児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

キスという行為自体がもつ性的性質に加え,被告人とAの関係性や本件キスに至る具体的な状況をも考慮すると,性的な意味合いの乏しいスキンシップではなく,Aの性的自由を侵害する性的な意味合いの強い行為とみるべきであるから,刑法176条にいう「わいせつな行為」にあたる。札幌地裁R01.10.23

キスという行為自体がもつ性的性質に加え,被告人とAの関係性や本件キスに至る具体的な状況をも考慮すると,性的な意味合いの乏しいスキンシップではなく,Aの性的自由を侵害する性的な意味合いの強い行為とみるべきであるから,刑法176条にいう「わいせつな行為」にあたる。札幌地裁R01.10.23

 わいせつの定義はないのですが、性的意味合いがあるかとか強いかで決まるようです。

強制わいせつ被告事件
札幌地方裁判所判決令和元年10月23日

       主   文

 被告人を懲役1年に処する。
 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,札幌市内のミニバスケットボール少年団(以下「本件少年団」という。)女子チームの監督を務めていたものであるが,本件少年団に所属していた■■■(当時11歳,以下「A」という。)が13歳未満であることを知りながら,平成30年9月20日午後6時30分頃から同日午後7時頃までの間に,札幌市■■■被告人方玄関内において,謝罪のために同人方を訪れたAに対し,「チューして終わり」などと申し向け,Aをして,被告人の唇にキスをさせ,もって,13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。
(証拠の標目)括弧内の記号は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。
・被告人の公判供述
・Aに対する当裁判所の尋問調書
・検証調書(甲4)
(争点に対する判断)
 弁護人は,被告人の行為は,刑法176条にいう「わいせつな行為」とはいえず,無罪である旨主張するので,以下,当裁判所の判断を示す(なお,速記録の頁数を〔 〕内に摘示した。)。
1 事実関係について
 (1) A及び被告人の供述によれば,本件キスは,次のような状況においてなされたと認められる。
  ア 被告人は,本件少年団女子チームの監督として女子団員らの指導に当たっていたところ,練習試合の際,Aら女子団員に指示したことが十分なされなかったとして,途中で帰宅し,その数日後の本件当日の練習にも顔を見せなかった。そこで,Aらは,被告人に謝罪して指導に復帰してもらおうと考え,被告人方を訪れ,最上級生の小学6年生であったA及び同級生の女子団員1名(以下「B」という。)が,被告人方玄関内に入り,被告人と話をした。
  イ その際,被告人が,玄関内にあった靴を手に取ってこれをかじるよう求めたところ,Bがこれに応じて靴をかじる動作をした。このことで3人が笑った後に他の小学5年生の女子団員らも玄関内に入ってきたところ,被告人は,Aらに対し,「チューして終わり」などと言い,かがんで姿勢を低くするとともに,目をつぶった。
  ウ A及びBが被告人の唇に順次キスをし,その他の女子団員らもつづいて被告人の唇にキスするなどした。
 (2) なお,Aは,キスを求めた被告人の具体的な発言(上記イ)について,被告人が全員キスしたら許してやるみたいなことを言ったと供述する(A供述〔9〕)。
   これに対し,被告人は,「チューして終わり」などと言ったが,全員キスしたら許してやるとは言っていないと供述する(被告人供述〔8~9〕)。
   この点に関するAの供述内容は,「全員キスしたら許してやるみたいなこと」というやや曖昧なものであり,被告人の「チューして終わり」などの発言について自分が受けた印象を記憶した可能性を否定しきれない。Aの母は,本件当日に被害申告を受けた際に,Aが被告人から全員キスしたら許してやると言われたなどと話した旨供述するが,そうであったとしても,自分が受けた印象を話した可能性を否定しきれないことに変わりはない。
   したがって,この点については,Aの供述を前提に本件キスの際の被告人の発言内容を認定することはできず,被告人の供述を前提とすることとした。
2 被告人の行為のわいせつ性について
 (1) まず,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であるところ,性犯罪に対する近年の社会の一般的な受け止めも踏まえれば,どのような行為が刑法176条にいう「わいせつな行為」として処罰されるべきかについては,被告人の意図よりも,被害者の受けた行為がどのようなものであったかを重視して,規範的な評価として客観的に判断されるべきと考える。
   そして,その判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,当該行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを具体的事実関係に基づいて判断するのが相当である(最高裁平成29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照)。
 (2) この点,唇と唇が触れ合うキス行為は,我が国の社会通念上,性的な意味合いが強いとみられることが多い一方,夫婦や恋人等の親しい間柄において性的な意味合いに乏しいスキンシップとして交わされる場合もあり,その行為自体から明確にわいせつな行為にあたるとまではいえない。そうすると,それを行った者の関係性やそれが行われた際の具体的状況等の事情も考慮した上で,「わいせつな行為」に該当するか否かを判断する必要がある。
 (3) まず,被告人とAの関係性をみるに,両名は,成人男性である指導者と,本件当時11歳という思春期に相当する教え子の少女という関係にすぎない。このような関係の者同士が,性的な意味合いに乏しいスキンシップとして唇と唇が触れ合うキスをすることは,我が国の社会においては通常想定されず,一般的には性的な意味合いが強いものとして受け止められるといえる。
 (4) そして,本件キスがなされた具体的な状況を見ると,この点,被告人及び弁護人は,冒頭手続において,被告人がAにキスをしたのではなく,Aからキスをされたものであると主張した(なお,検察官は,事前準備における釈明及び冒頭陳述において,被告人がAの唇にキスをしたとの公訴事実の記載は,被告人が,Aをして,被告人の唇にキスをさせたというものであると主張した)。
   そこで,検討すると,先に認定したとおり,被告人は「チューして終わり」などと言って姿勢を低くするなどしたものであり,客観的に見れば,自らAらに対して唇か頬にキスをすることを促す言動をしたことは明らかである。
   そして,被告人がそのような言動をしたのは,Aが被告人に謝罪して指導への復帰を求めるために被告人方を訪れた状況下であり,被告人とAとの間には監督と団員という上下関係が存在していたことやAが判断能力の未熟な年少者であること,さらには,これまでにも女子団員が被告人とキスをすることがあったことにも照らせば,Aらとしては,監督に練習に復帰してほしいなどとの思いから,被告人の意向に沿おうとする心情になる状況であったといえる。そのような状況にあったことは,本件キスの直前にBが被告人に言われるがままに靴をかじる動作をしたことからも明らかである。
   そうすると,Aは,勝手に被告人の唇にキスをしたものでなく,被告人の「チューして終わり」などのキスを促す言動があったからこそ,これに応じてキスをしたものと認められる。
   被告人は,時間も遅く収集を図ろうとし,場を和ます気持ちもあって,「チューして終わり」といっただけであり,また,女子団員らが飛び込んでくると思ったので,安全のために姿勢を低くして目をつぶったのであり,自分はスキンシップを求めただけで,キスを求めたわけではない旨供述する(被告人供述〔8~9,13~14,30~31,39~40,42~44,47〕)。しかし,先に述べた状況において,被告人が「チューして終わり」と言って姿勢を低くすれば,Aらが被告人の意向に沿ってその唇等にキスをするであろうことは当然予想できることであり,被告人自身も,程度はともかく,そのことは想定していた旨供述している(被告人供述[14,40,44])。
   そうすると,被告人は,Aらが被告人の意向に沿おうとする心情にある状況において,Aらが被告人の唇にキスをすることも想定した上で,「チューして終わり」などのキスを促す言動をし,Aがこれに応じて被告人の唇にキスをしたといえるから,このような被告人の行為は,被告人が,Aをして,被告人の唇にキスをさせたと評価されるべきものである。
 (5) そこで,以上の事情も踏まえて,わいせつ性を検討するに,被告人とAとは唇と唇とが触れ合うキスをすることが通常想定される関係ではなく,このようなキスをすることは通常は性的意味合いの強いものとみられる。その上,被告人の行為により,Aは,被告人との関係,Aの当時の心情や判断能力の未熟さから,Aから唇にキスをするように求められていると感じて,それに応じてしまったものであり,被告人の行為がなければ,Aが被告人の唇にキスをすることはなかったといえる。そうすると,このような被告人の行為は,児童への性犯罪に対する近年の社会の受け止めも考慮すれば,性的な意味合いに乏しいスキンシップとして許容されるものではなく,Aの性的自由を侵害する性的な意味合いの強いものというべきである。
 (6) なお,弁護人は,本件キスの際,その場の雰囲気が和やかであったこと,被告人はコミュニケーションを図るつもりで「チューして終わり」と言ったに過ぎず,唇へのキスを命じたわけではないこと,女子団員らは日常的に,被告人に対し,抱きつく,頬にキスをする,噛む,舐めるなどの行動をとっており,保護者らもそのことについて苦情を申し立てていなかったことからすると,被告人の行為は,刑法176条にいう「わいせつな行為」には当たらない旨主張する。
   しかし,先に述べたとおり,わいせつ性の判断においては,被害者がどのような行為をされたかという客観的な状況が重視されるべきであって,被告人の性的意図の有無や程度は考慮されるとしても自ずから限界がある。被告人の行為を客観的にみれば,指導者である被告人が,教え子であるAが被告人の意向に沿おうとする心情である状況の下,Aにキスを促す言動をして,Aをして,被告人の唇にキスをさせたといえるのであり,このような行為はAの性的自由を侵害するものと評価されるべきであるから,被告人としてはコミュニケーションを図るつもりであったとしても,わいせつ性を否定する事情とは言えない。
   また,本件キスの前に被告人とAらが談笑する場面もあったと認められ,また,被告人の言動が唇にキスをするように明示的に強制したものとまではいえないかもしれないが,そうであったとしても,被告人がAに唇にキスをさせたとの評価に変わりはなく,わいせつ性を否定する事情とはならない。
   さらに,これまでの被告人と女子団員らとのスキンシップについては,そのような環境があるからといって,被告人の行為が性的な意味合いに乏しいスキンシップとして許されてしまえば,そうした環境に違和感を感じる児童がいても,それを受け入れざるを得なくなるのであり,被害者の性的自由が保護法益となっている観点からは,採用しがたい主張である。性的な意味合いに乏しいスキンシップと評価されるかどうかは,あくまでも被告人とAとの関係をもとに考えるべきである。本件では,被告人が自らAに対してキスを促したものであり,Aが勝手に被告人にキスをした事案ではなく,また,Aが従前から被告人に対してスキンシップとしてキスをするという親密な関係にあったとも認められないから,被告人のAに対する行為が問題となっている本件においては,上記の環境があったことはわいせつ性を否定する事情とはならない。
   したがって,弁護人の主張にはいずれも理由がない。
 (7) 以上より,被告人の行為は,唇と唇が触れあうキスという行為自体がもつ性的性質に加え,被告人とAの関係性や本件キスに至る具体的な状況をも考慮すると,性的な意味合いの乏しいスキンシップではなく,Aの性的自由を侵害する性的な意味合いの強い行為とみるべきであるから,刑法176条にいう「わいせつな行為」にあたる。
(法令の適用)
 罰条       刑法176条後段
 刑の執行猶予   刑法25条1項
 訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は13歳未満の児童に対するものである上,被害者は内心嫌であったにもかかわらず,このような被害を受けたものであるから,その被害結果は決して軽いものではない。また,被告人は,本件少年団女子チームの監督として,女子団員らの健全な成長を促す立場にありながら,教え子にキスをさせたものである。被告人としてはスキンシップとして許される範囲であると思ったのかもしれないが,児童への性的行為に対する近年の社会の受け止め方も考慮すれば,甘い考えであったと言わざるを得ず,責任非難の程度も軽くみることはできない。
 もっとも,本件犯行は暴行や脅迫を用いたものではなく,キスの態様も唇と唇が短時間触れる程度のもので,わいせつ行為の中ではわいせつ性の程度が高いものではないことからすると,本件は同種事案の中では軽い部類に位置付けられる。
 以上に加え,被告人に前科がないことも踏まえると,被告人に対しては,法定刑の下限に近い主文の刑を科した上で,その刑の執行を3年間猶予するのが相当である。
(求刑 懲役1年)
  令和元年10月23日
    札幌地方裁判所刑事第2部
        裁判長裁判官  中川正隆
           裁判官  向井志穂