児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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第2号議案 京都府児童ポルノの規制等に関する条例制定の件


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第2号議案
京都府児童ポルノの規制等に関する条例制定の件
京都府児童ポルノの規制等に関する条例を次のように定める。

平成23年9月21日提出
京都府知事山田啓二

京都府児童ポルノの規制等に関する条例
(目的)
第1条
この条例は,児童ポルノの流通及び拡散の防止等に関し府,府民等の責務を明らかにするとともに,児童ポルノに係る行為に対する必要な規制等及び児童ポルノに描写されたこと等により心身に。有害な影響を受けた児童に対する支援を行うために必要な事項を定めることにより,児童の権利が擁護され,児童ポルノによる児童の権利の侵害を決して許さない社会の構築を図り,もって児童ポルノを根絶し,児童ポルノによる被害をなくすることを目的とする。
(定義)
第2条
この条例において「児童」とは,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「法」という。)第2条第1項に規定する児童をいう
2この条例において「児童ポルノ」とは,法第2条第3項に規定する児童ポルノをいう
3この条例において「児童ポルノ記録」とは,法第7条第1項に規定する電磁的記録その他の記録をいう
(府の責務)
第3条
府は,児童ポルノが根絶され,児童ポルノによる被害のない社会の実現に向け,モの気運を醸成するため,児童ポルノか流通し,及び拡散することのないよう適切な広報及び啓発を行うとともに,児童ポルノによる被害を防止するための必要な教育の推進その他の必要な措置を講じるものとする
府民の責務)
第4条
府民は,児童ポルノに係る行為か児童の権利の侵害であることについて理解を深めるとともに,府がこの条例の目的を達成するために実施する施策に協力するよう努めるものとする。
府民は,児童ポルノか流通し,及び拡散することのないようにするため,児童ポルノに係る情報がインターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されていることを発見したときは,速やかに,その旨をホットラインセンター(児童ポルノに係る情報の通報を受け付け,インターネットの利用に係る役務を提供する者に対し必要な措置を講じるよう依頼する業務を行う団体で知事か別に定めるものをいう。)に通報するよう努めるものとする

(インターネットの利用に係る役務を提供する者の責務)
第5条
インターネットの利用に係る役務を提供する者は,そめ提供する役務を利用して児童ポルノに係る情報か公衆の閲覧に供されていることを知ったときは,速やかに,当該情報を公衆が閲覧することかできないようにする等,児童ポルノか流通し,及び拡散することのないようにするため,児童ポルノに係る情報かインターネットを利用して公衆の閲覧に供される機会をできるだけ少なくする措置を講じるよう努めるとともに,府がこの条例の目的を達成するために実施する施策に協力するよう努めるものとする。
(適用上の注意)
第6条
この条例の適用に当たっては,府民の権利を不当に侵害しないように留意し,その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことかあってはならない
(所持等の禁止)
第7条
何人も,正当な理由なく,児童ポルノを所持し,又は児童ポルノの提供を受けてはならない。
2何人も,正当な理由なく,児童ポルノ記録を保管し,又は電気通信回線を通じて児童ポルノ記録の提供を受けてはならない。
(廃棄命令等)
第8条
知事は,前条第1項の規定に違反して,児童ポルノ(法第2条第3項第3号に掲げる児童の姿態を描写したものにあっては,衣服の全部を着けない姿態を描写したもの又は性器若しくは肛門を描写したものに限る。以下この条及び次条第1項において同じ。)を所持する者に対し,期限を定めて当該児童ポルノの廃棄を命じることかできる。

2知事は,前項の規定による命令を行うことかできる場合において,児童ポルノを所持する者が当該児童ポルノに記録された児童ポルノ記録(法第2条第3項第3号に掲げる児童の姿態を描写した情報を記録したものにあっては,衣服の全部を着けない姿態を描写した情報を記録したもの又は性器若しくは肛門を描写した情報を記録したものに限る。以下この条及び次条第1項において同じ。)の消去による方法その他の当該児童ポルノの廃棄によらない方法により当該児童ポルノ児童ポルノに該当しないものとするための措置を講じることかできると認めるときは,その者に対し,前項の規定による命令に代えて,期限を定めて当該措置を講じるべきことを命じることができる。

3知事は,前条第2項の規定に違反して,児童ポルノ記録を保管する者に対し,期限を定めて当該児童ポルノ記録の消去を命じることかできる。

4知事は,前項の規定による命令を行うことかできる場合において,児童ポルノ記録を保管する者が当該児童ポルノ記録の消去によらない方法により当該児童ポルノ記録を児童ポルノ記録に該当しないものとするための措置を講じることかできると認めるときは,その者に対し,同項の規定による命令に代えて,期限を定めて当該措置を講じるべきことを命じることかできる。
5知事は,前各項の規定による命令(以下「廃棄命令等」という)をしようとするときは,京都府行政手続条例(平成7年京都府条例第2号)第13条第1項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。

(立入調査等)
第9条
知事は,廃棄命令等をするため必要かあると認めるときは,その職員に,児童ポルノを所持し,又は児童ポルノ記録を保管していると認められる者その他の関係者(以下この条において「関係者」という)に対し,当該児童ポルノを所持し,又は当該児童ポルノ記録を保管していると認められる場所に立ち入り,調査させるよう求めさせることができる。

2知事は,前項の場所に立ち入り,調査させたときは,その職員に,関係者に対し質問させ,又は必要な資料の提出を求めさせることかできる。

3前2項の立入調査等を行う職員は,その身分を示す証明書を携帯し,関係者に提示しなければならない。

4第1項及び第2項の立入調査等は,犯罪捜査のためのものと解してはならない。

(努力義務)
第10条
何人も児童に係るわいせつな行為を視覚により認識することができる方法により描写した写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう以下同じ。)に係る記録媒体その他の物で児童ポルノに該当しないものを,正当な理由なく,製造し、所持し,提供し,又は運搬しないように努めなければならない。
2何人も,児童に係るわいせつな行為を視覚により認識することかできる方法により描写し九情報を記録した電磁的記録モの他の記録で児童ポルノ記録に該当しないものを正当な理由なく,保管し,又は電気通信回線を通じて提供しないように努めなければならない。
(心身に有害な影響を受けた児童に対する支援)。
第11条
府は,児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し,関係機関と連携を図りつつ,その心身の状況,その置かれている環境等に応じ,当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し,個人の尊厳を保って成長し,生活することができるよう,相談体制の充実を図ること等により必要な支援を行うものとする。
2府は,前項の支援のため必要があると認めるときは,その保護者に対し,必要な支援を行うものとする。
(規則への委任)
第12条
この条例に定めるもののほか,この条例の施行に関し必要な事項は,規則で定める。
(罰則)
第13条
第7条第1項の規定に違反して,対償を供与し,又はその供与の約束をすることにより児童ポルノ(法第2条第3項第1号又は第2号に掲げる児童の姿態(13歳未満の児童に係るものに限る。以下この項において同じ。)を描写したものに限る。)の提供を受けた者は,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。第7条第2項の規定に違反して,対償を供与し,又はその供与の約束をすることにより電気通信回線を通じて児童ポルノ記録(法第2条第3項第1号又は第2号に掲げる児童の姿態を描写した情報を記録したものに限る。)の提供を受けた者も同様とする。
2 廃棄命令等に違反した者は,30万円以下の罰金に処する。
附則
この条例は,公布の日から施行する。ただし,第7条から第10条まで及び第13条の規定は,平成24年1月1日から施行する。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110921-00000106-jij-pol
児童買春・ポルノ禁止法で規制の対象外となっている「提供目的以外の児童ポルノの取得・所持」を規制し、児童の人権を守るのが目的。漫画やアニメなどは規制の対象外

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110916-00000023-zdn_n-inet
ダウンロードや購入などの取得については、過去の取得については罰せず、条例の施行以降に取得した場合が規制の対象になる。だが所持の場合は条例の施行日から禁止される。「現在児童ポルノを持っている人は条例が施行される日までに自ら廃棄する必要がある」という。

 児童ポルノ所持が明らかだった場合、警察からの情報提供に基づいて府が立ち入り調査する場合があるという。「児童ポルノ法の捜査過程で、廃棄命令の対象となる児童ポルノが発見され、個人情報保護の観点からしかるべき措置が講じられた上で、京都府警から京都府に対し情報提供があった場合について行うことを想定している」という。

 デジタルデータの廃棄は本人の同意を得た上で、本人立ち会いのもと実施するという。PCやDVDの場合は消却や粉砕などいよる完全廃棄か、児童ポルノ部分の一部加工・消去で行う。単なる削除ではデータが復元可能な場合があるため、専用ソフトによる上書き消去を考えているという。

 条例案でいう「児童ポルノ」は児童ポルノ禁止法の定義に準じており、漫画・アニメなどの創作物は含まれない。条例は「児童の権利を擁護することを目的」としており、「実在しない児童の姿態を描いた漫画やアニメ等の二次元の表現物は児童ポルノに当たらず、条例の規制は及ばない」と説明している。

 条例制定の背景として、「京都府を含め全国で児童ポルノ事犯が増加傾向にあり、極めて憂慮すべき状況にある」と説明。「何よりも日本の歴史と文化の中心地としての責任を果たすためにも、率先して「児童ポルノを絶対に許さない」という決意を示していく必要がある」という。

 条例案について、8月中旬に府民から意見を募ったところ、「単純所持の規制は児童虐待に対する効果も見込めず、表現の自由など憲法違反にならないか」といった指摘があった。これに対し府は「現に児童ポルノによる被害を受けている児童が京都府内にも存在していることから、現在、法規制のない取得・所持についても条例で規制を行う必要があると判断した」と回答している。


奥村の雑感(2011/10/14)

1 条例の趣旨について
 国法と同趣旨の条例であって、国法で処罰されない行為について規制しようとするのは、国法の趣旨に反しないのか。
 児童ポルノの拡散はインターネット経由が主流であるところ、京都府内のみに適用される条例で規制しても、実効性は期待できない。
 実際奈良県子どもを犯罪の被害から守る条例はH17施行だが、子どもポルノの所持の検挙数は十数件にとどまっている。
 国法との関係で混乱させ、児童ポルノ規制が緩む・児童の保護が遅れるだけになるかもしれない。



2 児童ポルノの定義(条例2条)について
 条例は、法律の定義をそのまま採用するので、法律の問題点もそもまま受け継ぐ。
 法2条3項2号3号で「一般人基準で性欲を刺激するか」という要件になっているが、
児童に特に敏感な人も「一般人」に含むとされているので、親が撮った誕生直後の裸の写真や水遊びの写真も、(児童に特に敏感な人を含む)「一般人」が性的に興奮すれば、児童ポルノになる。実際、0歳4ヶ月につき、児童ポルノ製造で検挙された事例がある。
 また、服を着ていれば児童ポルノに当たらないという定義では、着衣の中に手を差し入れて強制わいせつの被害に遭っているとか、たまたま脱がされた部分が写っていないとかいう児童の写真は、児童ポルノに当たらなくなる。
 児童ポルノ性的虐待・権利侵害という趣旨であれば、「性的虐待を受けている場面の記録」という定義がふさわしい。


3 第7条について
 児童ポルノの提供を受ける行為は、今でも処罰できるという見解がある。
 提供犯人の共犯として法律で処罰されるらしい。
児童ポルノを受領する行為の可罰性について(豊田兼彦著・近大法科大学院論集第4号)
曲目統「わいせつ物を購入する行為の可罰性について」現代刑事法6巻2号
条例は必要なのか?



4 第9条
 立入検査は、所持が家族や関係者に知られることになり、所持者にとって、かなりのストレスとなっているようである。
 所持・保管の情報源は、確実を期すならば、専ら提供犯人の捜査情報によることになろうが、「必要があると認めるとき」「所持・保管していると認める場所に」という条文からは、密告などの不正確な情報でも可能となるし、迷惑メールとして送りつけて密航するという方法で、他人をおとしめることが可能である 
 立入検査で強制わいせつ罪(176条後段)の証拠が見つかれば、警察に通報され、処罰されることになる可能性を考えると、令状主義によるのが望ましい。
 府民が立入検査を回避する方法として、児童ポルノを警察に持参すれば、立入検査を免除するとか、譲り受け罪を減軽免除するという規定も必要だろう。捜査の端緒が増えれば、被害児童の救済につながる。

5 第10条
 「児童に係るわいせつな行為」というのは性犯罪・福祉犯の際に撮影される画像であって、裸が写っていないものであろう。(例:下半身裸にされているが、画面上は上半身だけ。 着衣で精液をかけられている幼児等)。実際の性犯罪の現場でも見受けられる。
 翻って考えると、形式的に児童ポルノの定義に該当するが「虐待行為でないかもしれない記録」については「法的義務」で、「児童に係るわいせつな行為」による「児童に対する性的虐待を描写した記録」については「努力義務」というのは一貫しない。
 児童ポルノ規制の趣旨に鑑みれば、「児童に対する性的虐待を描写した記録」こそが規制されるべき、真の「児童ポルノ」であるから、規制したいのであれば、「児童に対する性的虐待を描写した記録」について、広く法的な義務を課すべきである。


6 被害者救済(条例11条)
 法15条16条*1と同じ趣旨だろうが、これまでも法律で自治体に義務づけられてきたが、実績が全くない*2。事実上期待できない。実体も把握しておらず、お飾りの条項。
 福祉犯(児童買春・青少年条例違反・児童福祉法違反)や性犯罪の被害者についても、同様に救済すべき。

7 第13条
 判例児童ポルノ取得行為には可罰性がないとする(福岡高裁那覇支部H17.3.1、大阪高裁H18.9.21)。提供を受ける行為の可罰性を説明できるか。

 「提供をうける」というのは法7条の「提供罪」の対抗的行為であるとすれば、メールの場合はサーバー上の受信メールボックスに入った時点(まだ見ていない時点)、小包等による場合は不在配達通知や局留め配達で、郵便局等に届いた時点(まだ見ていない時点)で成立することになる。所持自体を処罰しないこととのバランスはどうか。実際に受領した場合に限定すべきである。

 また、有償・無償に限らず、児童ポルノは児童に対する性的虐待行為なので規制されるところ、「有償」だけ罰するというのは、理解できない。有償・無償にかかわらず、児童が受ける悪影響は同じである。
 
 児童性愛者が同好者に強制わいせつ罪(176条後段)の画像を無償配布することがよくあるが、もらった側が処罰できないのでは、流通を抑制できない。
 ファイル共有の受け手も野放しになる。

追記
 会議録について問い合わせました。

「録画中継」
http://211.5.166.28/gikai/SubResultScreen.asp
府民生活・厚生」の中から必要なものを探してください。