児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員事件の控訴審の破棄率が厳しい

  裁判官裁判時代が17.6%
  裁判員事件は 6.6%
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/80819004.pdf

 集団強姦致傷とかの事件で2項破棄の判決をもらいましたが、次からはこの数字で説明します。

http://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/saibanin_kondan/index.html
第18回懇談会(平成24年6月19日開催)議事概要(PDF:34KB)
http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/808018.pdf
(2) 控訴審について
郄橋刑事局第一課長から,平成24年4月末日までに言い渡された殺人等の15罪名の控訴審判決について,資料3に基づき,説明がされた。また,①事実誤認を理由に裁判員裁判が破棄された事例は4件あるが,これらに顕著な共通項は見当たらないこと,②量刑不当を理由に裁判員裁判が破棄された事例は5件あり,いずれも,量刑を軽減させる方向に働く事情について,原審と控訴審とで判断が分かれていること,③判決後の情状を理由に裁判員裁判が破棄された事例は38件あり,判決後の情状として考慮された事情の中で最も多いのは追加弁償であることなどについて,説明がされた。
(酒巻委員)
資料3では記載されていない,覚せい剤取締法違反事件について,控訴審で破棄された裁判員裁判は何件あるのか。
(郄橋刑事局第一課長)
裁判員裁判で無罪が言い渡された覚せい剤取締法違反事件8件のうち,控訴審において事実誤認により破棄された件数は,平成24年4月末日までに4件ある。
(酒巻委員)
平成24年4月末日までに言い渡された控訴審判決のうち,破棄差戻しは何件あるのか。
(郄橋刑事局第一課長)
資料3記載の15罪名の事件は1件だが,それ以外に,覚せい剤取締法違反の事件が1件,その他の罪名の事件が2件ある。
(酒巻委員)
従来の裁判官裁判では,控訴審が原判決を破棄する場合,自判することが多かったが,裁判員制度の下で,控訴審が事実誤認により裁判員裁判を破棄する場合,自判せず差し戻すべきかどうかについて,制度設計の段階から議論があったところである。現行法上,自判と差戻しのいずれも可能ではあるが,控訴審の判断が差戻し後の裁判員裁判を拘束するという問題もあり,この点については様々な考え方があるので,今後,差戻しの動向には留意すべきであろう。
(小野委員)
差戻し後の裁判員裁判における証拠調べの在り方は,弁護人にとっては悩ましい問題である。例えば,第1次裁判員裁判において証人尋問を行い,弁護人の反対尋問が功を奏したとしても,差戻し後の第2次裁判員裁判


おいて,同一証人に対して再度尋問を行う場合には,その証人は,どのような反対尋問を受けるかあらかじめ予想できるため,第1次裁判員裁判と同様の結果が得られない可能性が高いだろう。
(龍岡委員)
裁判員裁判で無罪を言い渡した事件について,控訴審が事実誤認により破棄する場合,裁判員は全く量刑判断を行っていないため,裁判員制度の趣旨を徹底するならば,控訴審が自判するのではなく,原審に差し戻し,裁判員裁判で量刑判断を行うのが相当ということになろうが,他方,事件を差し戻した場合,小野委員が指摘された証拠調べの問題も生じるので,理屈だけで割り切ることも難しい。
(桝井委員)
控訴審が量刑不当により裁判員裁判を破棄した事例のうち,従来の裁判官裁判における基準にのっとり,裁判員裁判ならではの市民感覚に基づく量刑判断を否定したものがあるならば,それは,裁判員制度の下で求められる控訴審の姿勢とはいい難いように思われる。
(龍岡委員)
一般的にいえば,従来の裁判官裁判でも,量刑判断には一定の幅があり,控訴審は,不合理といえない限りは第一審の判断を尊重していたところ,裁判員裁判では,量刑判断の幅が広がったため,従来にも増して,第一審の判断を尊重することになるのではないかと思われる。
(大谷事務総長)
量刑不当により裁判員裁判を破棄した控訴審判決も,裁判官裁判における基準と全く同じ基準で量刑判断を行ったわけではないだろう。ただ,裁判員裁判において量刑判断の幅が広がったとしても,例えば,被告人の置かれた状況等,前提事実の評価について大きな誤りがある場合には,いかに裁判員裁判を尊重するという前提に立っても,控訴審は,裁判員裁判を破棄することになるのではないか。
(龍岡委員)
そのほか,例えば,控訴審で新たな証拠が取り調べられた結果,量刑の基礎となる事実の認定が異なった場合にも,控訴審における判断は裁判員裁判とは異なることになる。
(桝井委員)
控訴審において裁判員裁判の量刑を減刑する際の基準がわかりにくい。
(龍岡委員)
破棄判決がいまだ少ないため,裁判員制度下における控訴審の量刑判断の基準を分析することは困難であろう。もっとも,裁判員制度下における控訴審の破棄率が,裁判官裁判の破棄率と比べて大幅に低下しているので,一般的には,控訴審において,第一審の判断を尊重する姿勢が強くなってきているといえるのではなかろうか。控訴審裁判員裁判を破棄した事例では,何らかの特殊事情があったのではないかと思われる。
(小野委員)
龍岡委員の指摘どおり,資料3によれば,裁判員制度下における控訴審の破棄率は6.6%であり,裁判官裁判の破棄率である17.6%と比べ,有意に低下している。
(大谷事務総長)
裁判官の研究会等においても,控訴審裁判員裁判における判断を尊重すべきであるという姿勢について異論が唱えられたことはないと思う。
(郄橋刑事局第一課長)
そのような異論が唱えられたことはなく,裁判員裁判の判断を尊重するという姿勢についてコンセンサスは得られているものと思われる。
(龍岡委員)
裁判員制度の施行前には,控訴審は,裁判員裁判についても従来の裁判官裁判と同じ基準で判断すべきであるとの意見を述べる裁判官もいたようだが,現在では,そのような裁判官はいなくなっているのではないか。
(郄橋刑事局第一課長)
現に,控訴審判決の中には,裁判員制度下では,控訴審裁判員裁判の判断を尊重すべきであると明言したものも複数現れている。
(小野委員)
判決後の情状を理由に裁判員裁判を破棄した事例についてみると,追加弁償や被害感情の緩和があっても,量刑がそれほど軽減されていないものが多く,弁護人側としては,裁判員裁判において,判決後の情状に関する控訴審の判断が厳しくなったのではないかと感じている。
(龍岡委員)
統計をみても,判決後の情状により裁判員裁判を破棄した割合は,裁判官裁判に比べて低下している。
(桝井委員)
従前の裁判官裁判では,判決後の情状を理由とする破棄及び減刑の理由として,被害弁償や被害感情の緩和が大きく評価されていたのか。
(小野委員)
統計に基づく正確な比較はできないが,感覚的にはそのとおりである。
(龍岡委員)
従来の控訴審は,第一審段階で被害弁償が可能であったにもかかわらず,これを行わず,控訴審に至って被害弁償を行った場合であっても,判決後の情状として一定程度評価していたと思われる。従来の裁判官裁判においては,最終的に控訴審の考える適切な量刑に落ち着くよう,判決後の情状による破棄を行っていたのではないか。裁判員制度の下では,控訴審は,弁護人は裁判員裁判においてできる限りの努力をすべきであるとの観点から,裁判員裁判段階で可能であった被害弁償を控訴審に至って初めて行っても,直ちに判決後の情状として評価することは少なくなったのではないかとも考えられるが,いまだ事例の集積が少ないため,断定することはできない。裁判員制度下において判決後の情状をどの程度考慮すべきかについては,今後の検討課題であろう。
(小野委員)
同感である。今後,事例の集積を待って検討すべき課題である。