児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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人身売買の罪

 古い弁護士なので、刑法に知らない罪があるんです。

刑法第226条の2(人身売買)
人を買い受けた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。
5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期懲役に処する。
〔平一七法六六本条追加〕

島戸純「『刑法等の一部を改正する法律』について」刑事法ジャーナル 2005年第1号
5  226条の2の新設
(1) 趣旨
226条の2は、人身取引議定書が、「搾取の目的」により、「他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得」するなどの行為の処罰を義務付けていることなどを受けて、人身の売渡行為及び買受行為を犯罪とした上、目的や客体行為に応じて法定刑を区分するものである。
なお、人身取引議定書は、人の売買行為のうち、「搾取の目的」による場合のみを犯罪化の対象としている。
しかしながら、我が国の刑法に則して考えると、売買行為のうち、売渡行為については、その対価を得る以上、営利目的が存することになるので、常に処罰の対象とすべきものと考えられるところ、この売渡行為を処罰していくためには、これと必要的共犯(対向犯)の関係に立ち、当罰性が認められる人身買受行為についても、当然、捜査の射程に捉え、取り締まっていく必要がある。
また、買受けは、自らの出捐により他人の支配状態を取得する行為であって、買受者において、被害者の自由を拘束する強い動機に基づくものであることから、被害者に対する更なる法益侵害の危険性も高い。
そこで、本条では、売買行為について、その目的を問うことなく処罰の対象とした。
(2) 「人を買い受けた」、「人を売り渡した」の意義
「人を買い受けた」とは、対価を支払って現実に人身に対する不法な支配の引渡しを受けたことをいい、「人を売り渡した」とは、対価を得て現実に人身に対する不法な支配を引き渡すことをいう。
これは、従前の226条2項後段の「売買」について、民法555条にいう「売買」と異なり、現実の引渡しが必要とされている上、対価は金銭に限られない、との解釈が固まっていることを前提とするものである。
ア対価性
対価は金銭以外のものでもよく、財物との交換も売買に当たり、また、従前の債務の免除と引き換えに人の支配を移転させるような場合も売買に当たると解される。
イ支配
a 上記のように、人の買受け、売渡しは、人に対する支配を要素とするものである。
「人を支配下に置く」とは、物理的、心理的な影響を及ぼし、その意思を左右できる状態の下に対象者を置き、自己の影響下から離脱することを困難にさせることをいうところ、場所的移動の有無やその程度、自由拘束の程度やその時間の長短、対象者の年齢、犯行場所の情況、犯行の手段・方法等あらゆる要素を縫合考慮して決定されるものと考えられる。
したがって、必ずしも被害者の自由を完全に拘束することまでは必要ない。
b 外国人女性を売春スナックで稼働させるに際し、?当該女性のパスポートを取り上げただけで、「支配」が認められるかは、一概には断じられないが、言葉も地理も分からない地に連れて来られた外国人女性の立場からすれば、それのみをしても、パスポートを取り上げた者の影響下からの離脱は相当程度困難になると恩われる上、さらに、?指定した住居に住まわせる(買い物等の外出は可能だが、遠方への外出は禁止)、?スナック等に出勤して売春しないと罰金等の名目で報酬を与えない、?高額の借金を負わせる、?逃げ出せば、本人又はその親族に危害を及ぼす旨明示的文は黙示的に告知する、などの各行為のいずれかと相まって、「支配」行為を認定する重要な要素となるものと考えられる。
ウその他
具体例
海外から金銭の授受を伴って我が国に養子として児童を連れて来るような事例や、外国人女性を妻として迎えるに当たり、結婚に際して、金銭の授受が行われる事例も想定されるが、これらが人身売買に当たるか。
この点については、「人の不法な支配」の成否、そして授受される金銭等がその対価といえるか、という事実認定や構成要件への当てはめの問題に帰着し、養子縁組、結婚の形態をとるからといって、直ちにこのような要件に該当しないとみることはできない。
そして、養子縁組等に際して、金銭の授受が行われたとしても、真に親としての愛情の発現や人道的な見地からされる場合には、当該児童の人身の自由が確保されており、また、通常の結婚生活においては、配偶者となった女性において行動の自由が認められるものと考えられ、このような場合には、そもそも対象者を不法に支配するに至ったとは認められないものと思われる。
(3) 対象者の同意があった場合
対象者が自らの身柄等の移転につき、自由かっ真撃な意思に基づいて同意している場合には、買受者がその支配下に置いたとは考え難い。
ただし、実際問題として考えると、人身取引の被害者が完全に自発的に売春を望み、他人からの支配態様も含めて了解して自ら取引されることに同意するなどというのは極めて希有であろう。
表面上、被害者が自ら売春をして金銭を稼ぐことを希望していたとしても、本来は、不特定多数の相手方と性交等を行うことなどを希望しているのではなく、家族を貧困から救うため金銭を稼ぐには、売春によるほかないと考えて、やむなく売春に及ぶに至ったとみるべきであり、このような場合には、被害者の同意は自由かつ真撃な意思に基づくものとは認め難い。
また、被害者が売春することを認識して日本に連れて来られたものであっても、支配や搾取の態様が当人の意から外れた過酷なものであった、というような場合であれば本罪は成立し得るというべきである例。
(4) 1項の罪
「人を買い受けた者」を3月以上5年以下の懲役に処するとするものであり、その主観的要件として何らかの目的を有していることを要しない。
(5)2項の罪
未成年者を成人に比べて厚く保護するとの観点から、同様に目的のいかんを問わず買受行為を処罰の対象にするとともに、法定刑に関しては対象者が成人である場合よりも未成年者である場合を重い処罰とし、未成年者略取・誘拐罪と同じく、3月以上7年以下の懲役とするものである。
(6) 3項の罪
人身取引議定書において、搾取の目的で金銭等の授受の手段を用いて人を獲得する行為(人を支配下に置く行為)及ぴ人を引き渡す行為を犯罪化することが求められているのに加え、実際問題としても、近時、我が国をめぐって、悪質な人身売買行為が行われている実態もうかがわれるので、「営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で人を買い受けた者」を、このような目的による略取・誘拐と同様、1年以上10年以下の懲役に処するとした。
(7) 4項の罪
人を売り渡す行為について、1年以上10年以下の懲役に処するとした。
特段の目的要件が書かれていないが、その理由は「売渡し」に内在するものとして、対価を受領する目的がある以上、我が国の刑法上、常に営利目的が認められることから、法文上、目的要件を掲げる必要はないものと考えたことによるものである。

比女性人身売買容疑の男を逮捕 わいせつ目的=東京2014.07.04 読売新聞 
フィリピン人女性を愛人にするために人身売買したとして、警視庁は3日、容疑者(66)を人身売買(わいせつ目的買い受け)の疑いで逮捕するとともに、被告(64)(監禁致傷罪で起訴)と、妻でフィリピン国籍被告(60)(同罪で起訴)を同(売り渡し)容疑で再逮捕したと発表した。
わいせつ目的買い受け容疑での摘発は全国初という。
 同庁幹部によると、被告らは5月12日、観光ビザで日本に呼び寄せたフィリピン人女性(23)を、容疑者に150万円で売り渡した疑い。
容疑者は「愛人が欲しかった」と容疑を認めている。