児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

提供罪と所持罪は併合罪 最決H21.7.7判例タイムズ1311号P87

 提供罪−提供罪については、まだ判例がありません。
 かすがい理論を批判したのが弁護人の主張でした。


「複数の提供行為や所持行為を行った場合.提供又は所持としてはそれぞれ一罪になるのか.各行為ごとに併合罪になるのかについては触れていない」というのは不気味ですね。はっきりせいや。
 とりあえず、追起訴してもらった方が無難でしょうね。そしたら、弁護人が包括一罪を主張しますから、まあ、併合罪にしておいてください。
 次、実刑事案がきたら、その点の判例も作りましょう。

1 児童ポルノを,不特定又は多数の者に提供するとともに,不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合の罪数
2 児童ポルノであり,かつ,刑法175条のわいせつ物である物を,不特定又は多数の者に販売して提供するとともに,不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持した行為が,全体としてー罪とされた事例

1 まず,刑法175条の構成要件に該当する各わいせつ図画罪(頒布.販売,公然陳列,販売目的所持)は,その保護法益が,性秩序ないし性的に健全な風俗といった社会的法益であって,性質上.いずれも反復・継続させる行為を予想するものであるから.数個の行為が行われても.同一の意思のもとに行われる限りにおいて,包括して一罪として処断されるというのが通説,判例である(原判決引用の判例のほか.大判昭10.11.11刑集14巻1165頁参照).本決定もこれを前提としている

2 次に.児童ポルノの提供行為とその提供目的所持行為とが併合罪であるのか,包括一罪であるのかが問題となる.
 この点に関する最高裁判例はなく.下級審においては,これまで,わいせつ図画と同様に包括一罪となるとするものと併合罪とするものがあり,高裁においても両方の判断例が存在したが(包括一罪とするのは福岡高那覇支判平17.3.1〔公刊物未登載〕,併合罪とするのは東京高判平15.6.4高刑速〔平15〕83頁,刑集60巻5号446頁.大阪高判平20.4.17刑集62巻10号2845頁),近時は併合罪説が有力であったようである.
包括一罪とする説は,児童ポルノ法7条の罪をわいせつ図画罪と同様のものと考えているものと思われる.すなわち,平成16年に改正される前の同条の体裁は.わいせつ図画罪の条文とほぼ同様のものであり,各構成要件に該当する行為は,その性質上.いずれも反復・継続する行為を予想させるものともいえるからである.児童ポルノ法制定当時からの解説書(園田寿「解説児童買春・児童ポルノ処罰法」においても.そのような包括一罪との解釈が示されていた.
一方.併合罪とする説は,児童ポルノ法の被害法益の違いから,わいせつ図画罪とは同様に考えられないとするものである.すなわち,児童ポルノ法は.同法1条に明記されているとおり.当該児童の権利保護をも目的としているところ(平成16年の児童ポルノ法1条の改正により.児童の権利保護の面がより強調されている.島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」ジュリ1274号61頁参照),児童ポルノは.その提供によって初めて当該児童の権利が侵害されるのではなく,提供に至らない製造.所持等も,それ自体において当該児童の性的権利を侵害する行為であり,製造.所持等された児童ポルノが現実に提供された場合,製造.所持段階の児童への侵害が吸収される関係にもないから.これらを提供に包括して評価するのは相当でないとするのである.
なお,児童ポルノについても提供目的のある製造,所持等のみが処罰の対象となっており,単純な製造,所持等が処荊されないが,これは,単純な製造.所持等については刑事処罰をするほどその違法性が高いとはいえないと判断されただけと解される. 
本決定は.児童の権利を擁護しようとする児童ポルノ法の立法趣旨を根拠に,併合罪説をとることを明示した.
下級審においては.必ずしも訴訟上の争点にならなかった場合も含めて.包括一罪として処理されていた例が少なくなかったようであるが.今後は併合罪として処理されることになろう. 

ところで,本決定は.児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが併合罪の関係にあることのみを判示しており.複数の提供行為や所持行為を行った場合.提供又は所持としてはそれぞれ一罪になるのか.各行為ごとに併合罪になるのかについては触れていない.
少なくとも児童ポルノ法7条4項の提供罪については.「不特定又は多数の者」への提供が構成要件になっているのであるから,多数回の提供行為も一罪と考えるのが素直ではあろうが.いかなる解釈をとるのか,今後の判断に委ねられたものと考えられる 
さらに,児童ポルノの提供と所持との関係が併合罪であるとすると.児童ポルノでありかつわいせつ図画である物について提供(販売)行為と所持行為とがなされたときの罪数関係が問題になる.これまでの下級審裁判例における取り扱いは必ずしも統一されていなかったようである. 
考え方としては,原判決が示したとおり,「わいせつ図画罪は同一の意思による場合は包括一罪である」とするのが通説判例であること.児童ポルノかつわいせつ図画に係る提供(販売)行為及び所持行為を.それぞれについてみれば,自然的社会的に1個の行為が別の視点からみて児童ポルノ罪とわいせつ図画罪に該当するというものであるから.これが観念的競合の関係にあることを考えあわせれば.いわゆるかすがい理論が適用される一場面として全体が一罪となるとするのが素直な解釈である.
 本判決も.この論理によって全体がー罪となるとの判断を示している.かすがい理論については批判もあるところであるが.本決定は.本件の児童ポルノ罪とわいせつ図画罪が.その対象物の性質の見方によって異なる犯罪と評価されるという事案の性質に照らして,本判決のような結論を採用したものと思われる.
5 いずれも,実務上必ずしも確定した扱いがなされていなかった点についての最高裁としての判断であり,今後の参考になるものと思われる.

 ちなみに、「高裁においても両方の判断例が存在したが(包括一罪とするのは福岡高那覇支判平17.3.1〔公刊物未登載〕,併合罪とするのは東京高判平15.6.4高刑速〔平15〕83頁,刑集60巻5号446頁.大阪高判平20.4.17刑集62巻10号2845頁),近時は併合罪説が有力であったようである.」に挙がっている判決の弁護人は全部奥村です。奥村が併合罪と言えば、包括一罪と判示し、奥村が包括一罪だと言えば、併合罪と判示して逃げ回っていて、そろそろ逃げ場がない感じです。