児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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性犯罪民事「同じマンションに住む被告による、原告の腰に両手を回して抱きつく暴行を加え,着衣の上から原告の臀部及び乳房を触った」という態様の強制わいせつ行為につき 50万円認容。 東京地裁r011031 訴額は500万

 強制わいせつ罪の慰謝料は態様によりますね。

裁判年月日 令和元年10月31日 
事件名 損害賠償請求事件
 1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成29年8月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成29年8月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,同じマンションの別階に居住する被告による強制わいせつ行為によって精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料500万円の支払を求める事案である(附帯請求は,不法行為日である平成29年8月15日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金)。
 1 前提事実(後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
  (1) 原告は,肩書住所地所在のマンション「a」の204号室に住む昭和25年月日生まれの女性である。《甲3,弁論の全趣旨》
  (2) 被告は,同マンションの701号室を所有し,同室において妻と暮らす昭和24年月日生まれの男性である。《乙1,4》
  (3) 被告は,平成29年8月15日午後3時35分頃,被告方において,原告に対し,原告の腰に両手を回して抱きつく暴行を加え,着衣の上から原告の臀部及び乳房を触ったとの事実により,同年11月16日,懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決を受けた(東京地方裁判所平成29年刑(わ)第2043号)。《甲1》
 2 争点
  (1) 被告の行為の態様
  (2) 相当な慰謝料の額
 3 争点に関する原告の主張
  (1) 被告の行為の態様について
 原告は,以前に自宅のインターネット回線が故障し電話が使えなくなった際,被告の妻に頼んで,被告宅の電話を貸してもらったため,平成29年8月15日午後3時35分頃,そのお礼の為,手土産を持って,被告宅を訪問した。
 被告の妻が外出していたため,原告は,被告に玄関先で礼を伝え,手土産を渡して帰ろうとしたところ,被告は,以前原告が右足を骨折して入院していたことがあったことを知っていたようで,原告の左腰の骨盤のあたりに手を当てて撫でるように上下にさすり,「折ったのはこっちの足?」「けがをしたのはここですか?」などと言った。原告は,いきなり腰を触られて気持ちが悪く,「違います。」「そちらじゃないです,右です。」などと答えたが,被告は「じゃあ,こっち?」と言いながら,原告の右腰に手を当ててきた。被告の力が強かったため,原告は,両腰を持たれた状態になってしまった。
 被告が両手を原告の体に沿って撫でながら,「ハグさせて。」と言ったため,原告は「NO」と言ったが(原告は,長く米国に住んでいたため,とっさのときには英語が出る。),被告は無視して,原告の両腕を両手でつかんで引っ張るようにして,原告の体を自分の体に引き寄せ,両腕を原告の腰のあたりに回して,抱きついてきた。原告は,いきなりの事に驚き,被告の力の強さに恐怖を感じ,体を動かすことができず立ちすくんでしまった。
 被告が更に「お尻を触らせてよ。」と言ってきたため,原告は,瞬間的に「NO」「よしてください。」などと言ったが,被告は無視して,両手を原告の臀部の方に下ろし,スカートを上にたくし上げるようにしながら,原告の臀部を両手で触りつかんだ。
 原告は,嫌悪や羞恥心を感じ,「なにするんですか,(妻の名)も帰ってくるのに。」と言葉で抵抗したが,被告からは「6時までは帰ってこないから。」と言われ,この後2時間も襲われ続けるのではないかと思い,強い恐怖を感じ,体を右後ろに捻って逃げようとしたが,被告の力が強く逃げられなかった。
 原告は,被告に何度も「やめてください。」と言ったが,被告は「おっぱい触らせてよ。」などと言い,原告の左の乳房を強引につかむように触ってきた。原告は,このままでは強姦されてしまう恐怖に駆られ,再び全身の力を込めて体をよじったところ,右肩で玄関のドアを押すことができ,ドアが大きく開いたため,何とか外に逃げ出すことができ,急いで帰宅した。
 被告の行為は,故意によって,原告の性的自由,身体の安全という法律上保護される利益を侵害したものであり,不法行為を構成する(以下「本件不法行為」という。)
  (2) 相当な慰謝料の額について
 原告は,本件不法行為の際,被告から妻は6時まで帰ってこないと言われたため,これから2時間以上も被害に遭い続けるのかと絶望を感じ,このままだと強姦され,事件が発覚しないようにするため殺されてしまうかもしれないという強い恐怖を感じた。
 原告は,本件不法行為に遭ってから,毎日毎日悔しさと怖さで涙が止まらない状態になり,被告が同じマンションに住んでいることから,エレベーターなどで被告と出くわすのではないかと思うと恐怖で外出することもできず,家に引きこもって生活する状態になり,死ぬことまで考えるほどに至っている。原告の経済状況から転居することは難しく,被告がマンションから転居しない限り,この状態を強いられることになる。
 被告は,本件不法行為について刑事訴追され,有罪判決を受けたが,被告は,自らの罪を軽くしようと不法行為時間を不自然に短く断言したり,わいせつの意図はなくスキンシップを取りたかっただけだと主張したり,真摯な反省の態度が見られなかった。
 被告の妻からは,脚が見える洋服など着ているのが悪いと言われ,まるで,被害に遭い,警察に被害届を出した原告の方が悪いかのように非難され,原告がマンションから出て行くべきであるかのような扱いを受けている。
 原告は,本件不法行為により,甚大な精神的損害を被った。上記事情から,その額は,500万円を下回ることはない。
 4 争点に関する被告の主張
  (1) 被告の行為の態様について
   ア 本件事件の数日前の夕方,原告が被告の自宅に電話を借りに来た際,原告がいったん自分の都屋に帰った後に,原告が電話を架けた先から被告の固定電話に電話がかかってきた。被告の妻が原告を呼んだところ,再度被告の部屋に現れた原告は,かなり丈の短い服を着ていたので,被告の妻は驚いた。
   イ 事件当日の昼は,被告の仕事が休みだったこともあり,被告は妻とレストランで食事をし,生ビールを中ジョッキ2杯飲んだ。2人で帰宅後,しばらくして被告の妻が外出したので,被告が1人で過ごしていたところ,原告が,被告の部屋を訪ねてきた。
 玄関先で,原告は被告に,「Aさん(被告の妻)いますか?」と尋ねたので,被告は「6時くらいに帰ると思います」と答えた。原告は,先日の電話のお札とのことで,手土産を渡してくれたので,被告は原告に「どうやって食べるんですか?」などと尋ねたりした。
   ウ 被告は,原告が電話を借りに来た際に足を伸ばして座り,その理由として「足の付け根を骨折した」という話をしていたことを思い出し,「足は大丈夫ですか?どちらの足でしたか」などと言いながら,原告の左腰に右手を当てた。それに対して,原告から,「違います」「そちらじゃないです,右です」と言われたため,被告は「このへんですか」と左手で原告の右腰のあたりを指し示したが,右腰には触れなかった。
 その後,被告は「お尻を触らせて」と言いながら,右手で原告の左臀部を撫でたが,「嫌」と言われたため,すぐに手を離した。そして,被告は「ハグさせて」と言いながら,両手で原告の両肩に手を回して抱きついたが,原告が嫌がる様子で半歩後ろに下がったので,すぐに手を離した。被告は,手を離しながら,右手で原告の左胸を下から上にさするように触った。
 その後,原告は玄関のドアを開けて被告の玄関口から出て行ったのである。
   エ 被告が行った行為は以上のとおりであり,被告は,「左腰の骨盤のあたりに手を当てて撫でるように上下にさす」ったり,「右腰に手を当て」たり,「両腰を持」ったり,「両手で原告の体に沿って撫で」たり,「原告の両腕を両手でつかんで,引っ張るようにして,原告の体を自分の体に引き寄せ,両腕を原告の腰のあたりに回し」たり,「両手を原告の臀部の方に下ろし,スカートを上にたくし上げるようにしながら,原告の臀部を両手で触りつかんだ」り,原告が逃げるのを力ずくで妨げるようなことはしていない。
  (2) 相当な慰謝料の額について
   ア 被告の行為は到底許されるべき行為ではないが,その慰謝料が500万円というのは,あまりに過大な請求というべきである。
 被告は,事件当日は仕事が休みで,昼間に生ビール中ジョッキ2杯を飲み,気が大きくなり,いい気分で家で休んでいたところ,たまたま数日前に電話を貸してあげた,被告と同年代の原告(当時67歳)が訪ねてきたことで,つい出来心で上記の行為を犯してしまったのであり,決して計画的な犯行でもなければ,強姦や殺人事件に発展するような行為でもない。
   イ 被告は,本件により,3ヶ月もの間身柄拘束を受けた。被告は,国選弁護人を通じて示談交渉を申し出たが,原告に拒絶された。
 原告は,被告の身柄拘束中,被告の妻に現在居住している部屋が分譲か賃貸かを問い合わせたり,被告の妻や原告に被告との示談を勧めた被告の隣人との面会を求めて,夜中であるにも関わらず,何度も玄関のドアを叩いたりした。
 被告は,平成29年11月16日の判決後に釈放され,自宅に戻ったが,肉体的にも体調が思わしくなく,精神科に通院したり,胆石性緊急胆嚢炎で入院手術をしたり,腎結石の手術をしたが石を取りきれず,仕事ができる状態にない。被告の妻もパニック障害を抱え,現在無職である。
 被告には,自宅マンション以外に見るべき資産はなく,親戚やクレジット会社から100万円ほどの借金もある。
   ウ 以上のとおり,被告は,本件により,3ヶ月もの間,身柄拘束を受け,懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受け,仕事を失い,健康も失い,既に十分な社会的制裁を受けている。被告は経済的な余裕もない状態であり,原告に支払われるべき慰謝料額としては,5万円程度が相当である。
第3 当裁判所の判断
 1 被告の行為の態様について
  (1) 被告の行為の態様について,原告及び被告の主張には食い違いがあるものの,被告が自認する範囲内においても,被告が,①電話を借りた礼のために被告方に手土産を持参したにすぎない原告に対し,②原告と被告以外の者がいない被告方の玄関内で,③原告が骨折のため足が不自由であったことを知りながら,④足の心配をする素振りで被告の右手で原告の左腰辺りに触れ,⑤「お尻を触らせて」と言いながら,着衣の上から右手で原告の左臀部を撫で,⑥原告に「嫌」と言われた後にも,「ハグさせて」と言いながら両手で原告の両肩に手を回して抱きつき,⑦原告が嫌がる様子を見て後ろに下がったが,その際に被告の右手で原告の左胸を下から上にさするように触るという行為をしたことが認められる。
  (2) 原告は,これらに加えて,被告が「左腰の骨盤のあたりに手を当てて撫でるように上下にさす」ったり,「右腰に手を当て」たり,「両腰を持」ったり,「両手で原告の体に沿って撫で」たり,「原告の両腕を両手でつかんで,引っ張るようにして,原告の体を自分の体に引き寄せ,両腕を原告の腰のあたりに回し」たり,「両手を原告の臀部の方に下ろし,スカートを上にたくし上げるようにしながら,原告の臀部を両手で触りつかんだ」りし,原告が逃げるのを妨害したと主張するところ,原告が警察官及び検察官の面前でした供述(甲2・17頁以降及び24頁以降)には同旨を述べる部分があるほか,原告は,陳述書(甲4)及び本人尋問においても,被告が唇が触れるのではないかというくらい顔を原告の顔に近づけ,「あなたのことを何年も想っていた。」などと言った旨や,被告が原告に寝室へ行こうと言い,両手でスカートを捲り始めた旨などを供述している。
 しかしながら,被告の手の動きや力の強さ,被告と原告との間の距離については,原告の主観的な受け止めが客観的事実に比べて誇張された形で記憶・再現された可能性を否定することができず,これらの供述を必ずしも全面的に信用することはできないから,被告の行為態様が,原告主張どおりのものであったと認めることはできない。
  (3) 他方,被告は,原告が足を骨折したのが左ではないと言われた際に原告の右腰には触れなかった旨や,被告の右手で原告の左臀部を撫でた際には,「嫌」と言われたためすぐに手を離した旨,「ハグさせて」と言いながら抱きついた際には,原告が嫌がる様子で半歩後ろに下がったので,すぐに手を離した旨など,被告の行為が出来心からごく短時間行われただけの軽微なものであったかのように主張し,本人尋問においても,「嫌って言ったからすぐやめた」等と,同主張に沿う供述をする。
 しかし,他方において,被告は,本人尋問において,「アメリカ人は何かあったときにはすぐにハグをするもの」であると思っており,原告はアメリカに長く住んでいたと聞いていたから,たとえお尻を触ることを拒絶されても,「ハグならいいか」と思った旨を述べており,同供述からは,被告が,自己の行為について,アメリカ暮らしの長かった原告に対してするのであれば許容されるのだと一方的に思い込み,拒絶されるとは思っていなかったことがうかがわれることや,被告は,両腕を原告の背中に回すようにして抱きついていたところから抱きつくのをやめて手を戻す際に,「そこに左胸があったので」下から上にすっと撫で上げるようにして触った旨も述べているところ,このような行動は,原告の身体に触れることについての執着と未練を示すものと言えることからすると,このような思い込みや執着を抱いていた被告が「嫌と言われてすぐに」手を離したとは解し難いものと言わざるを得ない。
 したがって,被告の行為がごくあっさりとした軽微なものであったとは認め難いところであって,原告が上記(2)のとおり供述していることを勘案すると,被告による原告の身体への接触は,ある程度執拗なものであったと解するほかない。
 2 相当な慰謝料の額について
 上記1のとおり,被告は,原告の意に反して,少なくとも,原告の着衣の上から左腰辺りに触れ,左臀部を撫で,原告の両肩に手を回して抱きつき,左胸を撫で上げるという行為をしたものであり,こうした一連の行為は,原告の性的羞恥心を害し,原告の人格的利益を侵害する行為であって,原告に精神的苦痛を生じさせるものであることは明らかである。
 そこで,原告の精神的苦痛に対する慰謝料の額について検討すると,被告の行為が臀部及び胸部を含む身体の複数箇所へのある程度執拗な態様での接触を含むものであったことや,他者の目のない被告の自宅の玄関内で行われ,原告が強姦される危険を感じたというのも無理からぬ状況で行われたこと,被告は,原告の足が不自由な状態であることを知りながらこれを利用する形で本件の行為に及んだこと,他方において,被告の加害行為は,立ったままの体勢での着衣の上からの比較的短時間の接触にとどまり,計画性もない一回的なものであったことに加え,被告が約3か月間にわたる身柄拘束の後,本件について刑事処分を受けており,原告に対する謝罪と反省の意を述べ,今後も原告との接触を極力避ける旨を約束していること等の事情に鑑みれば,本件における慰謝料の額は,50万円とするのが相当である。
 この点,原告は,被告の妻やその知人が被害者である原告を非難し,マンションから出て行くよう求めていると主張し,同旨の供述をするが,原告の供述のみによってかかる事実を認めることはできず,ほかにこれを認めるに足る証拠はない。また,原告は,被告と同じマンションに居住することが苦痛であるとも主張するが,性犯罪行為であるとはいえ,上記の態様にとどまる行為をしたにすぎない被告に対し,自宅マンションを処分する等までして転居するよう求めるのは,いかにも行き過ぎというべきであるから,被告が転居しないために原告が被告と同じマンションで生活をせざるを得ないとしても,これを慰謝料の増額事由として勘案することは相当でない。
 3 結論
 以上によれば,原告の本訴請求は,50万円の慰謝料の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第17部
 (裁判官 早田久