児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被告との間の婚姻届は当時16歳であった原告との同居に当たり青少年保護育成条例違反を回避するためになされたもので婚姻以外の目的を達するための便法として仮託したものであるから無効であるとして、婚姻の無効確認を求めた事案(千葉家裁h26.3.19)

 青少年条例の深夜同伴罪を回避するためだとされています。

裁判年月日 平成26年 3月19日 
裁判所名 千葉家裁佐倉支部 
裁判区分 判決
事件名 婚姻無効確認請求事件
主文
 1 平成25年3月13日付け横浜市南区長に対する届出によってなされた原告と被告との婚姻は無効であることを確認する。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 
 

事実及び理由

第1 請求
 主文第1項と同じ。
第2 事案の概要
 1 前提事実
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
  (1) A(以下「義父」という。)は,平成18年4月3日,B(以下「実母」という。)と婚姻するにあたり,その実子である原告(平成8年○月○日生)及び原告の3人の兄と養子縁組をした(甲6の1)。
  (2) 平成25年3月13日,原告と被告(昭和61年○月○日生)との婚姻届(甲1。以下「本件婚姻届」という。)が横浜市南区役所に提出され,戸籍(甲6の2)にその旨記録された。
  (3) 本件婚姻届には婚姻後の夫婦の氏を妻の氏とする旨記載されており,被告の氏は○○に変更された。
  (4) 本件婚姻届の「その他」欄には,実母及び義父が原告の婚姻に同意する旨の記載がある。
  (5) 神奈川県青少年保護育成条例24条2項には,「何人も,正当な理由なく保護者の嘱託又は承諾を得ないで,深夜に青少年を連れ出し,同伴し,又はとどめてはならない。」との規定があり,上記規定には罰則(30万円以下の罰金。54条4項9号)がある(甲5)。
 2 原告の主張
  (1) 本件婚姻届作成時,原告の婚姻について実母及び義父の承諾はなかった。
  (2) 被告は,当時16歳の原告と同居するにあたり,神奈川県青少年保護育成条例24条2項に違反しないために本件婚姻届を横浜市南区役所に提出した。本件婚姻届は,婚姻以外の目的を達するための便法として仮託されたものであり,婚姻の効力は生じない。
  (3) 原告及び被告は,本件婚姻届提出後,数軒のホテルに投宿してから,平成25年6月20日まで被告が借りていた横浜市内のアパートで同居していた。原告が被告と同居していたのは,在学していた高校の予想外の退学によりa市の自宅(以下「原告宅」という。)に帰宅しづらい心理状況にあったため,唐突に親元を離れて生活することとなり被告に依拠せざるを得ず,被告と同居するに至ったものであり,被告との婚姻意思に基づくものではない。原告は,被告との同居中,被告に対し,「本当の夫婦ではない。」と述べ,社会観念上の夫婦となることを明確に否定していた。
 3 被告の主張
  (1) 本件婚姻届は,原告及び被告が合意の下,二人で作成したものであり,原告及び被告に婚姻の意思はあった。
  (2) 被告が原告を支配するような関係はなく,同居のためのアパートも原告及び被告が2人で見に行き,2人で契約したものである。
  (3) 原告と被告は,生活費の取り決めをし,家事の役割分担を決め,仕事の後に買い物に一緒に出掛けたり,休日は遊びに出掛けたりしており,夫婦としての生活をしていた。被告は,原告の携帯電話を管理するなどして原告を支配するようなことはしていない。
第3 当裁判所の判断
 1 証拠(原告,被告,甲2,15,乙18)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
  (1) 平成24年12月,原告(当時高校1年生)と被告は,インターネット上の掲示板で知り合い,スカイプを介して会話等を楽しむ仲となった。平成25年1月20日,原告と被告は,横浜市内で初めて会い,みなとみらいで遊興した。その後,被告は,原告宅に遊びに来るようになった。
  (2) 平成25年3月7日ころ,被告が原告宅に午後12時ころまで滞在したため,原告は,実母から被告を原告宅に呼ばないように言われ,同月10日,被告は原告宅に来ることができず,被告と外で会った。当時,原告は,実母,義父及び3人の兄と同居し,犬も9匹いる原告宅に居づらさを感じていたため,高校1年生の単位を既に取り終えていたこともあり,横浜の被告の実家に外泊しようとしたが被告の父母に断られ,被告と一緒に新横浜のホテルに泊まった。
  (3) 平成25年3月11日,原告が帰宅しないため,実母が捜索願を出し,被告は警察で事情を聞かれた。同月12日,原告と被告は,新横浜のホテルにおいて,同日朝に被告が取りに行った婚姻届の用紙に記入することにより本件婚姻届を作成した。同日,原告は,原告宅に戻り,実母に捜索願の取下げを頼むも断られ,このことを被告に報告した。同月13日,被告は,本件婚姻届を横浜市南区役所に提出し,このことを原告に連絡した。
 2 原告は,本人尋問において,警察の取り調べから戻った被告が成年と未成年が夜11時以降まで一緒にいると捕まってしまう,このまま捜索願が出された状態で一緒にいると被告が警察に捕まってしまうからと話し本件婚姻届を作成することを提案した,原告としても実母が捜索願を出し被告が仕事を首になったと聞いていたので責任を感じて本件婚姻届を出すこととした旨供述する。
 これに対し,被告は,本人尋問において,警察に捕まる心配はなかった,平成25年3月11日(本件婚姻届作成の日の前日)の夜に結婚の話をした,このままこっちでやって行くんだったら結婚しようと言った旨供述する。しかし,本件婚姻届が警察の取り調べが終わった後に被告が取りに行った用紙に記入する形で作成されていること,本件婚姻届作成後,原告が実母に捜索願の取下げを頼みに行き,断られるや被告が本件婚姻届を提出していることに鑑みると,本件婚姻届は,原告の前記供述のとおり原告を連れ出したことを理由に被告が警察に身柄を拘束されることを防ぐために提出されたものと解するのが自然である。
 3 前記2より原告と被告は,本件婚姻届の提出にあたり真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかったといわざるを得ない。そして,婚姻の無効について規定した民法742条1号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは,当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべきである。すなわち,たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致があり,一応法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認め得る場合であっても,それが他の目的を達成するための便法として仮託されたものにすぎず,真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には,婚姻の効力は生じないものと解すべきである。したがって,本件婚姻届の提出によって原告と被告との婚姻の効力が生じたと解することはできない。
 4 被告は,本件婚姻届提出後,原告と被告は夫婦としての生活をしていた旨主張する。
 確かに証拠(原告,被告,甲2,15,乙1,18)及び弁論の全趣旨によれば,平成25年3月14日,被告はバイクで原告宅に原告を迎えに行き原告と同居するようになったこと,原告と被告は当初の10数日は数カ所のホテルを泊まり歩いていたが同月24日ころ横浜のアパートで同居するようになったこと,原告は同年6月20日に連絡を取った実母に車で迎えに来てもらうまで被告との同居生活が続いていたことが認められる。
 しかし,原告は,本人尋問において,被告が原告宅に遅くまでいたとき実母から怒られたことや,同年3月12日に原告宅に戻ったとき実母から怒られたことから実母に対し腹を立てていた,義父の存在や高校の成績が悪いことなどで原告宅に居づらかったと供述しており,原告が同月14日に被告のもとに行ったのは家出の域を出るものではない。
 また,被告との同居期間が同年6月20日までと比較的長期間に及んでいるが,証拠(原告,甲2,15)によれば,同年3月21日,原告が電話で高校の担任と連絡をとったところ,結婚したのなら学校にはいられないと言われたため,同月23日,原告は実母と高校に行き担任と会ったが,担任の勧めに従い高校を退学することとなったこと,帰途,原告は義父の言葉に腹を立て運転中の義父に上履きを投げつけるなどして義父と激しく言い争い,義父からもう二度と帰ってくるなと言われて被告のもとに戻ったことが認められるのであって,原告にとって同日以降の被告との同居は原告宅に戻りたくないという強い気持ちから生じたものといえる。
 これらのことから,本件婚姻届提出後に原告が被告と同居したのは,原告宅からいわば避難する場所として被告のもとに行っていたという側面が強く,もっぱら被告と夫婦関係を築くことを目的として被告と同居したとまで認めることはできない。したがって,本件婚姻届提出後に原告が被告と同居したことによって,本件婚姻届の提出による原告と被告との婚姻が有効になったと解することはできない。
 5 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 小林元二)