児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童福祉法60条4項につき、年齢の認識又はその不知についての過失の有無をいかなる資料により判断するかを論じるもの

宮沢浩一「児童の年齢不知に関する過失の有無」別冊ジュリスト第56巻 社会保障判例百選
六〇条三項の法意がどうであれ、年齢の認識又はその不知についての過失の有無をいかなる資料により判断するかが、本稿の中心主題である。「過失がない」とされるには、「年齢確認のための通常とりうるあらゆる方法を考え、そのすべてを尽したけれども、その者が法定年齢に逃していないことが見破れなかった場合」に認められようが、従来の判例においては、無過失の認定には厳しい姿勢がうかがえる(松田運雄・九〇頁以下)。
風俗営業などに応募し、そこで働こうと希望する児童やその保護者は、雇い入れられることを望むあまり年齢を詐称することが多い。又、しばしば住所・氏名をいつわる。これらの者には、心的・物的に不安定な者が多く、人生の陰を歩いた者が少なくない。雇用主は、経験上、この種の女性や周旋人が申し述べる事項、殊に年齢の点について確実に調査し、実際の年齢を確認しなければ、児童福祉法違反の罪に関われるおそれの多いことを熟知しているはずであり、従って、一般人よりも重い注意義務を負わされている。
殆どの判例において指摘されているのは、児童の年齢を知らないことにつき過失がないというためには、単に本人の陳述または身体の発達状況等の外観的事情により一八歳以上であると判断しただけ
では不十分であって、そのほかに、客観的資料として、戸籍抄本、食糧通帳もしくは父兄等について正確な調査を講じ、もって児童の年齢を確認する措置を採るべきものとするが、個別的には、さらに次のような点が問題とされている

新版注解福祉犯罪 判例中心P87
三過失のないときの解釈
法第六〇条第一、二項違反の罪を犯した者が、「児市一を使用する者」であった場合でも、その者が当該児童の年齢を知らなかったことについて「過失がないとき」には処罰されない(法六〇条三項但
書)。どのような場合が「過失のないとき」にあたるかは、結局は具体的な側々のケースについて判断せざるを得ない問題であるが、一般的にいえば「年齢確認のための通常とりうるあらゆる方法を考え、そのすべてを尽したけれども、その者が法定年齢に達していないことが見破れなかった場合」を指すものといえよう。したがって、このようなすべてが尽されていない場合には、いまだ「過失のないとき」とは解されないこととなる。
この「過失のないとき」にあたるか否かが争われた裁判例をみると次のとおりであるが、総じて無過失の認定には厳しい姿勢がうかがえるようである。

ア児童を接客婦として雇い入れるにあたり、その実家を訪問し、直接、本人及びその両親について調査はしたが、その際同人等の差し出した実は他人の戸籍抄本を、同人等の陳述のみによってたやすく児童本人のものであると軽信した場合には、いまだ過失がないとはいえないとした事例。
イ児童本人の供述や、その身体の外観的発育状況ないし他と夫婦生活をしていたという点から同女を満一八歳以上と判断した場合には、年齢を知らなかったことについて過失がないとはいえないとした事例。
ウ児童本人が実姉の氏名を詐称し、その氏名に基づいて市役所戸籍係に問い合わせたところ、それが実在の人であり、生年月日も符合していたため、本人の言を信じたような場合には、いまだ過失がないといえないとした事例〔判例六三〕。
エ児童本人や仲介人の申立て及び児童の身体の発育状況等のみによって、児童を満一八歳以上と軽信した場合は、過失がないときにあたらないとした事例〔判例六四〕。
オ児童の生母から提示された戸籍謄本記載の生年月日より二年前の出生である旨を記載した偽りの医師の出生証明書を信じ、これを作成した医師が比較的被告人住居の近くにおいて開業していることを熟知し、容易に同医師についてその真偽を確かめ得る立場にあったのにかかわらず、その挙に出ず漫然とこれを以って公文書たる戸籍簿の記載を覆えし得る証明資料と思意したことは、過失がなかったときに該当するとは認め得ないとした事例〔判例六五〕。
カ児童を雇い入れる際に提出された転出証明書が、年齢欄等の数字が改ざんされたものであったとしても、これを相当の注意をもってみれば看破し得る状態にあるから、当該児童の年齢を知らなかったことに過失がなかったとはいえないとした事例〔判例六六〕