趣旨である。)のとおりであり(なお,弁護人は,同月17日付け及び同月18日付け各控訴理由補充書は陳述しない旨当審第1回公判期日において釈明した。),これに対する答弁は検察官村主意博作成名義の答弁書のとおりであるから,これらを引用する。


(6)所論は,児童買春罪と児童福祉法60条1項の児童に淫行をさせる罪」(以下,単に「児童に淫行をさせる罪」という。)とが併存していることによって,ある行為がどちらで処罰されるのかが通常の判断能力を有する一般人において判断することができず,刑罰法規についての予見可能性を損なうから,罪刑法定主義憲法31条)に違反するという(控訴理由第17)。しかし,それぞれの規定における構成要件の内容からすると,一般人の立場において,両者のどちらに,あるいはその双方に該当するか否かの判断は可能というべきであるから,所論は採用できない。

2 児童買春罪,児童ポルノ製造罪と児童に淫行をさせる罪との関係等について(控訴理由第1ないし第6,第16,第18及び第21)
(1)所論は,児童買春罪と児童に淫行をさせる罪とは,行為態様で区別され,後者が成立しない場合に前者が成立するという補充関係にあるとし,本件犯行のように多額の代償を約束して同意を得て性交ないし性交類似行為をするのは児童の純然たる自由意思によるものではなく,児童に淫行をさせる罪に当たり児童買春罪は成立せず,本件各犯行に同罪を適用したことには法令の適用の誤りがあるなどという(控訴理由第1)。
 しかしながら,児童買春罪は,児童買春が児童の権利を侵害し,その心身に有害な影響を与えるとともに,児童を性欲の対象としてとらえる社会風潮を助長することになるため,これを処罰するものであるのに対し,児童に淫行をさせる罪は,国内における心身の未熟な児童の育成の観点から,児童に反倫理的な性行為をさせることがその健全な発育を著しく阻害するためこれを処罰するもので,その処罰根拠を異にし,しかも両罪の規制態様にも差異があることからすると,被告人自身が淫行の相手方になったと認められる場合にあって,その際通常伴われる程度の働きかけを超えて未成熟な児童に淫行を容易にさせ,あるいは助長,促進するといった事実上の影響力を与え淫行をさせる行為をしたと認められるようなときには,両罪に該当することもあり得ると解される。したがって,児童買春罪は常に児童に淫行をさせる罪を補充する関係にあるとする所論は前提において失当である。加えて,多額の対償の供与の約束をして性行為に同意させることが直ちに児童の自由意思を失わせるものとはいい難く,関係証拠によれば,先に述べたとおり(前記第2の1),本件各児童買春行為は対償の供与の約束により児童がその意思によって応じたものと認められるから,法令の適用に誤りはなく(もとより本件事案が訴追裁量を逸脱した起訴であるとは認められない。),所論を採用することはできない。

(2)また,所論は,児童ポルノ製造罪についても,同様に,児童に淫行をさせる罪と補充関係にあって,原判示第3の2の行為は同罪に該当するとし(控訴理由第3),さらにこれを前提として原判示第3の1の児童買春罪と同第3の2の児童ポルノ製造舞とをいずれも児童に淫行させる罪1罪と評価すべき旨主張する(控訴理由第6)。
 しかしながら,児童ポルノ製造罪と児童に淫行をさせる罪とではその構成要件が明らかに異なり,補充関係にあるなどとは到底いえないから(児童買春罪と児童に淫行をさせる罪との関係については(1)で述べたとおりである。),所論は前提を誤っていて失当である(なお,以上に述べたところからすれば,児童買春罪,児童ポルノ製造罪が成立するときには常に児童に淫行をさせる罪が成立するとし,児童買春罪,児童ポルノ製造罪を独立の罰則として制定する必要は全くないなどとする主張(控訴理由第16)も理由がないことは明らかである。)。そして,関係証拠によれば,原判示第2ないし第4の各行為については,児童買春ないし児童ポルノ製造罪が成立すると認められるから,上記各行為につき,証拠上児童に淫行をさせる罪が成立することは明らかであるとし,裁判所には検察官に対し訴因変更を命じ又はこれを促すべき義務があるのにこれをしなかったことに訴訟手続の法令違反(審理不尽)があるなどとの主張(控訴理由第18)も失当であって採用できない。

平成14年3月28日
名古屋高等裁判所金沢支部第2部
裁判長裁判官安江勤
裁判官源孝治
裁判官入江猛