児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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警察への無言電話について「警察官の職務は権力性を帯びていることがほとんどなので,威力や偽計での業務妨害罪は成立しにくいと思います」という弁護士の回答

 無言が「威力」になることはないですが、警察の業務の業務妨害罪の「業務」にあたるというのが最近の判例です

東京高等裁判所判決平成25年4月12日
第2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,要するに,強制力を行使する権力的公務である警察官の職務は刑法233条の業務妨害罪にいう「業務」には当たらないと解されるから,被告人の原判示の各行為が同罪に当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
 しかしながら,一般的・抽象的に強制力を行使する権限を有していても,本件のようなインターネット上の掲示板に犯行予告を書き込むなどといった妨害行為に対しては,これを強制力によって排除することは不可能であり,かかる妨害行為によって業務の遂行が妨げられることは,当該業務が「強制力を行使する権力的公務」であるかどうかにかかわらない。所論も引用する最高裁昭和62年3月12日第一小法廷決定・刑集41巻2号140頁,同平成12年2月17日第二小法廷決定・刑集54巻2号38頁等において「強制力を行使する権力的公務」でないことを理由に当該公務員に対する業務妨害罪の成立が肯定されている理由は,「強制力を行使する権力的公務」については,暴行・脅迫に至らない程度の威力や偽計による妨害行為に対しては,すみやかに当該強制力によってこれを排除することができるからであると解されるのであって(東京高裁平成21年3月12日・高刑集62巻1号21頁参照。なお,上記昭和62年最高裁決定が「被告人らに対して強制力を行使する権力的公務ではないのであるから」としているのは,その趣旨を示すものということができる。),以上と同旨の原判決は正当である。所論は,警察官には警察官職務執行法等の規定により妨害行為に対する一定の排除権限が与えられているとして,警察官の職務は一般的に業務妨害罪の対象とならないとするものであるが,採用できない。
 また,所論は,原判決のように妨害の対象となる業務は妨害がなければ本来行うはずであった公務であるとすると,?最高裁が「強制力を行使する権力的公務」は業務妨害罪における業務に当たらないとしたことがほとんど無意味になってしまい,不当である,?本件において,妨害の対象となる業務が特定されているといえるか疑問である,?妨害者は本来行うはずであった公務を知らないのが通常であり,また,虚偽の犯行予告により非番の警察官を警戒活動に当たらせた場合には業務妨害罪が成立しなくなり,行為者の知らない事情によって犯罪の成否が左右されて不当であるとも主張するが,業務妨害罪の成立について実際に具体的な業務の遂行が妨げられたことが必要であるかどうかはさておき,本来行うはずであった業務が実際に妨害によって行えなくなれば業務妨害罪が成立するのは明らかである。上記?の点については,業務妨害罪の成立要件についての当裁判所の採用しない見解を前提とするもので,失当である。上記?の点については,原判決は,実際に妨害された業務として個々の警察官の具体的業務を証拠に基づいて摘示しており,これが業務妨害罪における結果の立証及び摘示として十分であることは明らかである。上記?の点については,被告人において関係する警察署の警察官の業務を妨害することになることの認識があれば足り,それ以上に現実に妨害されることになる個々の警察官の具体的業務まで認識・予見することは必要でないと解すべきであるから,所論は失当である(なお,所論は,非番の警察官が警戒活動等に当たった場合には業務妨害罪が成立しないとの見解を前提とするものと思われるが,その当否はともかく,所論の見解を前提としても,結果の発生の有無が犯罪の成否に影響するだけであって,何ら不都合はない。)。

東京京高等裁判所判決平成21年3月12日
すなわち,最近の最高裁判例において,「強制力を行使する権力的公務」が本罪にいう業務に当たらないとされているのは,暴行・脅迫に至らない程度の威力や偽計による妨害行為は強制力によって排除し得るからなのである。本件のように,警察に対して犯罪予告の虚偽通報がなされた場合(インターネット掲示板を通じての間接的通報も直接的110番通報と同視できる。),警察においては,直ちにその虚偽であることを看破できない限りは,これに対応する徒労の出動・警戒を余儀なくさせられるのであり,その結果として,虚偽通報さえなければ遂行されたはずの本来の警察の公務(業務)が妨害される(遂行が困難ならしめられる)のである。妨害された本来の警察の公務の中に,仮に逮捕状による逮捕等の強制力を付与された権力的公務が含まれていたとしても,その強制力は,本件のような虚偽通報による妨害行為に対して行使し得る段階にはなく,このような妨害行為を排除する働きを有しないのである。したがって,本件において,妨害された警察の公務(業務)は,強制力を付与された権力的なものを含めて,その全体が,本罪による保護の対象になると解するのが相当である(最高裁昭和62年3月12日第一小法廷決定・刑集41巻2号140頁も,妨害の対象となった職務は,「なんら被告人らに対して強制力を行使する権力的公務ではないのであるから,」威力業務妨害罪にいう「業務」に当たる旨判示しており,上記のような解釈が当然の前提にされているものと思われる。)。
 所論は,?警察官の職務は一般的に強制力を行使するものであるから,本罪にいう「業務」に当たらず,?被告人の行為は軽犯罪法1条31号の「悪戯など」に該当するにとどまるものである,というようである。
 しかし,?については,警察官の職務に一般的に強制力を行使するものが含まれるとしても,本件のような妨害との関係では,その強制力によってこれを排除できず,本罪による保護が必要であることは上述したとおりであって,警察官の職務に上記のようなものが含まれているからといって,これを除外した警察官の職務のみが本罪による保護の対象になると解するのは相当ではない。なお,所論の引用する最高裁昭和26年7月18日大法廷判決・刑集5巻8号1491頁は本件と事案を異にするものである。

http://www.bengo4.com/c_1009/b_381493/
Q 2015年09月04日 22時20分

I弁護士の回答 2015年09月04日 22時25分
警察官の職務は権力性を帯びていることがほとんどなので,威力や偽計での業務妨害罪は成立しにくいと思います。