児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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略式命令には仮納付命令の明文規定がないこと→違法ではない(東京高裁r03/11/09)

 略式命令に付いてくる仮納付命令には明文の根拠がありません。
 正式裁判によって罰金額が下がったときの精算についても規定がありません。
 交通事件即決裁判の場合は弁護人が関与して、仮納付関係の主張立証も期待できるのですが、略式命令の場合は、法廷が開かれないし、弁護人も関与しないので、その点の主張立証が期待できませんよね。弁護を受ける権利侵害も言えそうです。罪刑法定主義違反も。遅くとも控訴趣意書で憲法違反の主張をしておくこと。
 

交通事件即決裁判手続法
(被告人及び弁護人の出頭)
第九条 被告人が期日に出頭しないときは、開廷することができない。
2 被告人が法人であるときは、代理人を出頭させることができる。
3 弁護人は、期日に出頭することができる。
(期日における取調)
第十条 期日においては、裁判長は、まず、被告人に対し、被告事件の要旨及び自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。
2 前項の手続が終つた後、裁判長は、被告人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
3 裁判所は、必要と認めるときは、適当と認める方法により被告人又は参考人の陳述を聴き、書類及び証拠物を取り調べ、その他事実の取調をすることができる。
4 検察官及び弁護人は、意見を述べることができる。
(仮納付)
第十五条 裁判所は、即決裁判の宣告をする場合において相当と認めるときは、附随の処分として、被告人に対し、仮に罰金又は科料に相当する金額を納付すべきことを命ずることができる。
2 前項の仮納付の裁判は、直ちに執行することができる。但し、正式裁判の請求があつたときは、この限りでない。
3 刑事訴訟法第四百九十条、第四百九十三条及び第四百九十四条の規定は、第一項の仮納付の裁判の執行について準用する。この場合において、同法第四百九十三条中「第一審」とあるのは「即決裁判手続」と、「第二審」とあるのは「第一審又は第二審」と読み替えるものとする。

文献まとめておきました。

略式命令には仮納付命令を付せないこと 3
2 消極説の根拠 3
①法348条の文言 3
略式手続七訂版 4
略式手続の研究 4
④書記官研修所研修資料第6号「刑事実務の研究」 6
⑤横井大三「新刑事訴訟法逐条解説Ⅲ」P145 9
⑥瀧川幸辰「法律学体系コンメンタール刑事訴訟法」P500 10
⑦横川敏雄「刑事裁判の実際」P155 11
⑧刑事裁判資料67号 P322 12
⑨岸盛一 新刑事訴訟法義解P72 13
⑩ 安平政吉 改正刑事訴訟法(下) 14
⑪高田卓爾 刑事訴訟法p597 15
⑫ 罪刑法定主義憲法31条)違反 16
⑬ 弁護人選任権(憲法37条3項)の侵害 16
3 積極説からの問題点 18
略式手続(七訂第二補訂版)p50(h29) 18
略式手続の理論と実務p65 20
略式手続の研究s32 裁判所書記官研修所資料 p50 21
略式手続執務資料(最高裁判所事務総局編・法曹会・平成4年) 22
4 刑訴法改正の沿革を見ても、立法の必要が認識されていたのに、立法化が断念されたこと。 23
①福島至「略式手続の研究」 23
②諮問第7号(刑事訴訟法改正)に関する法制審議会議事録(検察資料61)法務省刑事局, [1953] 27
ア 刑事訴訟法改正の問題点 27
イ問題点説明要旨 28
ウ 第二回刑事訴訟法小委員会p98~ 29
エ 第三回刑事訴訟法小委委員会p135~ 32
オ 予納制度 p215 34
カ 徴収事務における不正が危惧されているp434 36
キ 第6小委員会で予納という代案が出た 36
ク 第11小委員会で撤回されている。 38
5 「仮納付命令に関する申述書」も根拠がないこと 38
6 高裁判例 39
①大阪高裁R011224 39
福岡高裁h26.2.26 40
名古屋高裁h30.10.30(白い粉事件) 40

追記 2022/03/26
 略式命令の事件においても,被告人が仮納付の裁判をあらかじめ希望又は承諾しているときには,仮納付を命ずるという実務が行われており、これが違法であるとはいえない。という判断が出ました。

速報番号3815号
東京高等裁判所令和3年11月9日
○判示事項
略式命令から正式裁判に移行した事例において,1審判決が主文に罰金刑の仮納付命令を付したところ,仮納付について規定した刑訴法348条1項の要件を満たさず,訴訟手続きの法令違反があるとして,原判決を破棄し,改めて仮納付命令を付さない罰金刑を言い渡した事例
○裁判要旨
本判決は,略式命令においては,実務上刑訴法348条1項により仮納付命令が付されるのが一般的な運用となっておりその運用が違法とは言えないが,それが正式裁判に移行した場合,前記実務と同様に解することはできないとして,仮納付命令を付した1審判決を破棄したものである。
○裁判理由
本件罰金について,被告人に対し,同法348条1項に規定する「判決の確定を待ってはその執行をすることができず,又はその執行をするのに著しい困難が生ずる虞があると認める」に足りる事情を認めることはできない。
確かに,交通事件即決裁判手続法は、「相当と認めるときは」仮納付を命じることができるとしてその要件(を緩和し(同法15条1項), 道路交通法違反事件の実務において,三者即日処理方式によるいわゆる交通切符の在庁略式の場合には,裁判所から即日仮納付命令付きの略式命令謄本の送達を受けて罰金の仮納付を済ませるという処理が定着しており,略式命令の事件においても,被告人が仮納付の裁判をあらかじめ希望又は承諾しているときには,仮納付を命ずるという実務が行われており、これが違法であるとはいえない。
しかし,本件は,略式命令に対して被告人から正式裁判の請求がなされ,通常の規定に従い,審理がなされたものであって,前記のような実務の取扱いと同様に解することはできない。
したがって,原判決にはこの点で判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があり,破棄を免れない。