児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監護者と共謀して監護者でない者がわいせつ行為・性交した場合の、監護者わいせつ罪・監護者性交罪の成否について

 母親が知人と娘を性交等させるパターン
 大津地裁(監護者わいせつ)松江地裁(監護者性交)を観測しています。

松江の判決がDBに載りました。
被告人aは、非身分者なので、監護者性交罪の構成要件自体が実現されていないから、監護者性交罪は成立しないと主張すべきでしょうね。

lex/db
松江地方裁判所
令和5年9月27日刑事部判決
第2(令和5年2月28日付け公訴事実)
 被告人Aは、長女であるB(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者、被告人a(以下「被告人a」という。)は、被告人Aの交際相手であるが、被告人両名は、共謀の上、Bが18歳未満の者であることを知りながら、被告人aがBと性交をすることを企て、令和5年1月2日から同月4日までの間に、前記被告人A方において、同人がBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて、被告人aがBと性交をした。 

(法令適用の補足説明)
 判示第2の事実に関し、関係証拠に照らせば、被告人aは、Bの監護者ではないものの、監護者(実母)である被告人Aに対し、被告人aとの性交に応じさせるためのBの説得等を要求するなどし、それに応じた被告人AがBの説得等を行うなどしたことにより、被告人Aと共謀の上でBとの性交を実現した事実経過が認められる。このように、本件事案は、被告人aが、客観的に、被告人AがBを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたもので、前記働きかけに当たって監護者の影響力を認識してこれを利用する意思であったことも明らかであるから、被告人aについて、前記のとおり、刑法65条1項を適用した。

松原芳博「身分犯の共犯をめぐる諸問題」研修第904号
Ⅳ非身分者の行為に対する身分者の関与
報道によれば、令和5年9月27日、松江地裁は、交際相手Yの10歳代の娘Aと性交した男Xに監護者性交等罪(令和5年改正前の刑法179条2項)で有罪を言い渡したとのことである。Xは、Aの監護者には当たらないが、Aの監護者であるYに対してAとの性交を要求し、YがAにその要求を伝え、Xと性交するよう説得したことから、刑法65条を適用してYとの監護者性交等罪の共同正犯とされたもののようである(注27)。
同罪における監護者たる地位は、構成的身分であり違法身分であることから刑法65条1項の適用領域に属する事情であるところ、本件では、性交等の主体であるXが非身分者であることから、非身分者の実行行為に身分者が関与した形になっている点が問題となる(注28)。
これに対して、身分者による非身分者の行為への関与という問題は、狭義の共犯においてのみ生じるものであって、主従の関係のない共同正犯では生じえないという見方もあろう。しかし、刑法65条1項の身分は一般に構成要件該当行為(実行行為)との関係において意味を有すると考えられるところ、共謀共同正犯において実行行為者が非身分者の場合には、身分者との間に共謀があっても、身分と実行行為との間の有意な結び付きを欠くため、当該犯罪の基本的構成要件(当該犯罪の予定する不法類型)を充足していないことがありうるように思われる。
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監護者性交等罪についても、刑法179条2項の文言ならびに立法過程で想定されていたと考えられる事例からみて、性交等の相手が監護者であることの影響力により同意が不任意となる状況を類型化したものであって、監護者自身が性交等を行うことを予定した犯罪類型(監護者と被監護者との性交等を構成要件的結果とする犯罪類型)であると解すべきではないだろうか。本罪の成立には監護者としての影響力が及んでいる状態で性交等を行えば足り、影響力を及ぼすための具体的行為を要しないと解されている(注32)のも、性交等の相手方が監護者であることを前提とするものといえる(注33)。性交等の相手が監護者であることを要しないとすると、監護者が被監護者に売春をさせたような事例でも、監護者と客との間に共同正犯の関係が認められる限りで本罪の成立を肯定することになるであろうが、そのような事例は本罪の予定するところではないように思われる。
(注32)立案担当者の解説として、松田哲也=今井將人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号(2017年) 251-252頁参照。
(注33)仮に性交等の相手が監護者でない事例を本罪に含むと解した場合、そのような事例においては監護者による具体的な影響力の行使の立証が必要となろう。しかし、本罪は類型的に有効な同意が欠ける場合を想定するものであるから、具体的な影響力の行使が問題となる場合には、具体的状況下における同意の不存在ないし不任意性に注目する不同意性交等罪(本件当時であれば準強制性交等罪)の成否を検討すべきではないだろうか。

松川哲也,今井将人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号
(ウ) 身分犯
本罪の主体は, 18歳未満の者を監護する者という一定の身分を有する者に限られており, 本罪は身分犯である。
そのため、身分のない共犯者が身分のある者に加功した場合, すなわち,例えば, 18歳未満の者を現に監護する親とその知人とが共謀の上, 18歳未満の者を現に監護する親であることによる影響力があることに乗じて,両者がそれぞれ実行行為に及んだ場合はもとより,いずれかが18歳未満の者に対しわいせつな行為に及んだ場合であっても,刑法第65条第1項が適用され,監護者わいせつ罪の共同正犯が成立し得る。
行為
(ア) 本罪の行為は,現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をすることである。
18歳未満の者を現に監督し, 保護している者が,依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力を及ぼしている状態で, 監護者に依存し, 保護されている被監護者に対して行われたわいせつな行為は,精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の被監護者が自由な意思決定をすることができない状態の下で行われたわいせつな行為であることから,被監護者の性的自由ないし性的自己決定権を害するものであるといえる。
他方,監護者が18歳未満の者にわいせつな行為を行った場合であっても,当該行為時において監護者がその影響力を及ぼしている状態であると認められない場合には,当該わいせつな行為が18歳未満の者の性的自由ないし性的自己決定権を害するものであるとまではいえない。
そこで,本罪では,監護者が18歳未満の被監護者にわいせつな行為を行っただけでなく, 18歳未満の者に対する 「現に監護する者であることによる影響力」 が一般的に存在し,かつ,当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行うことを要することとし, 「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」 わいせつな行為をしたことが要件とされたものである。
(イ)「現に監護する者であることによる影響力」の意義
本罪における 「影響力」とは, 人の意思決定に何らかの作用を及ぼし得る力をいう。
「現に監護する者であることによる影響力」とは,監護者が,被監護者の生活全般にわたって, 衣食住などの経済的な観点や生活上の指導・監督などの精神的な観点から,現に被監護者を監督し, 保護することにより生ずる影響力である。
したがって,本罪の 「現に監護する者であることによる影響力」には, 特定のわいせつな行為を行おうとする場面における, その諸否等の意思決定に直接影響を与えるものだけではなく, 被監護者がわいせつな行為に関する意思決定を行う前提となる人格,倫理観,価値観等の形成過程を含め, 一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれる。
(ウ)「乗じて」の意義
「(現に監護する者であることによる影響力があること)に乗じて」とは, 「現に監護する者であることによる影響力」 が一般的に存在し,かつ,当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為をすることをいう。
「乗じて」といえるために, わいせつな行為に及ぶ特定の場面において, 影響力を利用するための具体的な行為を行うことは必要なく, 影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行ったことで足りると考えられる。
すなわち, 「現に監護する者であることによる影響力」 には, 特定のわいせつな行為を行おうとする場面における, その諾否等の意思決定に直接影響を与えるものだけではなく,被監護者がわいせつな行為に関する意思決定を行う前提となる人格, 倫理観、価値観等の形成過程を含め,一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれるところ, 18歳未満の者を現に監護している者は,通常,当該18歳未満の者に対し, このような影響力を及ぼしている状態にあるといえ, わいせつな行為を行う特定の場面において, 監護者がこの影響力を利用する具体的な行為を行っていない場合であっても,このような一般的かつ継続的な影響力を及ぼしている状態であることから、被監護者にとっては、その影響力を離れて自由な意思決定ができない状態にあるのが通常である。
(注8)
そして, 18歳未満の者を現に監督し, 保護している者が,このような影響力を及ぼしている状態で、 当該18歳未満の被監護者に対してわいせつな行為を行えば,それ自体, 当該影響力により被監護者が自由な意思決定をすることができない状態に乗じてわいせつな行
為を行っていることに他ならない。
よって, 「乗じて」といえるために, わいせつな行為に及ぶ特定の場面において, 影響力を利用するための具体的な行為を行うことは必要ないと考えられる。
(注9)
もっとも,このような影響力が一般的に存在していても、具体的なわいせつな行為が,監護者の影響力と無関係に行われたと認められるような場合には,当該行為時においては,監護者がその影響力を及ぼしている状態でわいせつな行為を行ったとはいえず, 影響力があることに 「乗じて」 行ったとは認められない。