【判例番号】 L07130019
児童福祉法違反被告事件
東京地方裁判所判決平成28年1月8日
【判示事項】 被告人がその経営する会社にタレントとして所属していた被害児童に,その指導者としての立場を利用して性行為をさせた事案につき,裁判所は,卑劣な,かつ悪質な犯行であるとしたうえで,被告人に有利に酌むべき事情も考慮し、被告人を懲役2年(執行猶予5年)に処した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載主 文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,タレントのマネージメント等を行う会社の代表取締役であった者であり,タレントを目指していたAに対し,前記会社の所属タレントとしてグラビアDVDに出演することを持ちかけた上,芸能界での活動について助言や指導をしていたものであるが,同児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,前記立場を利用し,平成26年9月下旬頃から同年10月上旬ころまでの間に,東京都目黒区(以下略)において,同児童をして自己を相手に性交させ,もって児童に淫行させる行為をしたものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条 児童福祉法60条1項,34条1項6号
刑種の選択 所定刑中懲役刑を選択
未決勾留日数の算入 刑法21条
刑の執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用(負担) 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
本件は,被告人がその経営する会社にタレントとして所属していた被害児童に,その指導者としての立場を利用して性行為をさせた事案であり,被告人の指示に事実上従うほかなかった被害児童の弱い立場につけこんだ卑劣な犯行というほかなく,同児童の健全な育成を阻害しかねない非常に悪質なものである。被告人は,やや古い前科とはいえ,平成12年8月に,アダルトビデオ出演を拒否した未成年の女性から金員を喝取したとの内容の恐喝罪により,懲役2年6月・5年間執行猶予に処せられたほか,平成18年7月には18歳未満の女子に対しみだらな性行為をしたとの条例違反罪により罰金30万円に処せられた前科を有しながら本件犯行に及んでおり,被告人はその遵法精神があまりに不十分といわざるを得ず,未成年の女性を相手とする犯罪への性向も窺われることも考慮すると,本件類似の再犯に及ぶ可能性も一定程度危惧せざるを得ない。そうすると,被告人の負うべき責任は到底軽視できるものではない。
他方,被告人は当公判廷において本件犯行を認め,被害児童に対する被害弁償等は尽くされていないものの,被害弁償金を準備するなどして反省の弁を述べていること,被告人には前記の前科があるものの,本件犯行は,前記執行猶予前科の猶予期間満了後9年が経過した後の犯行であることのほか,被告人の内妻が今後の被告人の指導監督を誓約していること等,被告人に有利に酌むべき事情も認められる。
そこで,これらの事情も考慮した上で,被告人に対しては主文掲記の刑に処した上,今回に限ってその刑を5年間猶予することとする。
(求刑 懲役2年)
平成28年1月8日
東京地方裁判所刑事第10部
裁判官 高森宣裕