児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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3項製造罪+強制わいせつ罪(176条後段)の訴因につき、被害者本人の氏名は表示せずに、被害者の実母の氏名、実母からみた被害者の続柄、犯行当時の被害者本人の年齢をそれぞれ表示するという方法(東京地裁h25.11.12)

 第一法規に出てました。

東京地方裁判所
平成25年11月12日
理由
(犯罪事実)
 被告人は
第1 平成24年3月12日午後4時27分頃から同日午後4時28分頃までの間、東京都〔以下省略〕X公園内男子トイレ個室内において、同トイレに連れ込んだ、Aの〔続柄省略〕(当時7歳)に対し、同人が13歳未満であることを知りながら、そのパンツを引き下ろして陰部を露出させた上、その陰部を手指で触るなどした。
第2 前記第1記載の女児の児童ポルノを製造する目的で
 1 同日午後4時16分頃、東京都〔以下省略〕月極有料駐車場内において、同人に対し、そのパンツを引き下ろして陰部を露出させる姿態をとらせ、これを被告人の撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その動画データ1動画分を同携帯電話機に装着した電磁的記録媒体であるマイクロSDカード1枚(平成25年押第107号の2)に記録させて保存し、もって、衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
 2 前記第1記載の日時場所において、同人に対し、前記第1記載の姿態をとらせ、これを前記携帯電話機で撮影し、その動画データ1動画分を前記マイクロSDカード1枚に記録させて保存し、もって、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態及び衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
(公訴棄却申立てについて)
 検察官は、判示第1及び第2の各犯行に係る公訴事実において、被害者を特定する事項として、被害者本人の氏名は表示せずに、被害者の実母の氏名、実母からみた被害者の続柄、犯行当時の被害者本人の年齢をそれぞれ表示しているところ、弁護人は、上記表示によっては被害者が特定されていないから、上記各犯行に係る公訴の提起は違法であるとして、その棄却を求めている。
 そこで検討するに、確かに、被害者がいることを要件とする犯罪の訴因を明示するにあたり、一般的には、被害者本人の氏名を表示して被害者を特定するのが簡明かつ確実といえ、その特定方法を原則的な取扱いにするのが相当である。
 しかしながら、被害者本人の氏名に基づいて被害者を特定する方法と、被害者の実母の氏名に基づいて被害者を特定する方法とを比べた場合、いずれも人の氏名に基づいた特定方法であることに違いがない上、被害者本人とその実母は他者が介在しない直接的な親族関係にあるから、いずれの特定方法によっても、被害者の識別の精度にほとんど差異は生じないはずである(この点、弁護人は、実母の婚姻回数によっては、同じ続柄の子が複数名存在する可能性がある旨の指摘をするが、本件においては、被害者を特定する事項として、犯行当時の被害者本人の年齢も併せて表示されているから、仮に同じ続柄の子が複数名存在したとしても、そのために被害者の識別が困難になるとは考えがたい)。
 加えて、通常、年少児童が親と同居してその監護の下に社会生活を送っており、両者を一体的に把握することが容易であることも踏まえれば、上記各犯行の被害者を実母の氏名に基づいて特定しても、審判対象の画定及び被告人の防御権保障の点において相当性を欠くことにはならないというべきである。
 したがって、上記各犯行に係る公訴の提起が違法であるとはいえないから、弁護人の公訴棄却の申立てには理由がない。