「させる」というのがゆるゆるの感じです。
馬渡香津子調査官
最高裁判所判例解説法曹時報70巻8号
1 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」の意義
2 児童福祉法34条1項6号にいう「させる行為」に当たるか否かの判断方法
平成26年(あ)第1546号同28年6月21日第一小法廷決定棄却
第1審福岡地裁飯塚支部第2審福岡高裁刑集70巻5号369頁イ青少年保護育成条例との関係
昭和60年判例で問題とされた青少年保護育成条例にいう「淫行」の主体は「児童の相手となる者」であって,児童の相手側の行為に視点を置き,児童を相手に淫行することを対象とする規制であるのに対し,児童福祉法上の「淫行」の主体は,保護されるべき被害児童自身であって,児童に視点を置き,児童に淫行をさせることを対象とする規制である。したがって, このような青少年保護育成条例違反行為については,行為者の側の行為が昭和60年判例で示された「淫行」( I青少年を誘惑し,威迫し,欺固し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為, Ⅱ青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為)をする行為を行うだけで,処罰対象とされるものであって(前掲亀山研修367号59頁は,抽象的危険犯と整理している。),児童の意思決定に対する影響力の有無や助長・促進行為の有無を考慮する必要がないなどの点において,本罪と異なり,同条例の解釈が本罪の解釈に直接的な影響を与えることはないと考えられる。なお,昭和60年判例で示されている上記Iのような手段に関する要素は,児童福祉法上では, 「させる行為」該当性において実質的に考慮されることになろう。
ウ監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪との関係
平成29年改正により新設された刑法179条の監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は, 18歳未満の者に対し,監護者であることによる影響Jがあることに乗じてわいせつな行為・性交等をした場合について,強制わいせつ罪・強制性交等罪と同様の法定刑で処罰するものである。このような行為は, 18歳未満の者が抵抗せずに応じたとしても,その意思決定は,そもそも精神的に未熟で判断能力に乏しい18歳未満の者に対して,経済的にも精神的にも依存している監護者の影響力が作用してなされたものであり, 自由な意思決定ができないと考えられることから,性的自由なし、し性的自己決定権を侵害するものとして,強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同等の悪質性・当罰性があるものとして, これらの罪同様に重く処罰するものとされている(松田哲也・今井將人「刑法の一部を改正する法律について」法曹時報69巻11号247頁,橋爪隆「性犯罪に対処するための刑法改正について」法律のひろば70巻11号7頁
, (注8)等参照)。
これに対し,児童福祉法の定める本罪は,性的行為の意思決定能力がある13歳以上18歳未満の者の自発的意思に基づく性交等についても処罰対象となり得るのであって,本罪の保護法誌は性的自由ではなく,あくまで児童の健全育成と解される。
したがって,監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は,本罪と保護法益を異にしており,平成29年刑法改正による監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の新設は,児童福祉法上の本罪の解釈に直接的に影響することはないと考えられる(前掲松田・今井255頁, 267頁注17, 18,今井猛嘉「監護者わいせつ罪及び(注9)監護者性交等の罪」法律時報90巻4号65頁注13参照)。
(注9) なお,本罪と監護者わいせつ罪・監護者性交等罪とでは保護法益が異なるとの立場からは,本罪と監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪との罪数関係は,観念的競合であると説明されている(前掲松田・今井255頁,前掲橋爪11頁等)。これに対し,新設された監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は,性的自己決定の保障のみならず,被監護者の人格の発展も併せて保護の対象に取り込んでいるとして,本罪の保護法益と異質のものではなく,本罪は監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪に吸収されるとの見解もある(前掲深町342頁,樋口亮介「性犯罪規定の改正」法律時報89巻11号118頁)。
⑤平成21年判例(最高裁平成21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁)
平成21年判例は,中学校の教員である被告人が,前後20回にわたり,犯行開始当時に被告人勤務の中学校に在籍していた被害児童(当時14~15歳)をして,被告人を相手に性交させ,又は性交類似行為をさせ, もって児童に淫行をさせるとともに,上記20回のうち13回におし、て,児童をして性交等に係る姿態をとらせて撮影するなどして児童ポルノを製造した事案において,本罪と児童ポルノ製造罪との罪数関係について判示したものであるが,行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為が,本号に該当することを当然の前提として判示している。
・・・平成24年高裁判例は,被告人が中学校教諭で剣道部顧問であり,被害児童2名が同校元生徒で剣道部部員であった旨を罪となるべき事実に記載していた第1審判決について理由不備の違法があるとした。