児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

江見健一(岡山地方裁判所判事)による鹿野伸二(現広島家裁所長)・判解刑(平21) 194に対するコメント

 鹿野判事の、数回の児童ポルノ提供行為は併合罪だが、数回の児童ポルノ兼わいせつ図画の提供行為は、科刑上一罪になるというのは、エグい方・児童の権利侵害重い方が軽くなるのでおかしいですよね。そう奥村の上告趣意書に書いてありますが、最高裁が否定しています。最高裁で決まった事です。

 現場サイドからは、「数個の構成要件に該当すべき行為が「主要な部分」において重なりあえば一個の行為であるといわれることが多いが、何が「主要な部分」か自体明らかではない。」と言う声です。強要罪・強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪の罪数処理がまだまちまちになっています。

 江見説の「それは結局「単一の意思行為」を意味し、意思行為が単一かどうかは、「それぞれの具体的な場合ごとに、その行為者が行為を分割して、1つの構成要件に該当する行為だけをし、他の構成要件に該当する行為をしないことが可能であったかどうか」によって判断すべき32)であるということができそうである。」というのなら、ハメ撮りは2個になるが撮影型強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪は1個になりそうです。

〔警察学論集第70巻第5号〕
刑事事実認定重要事例研究ノート第33回罪数の評価
江見健一(岡山地方裁判所判事)
(2) 最決平21. 7 . 7刑集63・6・507は、児童ポルノを不特定多数の者に販売した行為と、児童ポルノでありわいせつ図画である物を不特定多数の者に販売する目的で所持した行為の罪数について、児童ポルノ提供罪(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条2項) と同提供目的所持罪(同条3項) とは併合罪の関係にあるとした上で、「児童ポルノであり、かつ、刑法175条のわいせつ物である物を、他のわいせつ物である物も含め、不特定又は多数の者に販売して提供するとともに、不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持した場合においては、わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ、その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供、同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は、それぞれ社会的、自然的事象としては同一の行為であって、観念的競合の関係に立つから、結局以上の全体が一罪となる」としたものである。
まず、前提として、児童ポルノ製造等の罪と児童ポルノ提供目的所持の罪との関係については、児童ポルノ製造等の罪は、児童を性欲の対象とする風潮を防止するという児童一般を保護する目的もあるとはいえ、当該児童の権利の保護もその目的とする罪であること、児童ポルノは、提供等によって初めて児童の権利が侵害されるのではなく、提供等に至らない製造、所持等もそれ自体被害児童の性的権利を侵害する行為であること等を踏まえて25)、両罪を併合罪としたものである。
このように解した場合、児童ポルノの提供が複数回行われた場合についても、本決定では明示されていないものの、個々の提供行為ごとに’罪を構成することとなると解される26)。
同決定は、その上で、これらの行為のうちの児童ポルノ提供目的所持の罪が同時にわいせつ物販売目的所持罪を構成する場合について更に判断を示したものである。
児童ポルノでありわいせつ物に当たる物の販売や所持を1回だけ行った場合、それは自然的観察の下で1個である(その販売や所持を児童ポルノに係るものとわいせつ物に係るものに分断することができないという点で、法規範を破る意思決定も1個である。)から、児童ポルノ提供の罪等とわいせつ図画頒布罪等の観念的競合となることを前提として、それらが複数行われた場合も一罪となる旨判断をしたのである。
その判断に際しては、わいせつ図画頒布罪が社会的法益に対する罪であり、わいせつ図画が頒布等されることによって社会の善良な性秩序が害されることを防止しようとするものであり、「その性質上、いずれも反復.継続させる行為を予想するものであるから、同一の意思のもとに行われる限りにおいて、数個の行為は、包括して一罪として処断される」(大判昭10・11 ・11刑集14・1165等) ことに基づいて、一罪と認められる複数のわいせつ物頒布行為等の一部が、同時に児童ポルノ提供の罪に該当しているという事実関係が考慮されたものと考えられる27) 28)。

25)鹿野伸二・判解刑(平21) 194
26)鹿野・前掲195
27)鹿野・前掲197
28)鹿野・前掲199は、このような処理によって、併合罪となるはずの複数の児童ポルノ提供の罪について、わいせつ図画頒布罪が加わることによりかえって処断刑が軽くなるという不合理な問題点について、そのような問題点は牽連犯によるかすがいの際に生じる問題であり、本件のような場合、併合罪である2つの行為を別の形で法的評価しただけであって、新たな行為が加わったとはいえないことや、併合罪としても法定刑の上限を超えることにならないこと等を指摘して、実際上それほど大きな問題とならないと述べる。
しかし、この場合にも、本来併合罪となる複数の犯罪が同時に他の犯罪を構成することによって処断刑が軽くなるという不合理が存在することは明らかである。

(3) 最決平21 ・10・21刑集63. 8・1070は、児童に性交や性交類似行為という淫行をさせる行為をした機会に、同児童をして、性交等に係る姿態をとらせ、これを撮影して電磁的記録媒体に描写して児童ポルノを製造したという児童に淫行をさせる罪(児童福祉法34条1項6号) と児童ポルノ製造の罪(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項)の事案について、児童に淫行をさせる行為と児童ポルノ製造の行為とは、「一部重なる点はあるものの、両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや、両行為の性質等にかんがみると、それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえる」として、併合罪である旨判示した。
同決定の判断は、まず、児童ポルノ製造の罪の実行行為について、製造とは児童ポルノを製造することをいい、「姿態をとらせること」は製造とは別個の行為であって児童ポルノ製造の罪の実行行為に当たらず、製造の手段の行為にすぎないという理解29)もあり得たものの、当該罰則において「姿態をとらせ」ることが要件として定められ、姿態をとらせたことにも当罰性の根拠が求められていると解されていることから、それが実行行為の一部であると解され、したがって、児童ポルノ製造の罪と児童に淫行させる罪の実行行為には一部重なる部分があることを前提としている30)。

30)三浦・前掲489.最判昭31 ・3 ・20刑集10・3 ・374は、判例が観念的競合の関係が認められるためにこのような「重なり合い」が不可欠とするが、前掲最判昭和49年は、これを必須の条件とは考えていないと思われる(林・前掲224、本吉・前掲113)。

数個の罪名に触れる行為が完全に重なっているときは、観念的競合の要件である1個の行為に当たると認めることができることは明らかであるものの、その重なりが一部である場合の判断は検討を要する31

31)数個の構成要件に該当すべき行為が「主要な部分」において重なりあえば一個の行為であるといわれることが多いが、何が「主要な部分」か自体明らかではない。

本決定は、両罪の実行行為が一部重なるのに行為者の動態は社会的見解上別個のものといえる理由として、「両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと」を指摘している。
その意義を検討すると、前述のとおり、観念的競合の処断刑併合罪処断刑よりも軽いのは、法規範を破る意思決定が1回であることにポイントがあり、「1個の行為」とは「単一の禁止・命令に違反する行為」であり、それは結局「単一の意思行為」を意味し、意思行為が単一かどうかは、「それぞれの具体的な場合ごとに、その行為者が行為を分割して、1つの構成要件に該当する行為だけをし、他の構成要件に該当する行為をしないことが可能であったかどうか」によって判断すべき32)であるということができそうである。

なぜなら、1個の意思決定に基づく行為であれば、その行為をするかしないかのいずれかの選択の余地しかないのに対し、一部を行い他の一部を行わないことが可能だということは、それぞれについて別個の意思決定が存在し得ること、すなわちそれに対応する禁止・命令が数個存在することを示すからである。
このように行為者の意思決定の内容を行為者に与えられた法規範の面から検討する視点を示したのが「両行為が通常伴う関係」の内容ということができるように思われる。
児童に淫行をさせる罪の行為(被告人自身がその相手方になるかどうかも含めて、種々の方法が考えられる)は、児童に対して性交等をさせることであり、それによって児童の健全な育成に害を与えるものであるのに対し、児童ポルノ製造の罪は、視覚的記録を作成することによってその児童の権利を侵害するものであって、前者に際して後者が行われることはあり得るとはいえ、その編集や複製等別個の段階においても行われ得るものであって、その動態は異質なものであり、社会的事実として一体性や同質性があるとはいいにくいと思われる33)。
そうすると、同決定が「両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと」という新たな視点を指摘しつつ両事実を併合罪の関係にあると判断したことは合理的と思われる。

32)中野・前掲「共犯の罪数」82。
これは、観念的競合がl罪として取り扱われる実質的根拠を違法減少に求める見解に基づくものではある。
33)二浦・前掲496。
そのほか、東京高判平成21 ・10・14東京高等裁判所判決時報刑事60. 1〜12・161が参考になる。