あたかもAがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社cの著作権を侵害するとともに,公然と事実を摘示してAの名誉を毀損し,(東京地裁r2.12.18)
裁判年月日 令和 2年12月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(特わ)2557号
事件名 著作権法違反,名誉毀損被告事件
文献番号 2020WLJPCA12186007
上記の者に対する著作権法違反,名誉毀損被告事件について,当裁判所は,検察官北村友一及び国選弁護人D出席の上審理し,次のとおり判決する。
(犯罪事実)
被告人は,
第1 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,別表記載のとおり,令和2年3月28日頃から同年4月19日頃までの間,3回にわたり,兵庫県三田市〈以下省略〉被告人方において,株式会社aほか2社が著作権を有する映画の著作物である「○○」等を,パーソナルコンピュータを用いて出演女優の顔に別人の女性の顔を合成加工して翻案した動画を作成し,同年3月28日頃から同年4月24日頃までの間,3回にわたり,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社aほか2社が著作権を有する前記翻案された各動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記憶装置に記録保存し,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記各動画の情報を記録保存した場所を示すURLを,b株式会社が日本国内において管理するサーバコンピュータに記録保存するなどし,インターネットを利用する不特定多数の者に前記各動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社aほか2社の著作権を侵害し,
第2 法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,同月17日頃,前記被告人方において,株式会社cが著作権を有する映画の著作物である「△△」を,前記パーソナルコンピュータを用いて口淫等している出演女優の顔にA(以下「A」という。)の顔を合成加工して翻案した動画を作成し,同月19日頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記株式会社cが著作権を有する前記翻案された各動画の情報を,インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記憶装置に記録保存し,その頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,前記動画の情報を記録保存した場所を示すURLを,前記b株式会社が日本国内において管理する前記サーバコンピュータに記録保存するなどし,インターネットを利用する不特定多数の者に対し,あたかもAがアダルトビデオに出演したように見える前記動画の情報を自動公衆送信し得る状態にし,もって前記株式会社cの著作権を侵害するとともに,公然と事実を摘示してAの名誉を毀損し,
第3 同年7月6日頃,前記被告人方において,前記パーソナルコンピュータを使用し,インターネットを介して,不特定多数の者が閲覧可能な「□□」と題するインターネットサイト内に,B(以下「B」という。)の画像とともに,女性が男性と性交しているような内容のアダルトビデオの出演女優の顔部分にBの顔を合成加工し,あたかも同人がアダルトビデオに出演したように見える動画データが蔵置されたURLを掲載し,不特定多数の者がこれらの動画等を閲覧することが可能な状態にし,もって公然と事実を摘示してBの名誉を毀損した。
(法令の適用)
罰条
第1の各行為 別表記載の番号ごとに,著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
第2の各行為中 著作物の翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害を包括して,著作権法119条1項,23条1項,27条,28条
名誉毀損について,刑法230条1項
第3の行為 刑法230条1項
科刑上一罪の処理 第2について,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い著作権法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択 第1ないし第3について,いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
被告人は,◎◎と称する,人工知能を利用して動画中の人物の顔を加工することのできるフリーソフトウェアを使用し,女性芸能人の顔の画像を,市販されているアダルトビデオの動画にはめ込んで,女性芸能人がアダルトビデオに出演しているかのように見える,いわゆるディープフェイクポルノを作成して,自らが運営するインターネット掲示板で公開することを繰り返しており,その一環として,本件各犯行に及んでいる。
このような行為は,女性芸能人の側から見れば,タレントとしてのイメージとその名誉を毀損し,不快感等の精神的苦痛を及ぼすと同時に,芸能活動への支障によって多大な経済的損害を及ぼしかねない非常に悪質な行為である。当然ながら,判示第2のA,判示第3のBとも,厳しい処罰感情を示している。また,アダルトビデオの著作権者から見れば,その販売に支障を生じさせ,経済的損害を及ぼしかねない行為であり,判示第1,第2の各制作会社は,厳しい処罰感情を示している。
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東京地方裁判所刑事第11部
(裁判官 井下田英樹