児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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ペットの死傷について慰謝料を認容した判例

名古屋高等裁判所判決平成20年9月30日
       主   文

 1 原判決中,控訴人らに対し,それぞれ,26万6425円及びこれに対する平成17年9月25日から支払済みまでの年5分の割合による金員を超えて金員の支払を命じた部分を取り消す。
 2 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
 3 その余の本件控訴を棄却する。
 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを20分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
 1 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
 2 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,控訴人Cが運転する大型貨物自動車が被控訴人Bの運転する普通乗用自動車に追突し,上記普通乗用自動車に乗せられていた飼い犬が第2腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺の傷害を負った交通事故に関し,その飼い主(飼い犬の共有者)である被控訴人らが,それぞれ,控訴人Cに対し,民法709条に基づき,控訴人Cの使用者である控訴人D株式会社に対し,民法715条に基づき,連帯して,損害賠償金990万5706円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成17年9月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
   原審は,被控訴人らの請求の一部(被控訴人Bにつき104万0162円と遅延損害金,被控訴人Aにつき82万0162円と遅延損害金)を認容し,その余を棄却した。なお,上記104万0162円の内訳は,?飼い犬の(ア)治療費76万3560円,(イ)入院雑費,介護用具代,雑費10万9925円,(ウ)治療のための交通費6840円の合計88万0325円の2分の1である44万0162円,?慰謝料50万円,?弁護士費用10万円であり,上記82万0162円の内訳は,?上記と同額の44万0162円,?慰謝料30万円,?弁護士費用8万円である。
   これを不服とする控訴人らがその敗訴部分につき控訴をした。
 2 前提事実(争いのない事実),争点及びこれに関する当事者の主張
   次のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2」及び「3」記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決書3頁7行目の「被告車両」から同頁同行目の「追突し」までを「控訴人車両の左前部が,赤信号表示に従って北向きに停止中の被控訴人車両の右後部に衝突(追突)し」と改める。
  (2) 同頁14行目の末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。
   「 なお,被控訴人車両は,控訴人車両に追突された衝撃により,回転しながら前方に押し出され,車両前部を西向きにした体勢で,車両右側部が上記E運転の車両(以下「E車両」という。)の後部に衝突して停止した。そして,本件事故により被控訴人車両の右後部と右側部が大きく破損した(甲3,4)。」を加える。
第3 当裁判所の判断
  当裁判所は,被控訴人らの本件請求は,それぞれ,控訴人らに対し,連帯して,損害賠償金26万6425円及びこれに対する不法行為の結果発生後である平成17年9月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。
 1 前提となる認定事実
   次のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「1」記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決書9頁11行目の「本件事故」から同頁12行目の「受傷し」までを「本件事故当時,Fは,被控訴人車両の右後部座席シート上に乗っていた。被控訴人Bは,乗車の際,Fを体を横に伏せたような姿勢で寝かせ,また,運転中は,助手席に座った被控訴人Bの母がFの様子を監視するようにしていたが,犬の体を固定する器具をFに装着していなかった。そして,本件事故の際,控訴人車両の左前部が被控訴人車両の右後部に衝突(追突)し,さらに,被控訴人車両の右側部がE車両の後部に衝突したことによる衝撃のため,Fは,受傷し」と改める。
  (2) 同頁13行目の「後肢麻痺」から同頁14行目の末尾までを「G動物病院の獣医師は,被控訴人Aに対し,受傷部の化膿による高熱などの症状があり,当面,経過を観察する必要があるので,Fを入院させるよう指示した。」と改める。
  (3) 同頁15行目の「受傷内容につき,」の次に,「大きな外傷は認められなかった(甲30)が,」を加える。
 2 Fの治療費,入院雑費,介護用具代,雑費その他(慰謝料,弁護士費用以外のもの)について
   Fが傷害を負ったことによる損害の内容及び金額は,Fが物(民法85条)に当たることを前提にして,これを定めるのが相当である。このことは,前示(原判決書記載)のとおり,被控訴人らが,Fを我が子のように思って愛情を注いで飼育していたことによって,左右されるものではない。
   ところで,一般に,不法行為によって物が毀損した場合の修理費等については,そのうちの不法行為時における当該物の時価相当額に限り,これを不法行為との間に相当因果関係のある損害とすべきものとされている。
   しかしながら,愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については,生命を持つ動物の性質上,必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療や,その生命の確保,維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度において,不法行為との間に因果関係のある損害に当たるものと解するのが相当である。
   これを本件についてみるに,?Fは,被控訴人らが平成9年7月(生後約5か月)に6万5000円で購入した後,我が子のように思って愛情を注いで飼育していた飼い犬である。また,?本件事故当日,受傷部の化膿による高熱などの症状が認められ,当面,経過を観察する必要があることから,G動物病院に入院し,その後,症状が安定してきたころから,光線治療を受けるようになった(被控訴人A本人)。光線治療の開始時期は,平成17年10月5日である(甲30)が,それまでの間の治療等の内容は,検査(血液,尿,レントゲン),注射(点滴,止血,抗生剤),排尿処理等であり(甲14の1,甲30),同年12月11日の退院時までほぼ継続して行われている。これらの治療等は,その内容や,Fの症状経過等にかんがみ,受傷後のFに対する当面の治療やその生命の確保,維持に必要不可欠なものであるとすることができる。なお,後肢麻痺や褥創などの症状にかんがみ,車いす製作料2万5000円(甲14の1)についても,上記必要性を肯定すべきである。
   以上の?,?の点を踏まえて,Fに対する当面の治療や,その生命の確保,維持に必要不可欠な費用のうち,時価相当額(前示の購入代金額を下回っているか,仮に,そうでないとしても,これを大きく上回ることはないものと推認できる。)を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度を検討すると,入院当日である同年9月25日から光線治療が開始される前日である同年10月4日までの10日間の治療費である11万1500円(その内訳は,?入院当日である同年9月25日の治療費1万1200円(甲14の1),?同月26日から同年10月15日までの20日間の治療費16万4000円(光線治療費を含めた額)から,光線治療費3万円を控除した残額13万4000円(甲14の1)を20で除した額の9倍に当たる6万0300円,?上記10日間の入院料4万円(日額4000円。甲14の1)である。)に,車いす製作料2万5000円(甲14の1)を加えた13万6500円をもって,不法行為との間に相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
   そして,被控訴人らの共有持分は,各2分の1と認められるから(弁論の全趣旨),被控訴人らの損害額は,6万8250円ずつとなる。
   なお,被控訴人らは,Fの治療のために支出した費用は,動物愛護法に適合するものであるから,その全額を本件事故との間に相当因果関係のある損害として認めるべきであると主張するが,動物愛護法の点は,本件事故との間に相当因果関係のある損害の内容,額を定めることとは別個の問題であるから,被控訴人らの主張は,採用できない。
 3 慰謝料について
   近時,犬などの愛玩動物は,飼い主との間の交流を通じて,家族の一員であるかのように,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないし,このような事態は,広く世上に知られているところでもある(公知の事実)。そして,そのような動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより,死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには,飼い主のかかる精神的苦痛は,主観的な感情にとどまらず,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ,また,このような場合には,財産的損害の賠償によっては慰謝されることのできない精神的苦痛があるものと見るべきであるから,財産的損害に対する損害賠償のほかに,慰謝料を請求することができるとするのが相当である。
   これを本件についてみるに,前示のとおり,子供のいない被控訴人らは,Fを我が子のように思って愛情を注いで飼育していたものであり,Fは,飼い主である被控訴人らとの交流を通じて,家族の一員であるかのように,被控訴人らにとってかけがえのない存在になっていたものと認められる。ところが,Fは,本件事故により後肢麻痺を負い,自力で排尿,排便ができず,日常的かつ頻繁に飼い主による圧迫排尿などの手当てを要する状態に陥ったほか,膀胱炎や褥創などの症状も生じているというのである(被控訴人ら各本人)。このようなFの負傷の内容,程度,被控訴人らの介護の内容,程度等からすれば,被控訴人らは,Fが死亡した場合に近い精神的苦痛を受けているものといえるから,上記2の損害とは別に,慰謝料を請求することができるというべきである。
   そして,慰謝料の金額については,Fの負傷の内容,程度,被控訴人らの介護の内容,程度等その他本件に現れた一切の事情を総合すると,被控訴人らそれぞれにつき,20万円ずつとするのが相当である。
  (各被控訴人につき上記2,3の合計26万8250円ずつ)
 4 過失相殺について
   自動車に乗せられた動物は,車内を移動して運転の妨げとなったり,他の車に衝突ないし追突された際に,その衝撃で車外に放り出されたり,車内の設備に激突する危険性が高いと考えられる。そうすると,動物を乗せて自動車を運転する者としては,このような予想される危険性を回避し,あるいは,事故により生ずる損害の拡大を防止するため,犬用シートベルトなど動物の体を固定するための装置を装着させるなどの措置を講ずる義務を負うものと解するのが相当である。
   ところが,前示のとおり,被控訴人Bは,このような措置を講ずることなく,乗車の際,Fを体を横に伏せたような姿勢で寝かせ,また,運転中には,助手席に座った被控訴人Bの母がFの様子を監視するようにしていたにすぎないというのであるから,この点につき,被控訴人らには過失があるとするのが相当である。
   そして,前示の本件事故の態様と本件事故の衝撃による被控訴人車両の動静等からすれば,被控訴人Bが上記措置を講じていれば,Fが本件事故により受けた衝撃の程度は,より緩和されていたものと推認できる。その他本件審理に現れた一切の事情を併せ考えると,被控訴人らの過失割合を1割とするのが相当である。
   上記過失相殺後の被控訴人らの損害額は,各被控訴人につき24万1425円ずつとなる。
 5 弁護士費用
   被控訴人らは,本件訴訟の提起,遂行を本件訴訟代理人弁護士らに委任し,その報酬として相当の額を支払ったことが認められる(弁論の全趣旨)。そして,本件訴訟の内容,性質や,認容額,審理経過その他一切の事情によれば,本件の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,そのうち各2万5000円とするのが相当である。
  (各被控訴人につき以上合計26万6425円ずつ)
第4 結論
  よって,本件控訴は一部理由があるから,原判決を変更することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,64条本文,65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
    名古屋高等裁判所民事第4部
        裁判長裁判官  岡久幸治
           裁判官  加島滋人
           裁判官  鳥居俊一

損害賠償請求控訴事件
名古屋高等裁判所判決平成23年10月13日
判例タイムズ1364号248頁
判例時報2138号57頁
三 本件事故による損害について
 (1) 前記認定事実及び《証拠略》によれば、タロウは、本件事故により、両後ろ足の前十字靱帯断裂の傷害を負ったことが認められる。
 もっとも、左後ろ足の前十字靱帯断裂は、平成二〇年七月二六日に岐阜西動物病院から自宅に戻った際、玄関でつまづいたことによるものであるが、前記認定事実にあるように、控訴人が、本件事故の翌日にタロウを岐阜西動物病院に連れて、診察を受けた時点で、医師から、左後ろ足の靱帯も切れるおそれがあると言われていて、タロウのように四本足での歩行が困難になった場合、歩行中につまづくことは通常生じうるところであるから、左後ろ足の前十字靱帯断裂についても、本件事故による傷害と認められる。
 (2) 《証拠略》によれば、タロウは、本件事故により、平成二〇年七月一六日から同年一二月三一日まで、岐阜西動物病院で両後ろ足の前十字靱帯断裂の手術、入院、通院治療を受けたこと、その後、左後ろ足の外側の手術痕が化膿し肉汁が出たため、平成二一年一月一七日から同年二月七日まで、岐阜西動物病院で、外側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受けたこと、さらに、左後ろ足の内側の手術痕が化膿したため、平成二一年五月三〇日から同年七月八日まで、岐阜西動物病院で、内側に入れてある固定具除去の手術、入院、通院治療を受けたこと、控訴人は、これらの治療費として合計三二万五二六〇円を支払ったこと、タロウは、現在、右後ろ足の内側と外側に固定具を装着していて、経過を見ながら、いずれ固定具を除去する手術を受ける必要があること、その費用は、一箇所五万円で、内側と外側の二箇所で一〇万円を要することが認められる。
 したがって、本件事故によるタロウの治療費の合計は、四二万五二六〇円となる。
 (3) 前記認定事実に加え、《証拠略》によれば、控訴人は、本件フレキシリードについて調査するため、これを調査機関に提供し、その結果、壊れて使用不能になったこと、本件フレキシリードの購入代金は四六八〇円で、控訴人は、本件事故までに、三回本件フレキシリードを使用していたことが認められるから、本件フレキシリードの購入代の半額(二三四〇円)をもって、本件事故による損害と認めるのが相当である。
 (4) 前記認定事実に加え、《証拠略》によれば、控訴人は、本件事故後、夫の協力を得ながら、歩行が困難になったタロウの面倒をみるとともに、これまでに、タロウのリハビリに必要な車椅子を四台製作していること、現在もタロウの両後ろ足には固定具が装着されていて、今後も、タロウの面倒をみていかなければならないこと、タロウは、控訴人夫婦の家族の一員として扱われてきていることが認められるから、控訴人は、タロウが本件事故に遭ったことで、精神的苦痛を被ったことが認められる。そして、すでに認定した事実に照らせば、控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するには三〇万円が相当である。
 (5) 以上によれば、本件事故による損害の合計は、七二万七六〇〇円となる。
 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、製造物責任法三条に基づき、七二万七六〇〇円の損害賠償とこれに対する本件事故後である平成二一年五月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。
 四 よって、控訴人の請求を全部棄却した原判決は一部失当であり、本件控訴は、上記の限度で理由があるので、原判決を変更して、上記の限度で控訴人の請求を認め、その余の請求を棄却することとする。

損害賠償請求控訴事件、附帯控訴事件
東京高等裁判所判決平成20年9月26日
判例タイムズ1322号208頁
(ウ) 次に,?の精神的損害についてみると,被控訴人は,葉子を平成2年からペットとして飼い始めたものであるが,葉子を我が子同様に可愛がり,強い愛着を抱いていたことは,葉子の治療に関して近くの動物病院で治療が効果を挙げないと,わざわざ自宅から離れた控訴人病院を受診し,さらに,入院中の葉子を見舞うため,控訴人病院の近くのホテルにまで宿泊していたこと等からも十分うかがえるところである。ところが,葉子は,間質性肺炎及びDICに罹患し,一時生死が危ぶまれるような状態に陥ったのであり,入院期間も,日大病院に転院して長引いたのである。また,葉子が重篤な状態に陥ったことが,退院後の通院治療等(その内容,頻度等)にも一定の影響を及ぼしていることが推認されるし,葉子が日大病院退院後1(6)認定のような状態になったことにも一定の影響を及ぼしていることが推認される。そして,これらのことにより,被控訴人は多大な精神的苦痛を被ったものと認められるのである(甲11)。
 そうすると,葉子が飼育動物にすぎないこと,本件は獣医師の過失により動物が死亡したという事案ではないこと等を考慮しても,被控訴人が被った精神的損害を慰謝するに相当な金額は40万円と認める。

東京高等裁判所判決平成19年9月27日
判例時報1990号21頁
(2) 一審原告らの慰謝料
 前記認定事実及び前掲各証拠によれば、前記三(2)のとおりの不法行為により春子が死亡したことにより一審原告らがかなりの程度の精神的苦痛を受けたことが認められ、同苦痛に対する慰謝料は、前記認定のような不法行為の内容、とりわけ本件手術の不適切さの程度、獣医師でありながら、三箇所の手術を同時に行う危険性、緊急性についての慎重な判断を欠いたこと、死亡という結果、春子が一審原告らのペットとして約一五年間共に生活してきたこと、その他本件記録に顕れた諸般の事情を総合して、一審原告の各自につき三五万円が相当であると認める。
 なお、一審原告らは新たな犬の購入費四〇万円を主張するが、春子は一五歳の老犬で、一審原告らにとってはかけがえのないペットであったとはいえ、客観的には財産的な価値はなく、いわば財産的損害としての代替品購入費用を損害と認めるのは相当でない。

名古屋高等裁判所金沢支部平成17年5月30日
判例タイムズ1217号294頁
LLI/DB 判例秘書登載
判例タイムズ1234号55頁

(3)慰謝料について
 本件犬は,13歳5か月で死んだものであり,ゴールデンレトリーバーの寿命は概ね10歳(甲20)程度であることからすれば,相当の老犬であり,また,結果的にも悪性の腫瘍に罹患していたのであるから,血統証明書(甲1)付きのものであるとしても,本件手術当時におけるその交換価値はほぼ皆無であったと推認される。しかし,本件犬は,その誕生間もないころから約13年間の長きにわたり控訴人ら家族の一員として共に暮らし,子供のいない控訴人らにとって本件犬は正に我が子のような存在であり,そのように可愛がってきたことが認められる(甲2,甲3の1ないし8,甲25の1ないし31,甲29,甲31の1ないし9,控訴人ら本人)。したがって,控訴人らにおいて,余命少ない本件犬に,大きな苦痛を与えることなく,平穏な死を迎えさせてやりたいと考えることもごく自然な心情であって,本件犬の治療方法を選択するに当たっての控訴人らの自己決定権は十分尊重に値するものということができる上,本件手術により本件犬の死期が早まったものと認められるから,上記自己決定権を侵害され,本件犬を早い時期に失ったことにより控訴人らの被った精神的苦痛は慰謝に値するというべきである。
 以上の点のほか,本件に現れた諸般の事情を考慮し,控訴人らの被った精神的苦痛を慰謝するには控訴人1人当たり15万円(合計30万円)が相当である。