福岡高裁H29.3.15
(3)控訴理由第3について
論旨は,?原判示第1の脅迫罪と原判示第2の児童ポルノ製造罪という一連の行為は強制わいせつ罪を構成し, さらには被告人は警察官を詐称しており,準強制わいせつ罪の欺罔行為もあるところ,強制わいせつ罪ないし準強制わいせつ罪については告訴がなく,公訴棄却とすべきであるにもかかわらず,原判決は実体判断をしている点で,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,?また,その結果,脅迫罪と児童ポルノ製造罪の成立を認めた点で,原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある, というのである。
しかしながら,強制わいせつ罪の保護法益は客体の性的自由であるのに対し,児童ポルノ製造罪は,児童ポルノの被写体である児童の人格権の保護のみならず,児童一般の権利をも保護法益としており,親告罪とはされていないのであるから,その構成要件事実の全部又は一部に親告罪である強制わいせつ罪と重なり合う部分があり,その部分について告訴がないとしても,検察官が,児童ポルノ製造罪を構成する部分について,同罪で起訴することは妨げられない。また,児童ポルノ製造の起訴が許される以上,その手段となっている脅迫行為について,脅迫罪で起訴することが許されないとすることに理由はない。控訴理由第4とも関連して,所論は,被害者の告訴がない場合に強姦罪の手段である暴行・脅迫を起訴することが許されないことからすれば,わいせつ行為という核心部分を児童ポルノ製造罪として起訴することはなおさら許されないはずであると主張するが, 同一人の法益に還元できる強姦罪と暴行・脅迫罪との間において親告罪の趣旨をいかに尊重すべきかといった一罪の一部起訴の問題と本件とは事案を異にしており,所論は失当である。さらに,児童ポルノ製造罪は強制わいせつ罪より法定刑が軽く,軽い罪の成立を認めることによって, より重い罪である強制わいせつ罪が親告罪にされている趣旨が没却されるのは許されないと主張するが, このような場合に起訴が許されるか否かを判断するに当たって,法定刑の軽重が考慮すべき一つの要素となり得ることは否定できないものの,それのみを基準として起訴の許否が決せられるわけではなく,本件では前記のように解すべきであるから所論には賛同できない。したがって,検察官が本件を脅迫罪と児童ポルノ製造罪で起訴した点に違法はなく,原判決が実体判断をしたことに訴訟手続の法令違反はないし,その上で,脅迫罪と児童ポルノ製造罪を認定したことに法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
参考
原判決
(犯罪事実)
第1
被告人は,携帯電話のアプリで知り合携帯電話のアプリで知り合った被害者A(児童)が面会を拒否したことから同人を脅迫しようと考え平成2年月日午後10時過ぎ頃,大阪県内又はその周辺で,被告人を警察関係者と誤信していた被害者Aに対し,携帯電話のアプリを用いて,「画像ばらまく」「学校に知らせる」旨のメッセージを送信し,同人に同人方でそれらを閲読させ,その名誉に害を加える旨告知して同人を脅迫した。
第2
被告人は,被害者Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,平成2年月日夜中から同月日明け方にかけて,12回にわたり,同児童 に,同児童方で,その乳房や陰部を露出した姿態をとらせ,同児童の携帯電話機を使用し,その画像を撮影させた上,同画像データ12点を携帯電話のアプリを使用して同電話機から被告人の携帯電話機に送信させた。そして,大阪県内又はその周辺で,同画像データ12点を同電話機に受信し,その本体記録装置に記録させて保存し,もって,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。