現行日本法は、実在性重視で、個人的法益説に傾いている感じがします。
http://www.amazon.co.jp/dp/4792351502
豊田兼彦「児童ポルノをめぐる最近のドイツの動向」
P206
(2 ) 議論の内容
児童ポルノ固有の規制目的が被写体児童の保護にあるという点では、ドイツの見解は一致している9)。しかし、具体的に何に注目して保護を図るかについては、複数の考え方がある。?市場説、?模倣説、?人格権侵害説の3つである(名称、は筆者による)。
単純所持の処罰を提案した法案の理白書は、?説と?説を併用している10)。
しかし、?説に対しては、単純所持との関係で疑問が示されており、
最近では、単純所持について?説と?説を併用する立場も有力である。なお、この状況からも明らかなように、これら3つの規制根拠は、相互排他的なものではない。
?市場説
児童ポルノ規制の目的は児童ポルノ市場の撲滅であり、そのために、供給側の行為だけでなく、需要側の取得・単純所持をも処罰するという見解である。すなわち、児童ポルノの消費は、その需要を拡大し、新たな児童ポルノの生産、つまり児童に対する性的虐待を間接的に促進する。よって、消費者による所持も、新たに行われる性的虐待について間接的に責任があり、ここに単純所持が処罰されるべき理由がある、とする考え方である11)。
市場説は、児童ポルノ規制の主目的を説明するものとして広く支持されている。なるほど、取得は、市場に参加する行為であるから、その処罰を市場説から説明することは可能であろう。しかし、単純所持は静的な占有状態の維持であり、市場に参加する行為ではない。Eiseleは、この点を指摘して、市場説から単純所持の処罰を正当化することは疑問であるとしている12)。
?模倣説
児童ポルノの所持者がこれを消費することにより、児童に対する性的好奇心が刺激され、児童に対する性的虐待が模倣されるおそれがある(児童ポルノの所持者はそうでない者よりも児童に対する性的虐待に至る危険性が高い)点に固有の規制根拠を求める見解である13)。これに対しては、科学的に実証されていない模倣の危険を規制根拠とすることはできないという批判がある14)。
?人格権侵害説
市場説と模倣説は、児童ポルノに描写された当該児童に注目するのではなく、将来的になされる児童ポルノの製造(児童に対する性的虐待)に注目し、そこから児童一般を保護しようとする点で共通する15)。これに対し、人格権侵害説は、児童ポルノに描写された当該児童の人間の尊厳・人格権に注目するもので、近時、ドイツで有力に主張されている16)。この見解によれば、児童ポルノの描写対象は、人格権の主体となりうる実在児童に限られる。しかし、後述するように、ドイツ刑法は、描写対象を実在児童に限定していない。そこで、人格権侵害説を支持するHomleは、模倣説を併用している17