児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

迷惑条例の「卑わいな言動」とは

 文献・判例を全部紹介しておきます
 刑法の「わいせつ」よりは広いようです。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
最高裁判所第3小法廷決定平成20年11月10日
最高裁判所刑事判例集62巻10号2853頁
裁判所時報1471号372頁
判例タイムズ1302号110頁
判例時報2050号158頁
LLI/DB 判例秘書登載
ジュリスト1433号114頁
法曹時報63巻10号2545頁

 弁護人古田渉の上告趣意のうち,憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ,職権で検討するに,原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
 すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
 以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。

解説
判例タイムズ1302号110頁
1 本件は,いわゆる迷惑防止条例違反の事案であり,事実関係は,次のとおりである。すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,ショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客に対し,その後ろを少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,デジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
 本件で適用された北海道迷惑防止条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項は,「何人も,公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。(1)衣服等の上から,又は直接身体に触れること。(2)衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し,又は撮影すること。(3)写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により,衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見,又は撮影すること。(4)前3号に掲げるもののほか,卑わいな言動をすること。」と定めており,10条1項が,これに違反した者は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨規定している。本件においては,被告人の前記行為が,前記2条の2第1項4号違反に問われたものである。迷惑防止条例のこれまでの検挙例といえば,同項1ないし3号にあるような,物理的に身体に触る痴漢の事案,あるいは,スカートの中等隠れた部分を撮影する盗撮の事案が多かったと思われる。本件は,盗撮行為の一種とはいえるものの,周囲から見ることのできるズボンの上からの撮影であることから,前記罰則の要件に当たるかどうかが問題となったものである。
2 本件は,当初,略式命令請求がなされたが,1審は,略式命令不相当として公判手続に移行させた上,被告人が臀部をねらって撮影したとまでは断定できないなどとした上で,無罪判決を言い渡した。これに対して,検察官が控訴したところ,原判決は,被告人は臀部をねらっていたと認めることができるなどとした上で,1審判決を破棄して有罪判決を言い渡した(判タ1271号346頁。なお,原判決の評釈として,坂田吉郎・警論61巻2号196頁がある。)。
3 上告審において,被告人は,本件で適用された罰則である前記条例2条の2第1項4号の「卑わいな言動」の構成要件が不明確であり,憲法31条,39条に違反する旨主張したが,本決定は,「卑わいな言動」とは,「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」をいうと定義した上で,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,不明確ということはできず,憲法違反の主張は前提を欠くとした。
 そして,本決定は,被告人の本件行為の前記罰則該当性について,前記のような本件の具体的な事実を判示した上で,そのような事実関係によれば,「被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから」,前記条例2条の2第1項4号に当たると判断した。なお,田原裁判官の詳細な反対意見がある。
4 本件は,北海道条例違反の事案ではあるが,迷惑防止条例は,現在すべての都道府県において存在しており,本件で問題となった前記条例2条の2第1項と同様ないし類似の罰則も,規定振り等において相違点はあるものの,各都道府県の条例において存在している(各都道府県の条例における罰則の内容等については,合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」『小林充先生=佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集(上)』520頁以下に詳しい。)。
 「卑わいな言動」の意義及びその明確性については,これまで最高裁判所において判示した例はなく(下級審においても,東京都条例に関する東京高判昭52.11.28東高時報28巻11号142頁が目に付く程度である。学説として「卑わいな言動」の意義に触れたものとしては,安冨潔「特別刑法の諸問題(4)迷惑防止条例」捜査研究610号57頁,會田正和「迷惑防止条例違反」東條伸一郎ほか編『シリーズ捜査実務全書(9)風俗・性犯罪』336頁等がある。),この点に係る本決定の判断は,他の都道府県における同様の罰則の解釈においても参考になるものと思われる。
 また,本件事案の罰則該当性に係る判断についても,注目されるものと思われる。すなわち,本件のような事案においては,公共の場所において隠されていない部分を見ること自体は基本的に許された行為ではないか,そして,その写真を撮ることも,本件罰則の適用に関しては,見ることとの間で質的な違いはないというベきではないか,などの問題が考えられるからである(問題点については,田原裁判官の反対意見において多角的に論じられているところである。)。多数意見は,初めに,被告人は,ショッピングセンター内で,女性客の後ろを少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mという近い距離から約11回にわたって細身のズボンを着用した同女の臀部を撮影しているなどの本件事案の具体的状況・態様を判示し,それを前提に本件行為の罰則該当性を肯定している。これによれば,本件においては,ねらった対象が臀部であること,また,相当に執ような態様で撮影していることなどが指摘できるのであり,多数意見が,本件撮影行為について,その対象が隠されていない部分であるにもかかわらず,「被害者を著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような,卑わいな言動」に当たるとした判断は,こうした本件における具体的な事情を踏まえたものであったと考えられる。
 このように,本件の罰則該当性に係る判断は,飽くまで事例判断ではあるが(盗撮行為等については,様々な態様があり得ることにつき,中村孝「いわゆる迷惑防止条例違反の成否が問題となった事例」研修671号117頁等参照。),具体的に重要と考えられる事実を挙げた上で,衣服の上からの撮影も迷惑防止条例違反罪に当たる場合があることを示したものであり,その前提として判示された「卑わいな言動」の定義,その構成要件が不明確でないとの判断とともに,実務上重要な意義を有すると思われる。

東京高等裁判所判決昭和52年11月28日
東京高等裁判所判決時報刑事28巻11号142頁
 そこで考察すると、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三七年一〇月一一日東京都条例第一〇三号)は、当初、街頭における犯罪を防止し、街頭を明るくきれいにするという理念のもとに立案されたものであるが、その後制定の過程で、必ずしも街頭における暴力犯罪に該当しない場合でも、いやしくも都民生活に直接迷惑や不安を与えるような、いわゆる小暴力事犯をすべて取締ることとし、もって都民生活の平穏を保持することを目的とし(同条例一条参照)、小暴力事犯の予防と取締り上の既存法令の不備を補うために制定されたものであるから、右条例制定の趣旨に鑑みれば、同条例五条一項にいう「婦女を著しくしゅう恥させ、または不安を覚えさせる卑わいな言動」とは、都民の善良な風俗環境を害し、法的安全の意識を脅かすような卑わいな言動であって、善良な性的道義観念に反するいわゆる猥褒な行為には達しないものがこれにあたると解すべきであって(なお、附言すると、軽犯罪法一条二〇号所定の、一般公衆にけん悪の情を催させる行為と対比すれば、本条例違反の罪は、特定の婦女を対象とするものであって、行為の悪性において罪質が右軽犯罪法違反の罪より重い点で、明確に区別される。)、このような卑わいな言動に該当するかどうかは、健全な社会常識に基づいて、その言動自体のほか、対象となった婦女の年令、その際の周囲の状況等をも考慮して決定すべきものであるといわなければならない。(綿引・石橋・藤野)

安冨潔「第4回 迷惑防止条例」捜査研究 第51巻7号
「著しく」とは、通常人の感覚において、「ひどい」と思われる程度のものであれば足りる。
「しゅう恥させ」とは、性的なはじらいを感じさせることをいう。
「不安を覚えさせる」とは、卑わいな言動によって身体に対する危険を感じさせ、あるいは心埋的圧迫を与えることをいい、脅迫に至らないものをいう。行為者の言動が、客観的に、他人をしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるようなものであれば足り、現実に他人をしゅう恥させ、又は不安を覚えさせることは必要でない。
「卑わいな言動」とは、一般人の性的道義観念に反し、他人に性的しゅう恥心、嫌悪を覚えさせ、又は不安を覚えさせるようないやらしくみだらな言語、動作をいう。条例によっては、「みだらな行為」とするものもあるが、「卑わいな言動」と同趣旨のものと思われる。
卑わいな言動の中には刑法第一七四条の「わいせつな行為」も含まれ、「卑わいな言動」は、「わいせつな行為」よりも広い(刑法上、「わいせつ」とは、いたずらに性欲を輿醤又は刺激させ、かっ、普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(最判昭二六・五・一 刑集五巻六号一二六頁〉とされる)。
卑わいな言動のうち、わいせつに当たる行為が、公共の場所又は公共の乗り物の中で行われる場合、通常、公然性を有すると考えられるので、刑法第一七四条の公然わいせつ罪が成立し、迷惑防止条例違反の行為はこれに吸収される。しかし、わいせつな言語は、刑法第一七四条のわいせつ行為に含まれないとされているので、迷惑防止条例違反のみが成立する。したがって、卑わいな言動のうちわいせつ行為に当たらない卑わいな動作及びわいせつを含む卑わいな発言につき、迷惑防止条例違反が成立する。
例えば、卑わいな動作としては、臀部、太腿、膝頭に触る、スカートをまくる、スカートのファスナーをはずす、スカートの下からのぞき見する、スカートの下からビデオカメラ等で股間を撮影するなどがあり、卑わいな発言としては、通行中の婦女に「パンティーちょうだい」、「おっぱい触らせて」などと申し向けるなどがある。

風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版
「しゅう恥させ」とは、性的はじらいを感知させるということである。
「不安を覚えさせる」 とは、卑わいな言動によって身体に対する危険を覚えさせ、あるいは心理的圧迫感を与えることをいい、脅迫に至らないものをいう
「覚えさせるような」とは、行為者の言動が、客観的に、人をしゅう恥させ、あるいは不安を覚えさせるようなものであれば足り、現実に、人をしゅう恥させ、あるいは不安を覚えさせなくてもよい。したがって、人が、行為者の卑わいな言動に気付いていなくても、もし、気付いたならば、しゅう恥し、あるいは不安を覚えることが明らかな場合は、本項違反が成立する
「卑わいな言動」とは、いやらしくみだらな言語、動作で性的道義観念に反し、人に性的しゅう恥心、嫌悪感を覚えさせ、又は不安を覚えさせるに足るものをいう
卑わいな言動の中にはわいせつな行為(いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的しゅう恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為〈最判昭27.4.1 刑集6.4.573 >)も含まれ、「卑わいな言動」 は、わいせつな行為(例えば、陰部に手を触れる、女性の乳房を弄ぶ、接吻をするなど)よりも広い概念である。卑わいな言動のうち、わいせつに当たる行為が、公共の場所又は公共の乗り物の中で行われる場合、通常、公然性を有すると考えられるので、刑法第174 条の公然わいせつ罪が成立し、本項違反は、これに吸収される。
しかし、わいせつな言語は、刑法第174 条のわいせつ行為に含まれないとされているので、本項違反のみが成立する。したがって、卑わいな言動のうちわいせつ行為に当たらない卑わいな動作及びわいせつを含む卑わいな発言につき、本項違反が成立する。
例えば、卑わいな動作としては、臀部、太腿、膝頭に触る、スカートをまくる、スカー卜のチャックをはずす、スカートの下からのぞき見する、スカートの下からビデオカメラ等で股閥を撮影するなどがあり、卑わいな発言としては、通行中の女性に「パンティーちょうだい」、「おっぱい触らせて」 などと申し向けるなどがある

岡山県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例解説
「卑猥な言動」
いやしくも淫らな言動,動作で普通人の性的道義観念に反して性的しゅう恥心を害し,嫌悪感を催さしめ,または不安を覚えさせるに足る言語および動作をいう。
卑わいな言動の中には わいせつ行為も含まれるのであって,刑法第174条〔公然わいせつ罪)のわいせつ行為はわいせつな言動の一部(特に強い部分だけ〕であるから, ここにいうひわいな言動は刑法のわいせつよりは広い概念である。卑わいな言動のうち,わいせつに当る行為が,公共の場所または公共の乗物の中で行なわれる限り、通常公然性を有すると考えられるので,多くの場合刑法の公然わいせつ罪が成立し本条第2項はこれに吸収される。
従って卑わいな言動のうち,わいせつ行為に当らない卑わいな行為や,わいせつな言語,卑わいな言語等については本条違反のみが成立するのである。

大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の解釈及び運用についての全部改正について h17
(2 ) 「著しく」の程度は、具体的にどの程度と明示することは非常に困難であるが、社会通念
上、容認し難い程度のものであれば足りる。
(3 ) 「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」とは、社会通念上人に著しく性的恥じらいを感知させ、又は不安を覚えさせるであろう程度のことをいい、被行為者が行われた言動を認識する必要はあるが、当該言動によって実際に性的恥じらいを感知し、又は不安を覚えたか否かは問わない。この場合において、被行為者とは、言動の直接的な対象となった人はもとより、言動の直接的な対象となった人が当該言動の内容を理解できない場合において、それを理解し得る能力があり、かつ、当該言動を認識し得る状態にある間接的な対象となった他の人も含まれる。