児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判員事件に対する検察官控訴

 義務だとか言って招集して裁判に関与させておいて国が気にくわない場合には控訴して破棄するというのでは何のための裁判員裁判なのか、裁判員の皆さんに失礼ではないかという疑問は残りますが、控訴関係の条文に修正がありませんので、法律上は可能になっています。義務だとか言って招集して裁判に関与させておいて国が気にくわない場合には控訴して破棄するというのでは何のための裁判員裁判なのか、裁判員の皆さんに失礼ではないかという疑問は残りますが。
 やっぱり、事実認定、法令適用、量刑、訴訟手続という裁判の核心部分は放していない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100703-00000513-san-l12
裁判員裁判で初の全面無罪とした先月22日の千葉地裁判決について、千葉地検が「1審判決には事実誤認がある」として東京高裁に控訴する方針を固めたことが3日、関係者への取材で分かった。裁判員裁判で検察側が控訴すれば全国で初めてとなる。
 控訴期限は6日。週明けに東京高検などと最終協議して正式に決定する。検察内での協議の結果、客観的証拠から控訴審では有罪が得られる可能性があると判断。無罪を確定させれば、今後の覚醒剤密輸事件の捜査に影響が出ることを懸念したとみられる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100703-00000212-yom-soci
検察当局は2日、「1審判決には事実誤認がある」として、東京高裁に控訴する方針を固めた。
 昨年5月の制度施行以来、600件以上の裁判員裁判の判決が出ているが、検察側の控訴は初めてとなる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100703-00000005-mai-soci
裁判員裁判で全国初の全面無罪を言い渡した覚せい剤密輸事件の千葉地裁判決(6月22日)について、検察側は「事実認定に誤りがある」として控訴する方向で検討を始めた。5日にも千葉地検と東京高検、最高検で協議のうえ最終決定する。検察側が控訴すれば、裁判員裁判の判決に対しては初めてとなる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100702-00000139-jij-soci
覚せい剤を密輸したとして起訴された男性会社役員(59)に対し、裁判員裁判で初の全面無罪を言い渡した千葉地裁判決について、千葉地検は2日までに、判決には事実誤認があると判断し、控訴する方針を固めた。週明けに上級庁と協議し、最終決定する。
 裁判員裁判の判決に検察側が控訴した例はこれまでになく、初めてのケースとなる見通し。

池田修 解説裁判員法第2版p4
1)導入までの議論の過程では,一部に,これまでの職業裁判官による刑事裁判を否定的に評価し,これを改めるためには司法を職業裁判官の手から取り戻し,国民自らが主権者として裁判を行う制度を導入すべきであるなどといった意見もみられたが,裁判員法は,もとより,このようなイデオロギッシュな立場から立案されたものではない。このことは,現実に導入されることになった制度が,裁判官と裁判員の合議によって事実を認定し,有罪の場合には刑まで決めるという。いわゆる参審型の制度であり,裁判官以外の者に事実認定を委ねる陪審型の制度は探川されなかったという事実からも,明らかである。現在の我が国において陪審型の制度を採用できない一つの大きな理由として,次のような点を指摘することができる。すなわち,陪審型の制度では,有罪か無罪かという事実認定について判決でその理由を示すことができず,そのために事実誤認に関する上訴も制限されることになるが,このことは,当事者のみでなく国民にとっても受け入れ難いものと思われる(第4章?3経緯・課題(1)参照)。今回の裁判員制度は,そのような問題が生じない制度となっているから,この制度を陪審制の制度へ移行する前段階ととらえるようなことはできない。

p135
1 控訴審
[解説]
 控訴審については、何らの特則も設けられていないから、現行法どおり、裁判官のみで構成された裁判体が、事後審として第1審判決の当否を審査し、破棄すべきか否か審査することになる。控訴審は事後審であるから、裁判官のみで構成された控訴審裁判員の加わった第1審の判決を破棄することも正当化できること(後記経緯参照)、控訴審では記録の検討が主な職務となるため、裁判員の負担が重いものとなることなどが考慮されて、現行法どおりとされたものである。原判決を破棄する場合、破棄事由の有無に関する審理を遂げた結果として、言い渡すべき判決が明らかになっているときには、自判することができるのは、現在と同じである。しかし、裁判員制度を導入した趣旨を考えると、第1審判決を尊重し、破棄についても、自判についても、慎重に運用すべきことになろう(後記課題参照)。
[経緯]
 検討会では、当初、原判決を破棄することとなった場合に控訴審でも裁判員を加えるという意見も出されたが、裁判官のみで構成するという意見が大勢を占めたため(6回議事録参照)、たたき台として、現行法どおりとするA案のほか、裁判員の関与した第1審判決を尊重するという観点から、「控訴審では、裁判官のみで審理及び裁判を行うが、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り等についてのみ自判できるものとし、量刑不当及び事実誤認については自判はできないものとする」というB案、「控訴審では、裁判官のみで審理及び裁判を行い、量刑不当についても自判を認めるが。事実誤認についてのみ自判を認めないものとする」というB’案、「控訴審では、裁判官のみで審理及び裁判を行うが、事実誤認及び量刑不当に関する破棄理由を加重する」というC案、「控訴審においても、裁判員が審理及び裁判に関与するものとし、覆審構造とする」というD案が示された。最終的には、実際の運用では第1審の判断が尊重されることになるという含みの下にA案を支持する意見が比較的多数を占め、B’案を支持する意見も有力であったが、D案はなかった(18回・25回議事録参照)。控訴審は、全く新たに証拠を調べて独自に心証を形成するのではなく、第1審判決を前提として、その内容に誤りがないかどうかを記録に照らして事後的に点検するという事後審査を行うだけであると位置付ければ、裁判官のみで構成される控訴審による審査や破棄を正当化できるというのが、多くの意見の前提であったことから。座長ペーパーは、A案を採用した上、事後審であるという控訴審本来の趣旨を運用上より徹底させることが望ましいとして、「現行法どおりとする(控訴審は、事後審として原判決の瑕疵の有無を審をするものとする)」となった
[課題]
 (1)破棄の基準  裁判員制度は,国民の健全な社会常識を反映しようとするものであるから,観念的にいえば,控訴審としては,従来の基準を全く変えずに事実誤認または量刑不当として破棄すべきではなく,裁判員が加わっている第1審判決を尊重して,破棄の基準を多少厳格なものとすることになろう。
 まず,事実誤認の点についてみると,1審判決の事実認定が,単に控訴審裁判官が記録を検討して形成した心証と異なるというだけでなく,経験則・論理則に照らして明らかに不合理であることを具体的に指摘できるものでない限り,控訴審が事実誤認に当たるとはいえなくなるのではないかと思われる。特に,証人・被告人の供述の信川性に関する判断は,一般国民の意見が反映されやすいであろうから,経験則・論理則違反が明らかでない限り,1審の判断が尊重されることになるであろう。また,間接事実を総合して合理的疑いを容れない証明があったかが問題となる事案の審査も,基本的に同様と考えられる。他方,経験則・論理則に照らして明らかに不合理であれば,裁判官のみの控訴審が破棄しても正当化できると考えられる。当然取り上げられるべき争点が取り上げられなかったり,当然調べられるべき証拠が調べられていないため,事実認定が経験則・論理則に照らして明らかに不合理となっている疑いがある場合も,同様であろう。
 次に量刑不当についてみると。1審判決の量刑の幅は,裁判員の多様な意見を反映して従来より広がるであろうから,控訴審として許容すべき幅も広がるものと考えられる。もっとも,死刑か無期刑かの判断は,幅が許容されるべきものではないから,従来と雌本的に変わることはないと思われるが,裁判員制度を運用する上で検証していく必要があろう。なお,いわゆる2項破棄(刑訴法397?)の場合は,裁判員の関与した判断を尊重するという観点が弱まるから,破棄の範囲は従来とあまり変わらないであろう。もっとも,第1審において公判前整理手続が行われ,量勝利情についても主張と証拠の整理がされる上,量刑についても裁判員の意見を反映することが本制度の趣旨である以上,従来は1審判決後に行われることも少なくなかった被害弁償や示談についても,1審段階で行っておくべきであるという要請が強まるものと思われる。

 追記
 検察官控訴しました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100705-00000577-san-soci
千葉地検は5日「判決内容に是認できない点がある」として東京高裁に控訴した。
 同日午後に行われた臨時の記者会見で、地検の山田賀規次席検事は「裁判員らの評議の結果としての無罪判決は厳粛に受け止め、敬意を払う」とした上で、「事実認定についてさらに控訴審で判断を求めたい」と説明。「高裁では、有罪に持ち込めると判断して控訴した」と話した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100705-00000067-jij-soci
千葉地検は5日、控訴した。裁判員裁判で検察側が控訴したのは初めて。同地検の山田賀規次席検事は「事実認定に是認できない点があり、控訴して是正すべきと判断した」としている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100706-00000034-san-soci
国民がかかわった判断に対して、千葉地検控訴に踏み切った背景には、直接証拠が少ない今回の事件で、プロの裁判官に間接証拠の評価を委ねて有罪を得たいという考えと、無罪が確定すれば同種犯罪の摘発に影響し、立証のハードルが上がりかねないという判断があったとみられる。

 成田など空港で薬物が見つかる事件は、捜査関係者から「成田事件」と呼ばれ、ほとんどが否認の上、直接証拠に乏しく立証が困難とされてきた。今回の事件でも被告は「違法な薬物を運んだ認識がなかった」と主張。裁判員から「犯行を裏付ける客観的な証拠が欠けていた」などと指摘する声が相次いでいた。

 ある検察幹部は「これまでプロ同士、阿吽(あうん)の呼吸でやっていたが、裁判員裁判では証拠の意味づけや、密輸事件の実情を説明する必要がある。状況証拠をうまく組み立てなければ」と、裁判員相手の難しさを説明する。

 国民感覚が反映された裁判員制度のもとでは、1審判決を尊重すべきだという見解で検察や裁判所は一致している。だが今回、「控訴権を行使しないのは職務に対する背信」(別の検察幹部)と控訴した検察は、事実認定の誤りを主張していくことになる。

 ただ、最高裁司法研修所裁判員制度下の控訴審で判決を破棄できる例として、争点や証拠の整理が不適切▽結論に重大な影響を及ぼすことが明らかな証拠を調べていない−などを挙げているように、裁判員裁判の判断を覆すことは、そう簡単ではなさそうだ。

 裁判員裁判の1審判決を控訴審が破棄することは、よほど不合理な場合に限られるという流れのなか、東京高裁では、事実認定が真っ向から争われる。検察がどのような主張を展開するかは、裁判員制度のもとでの控訴審のあり方に影響を与えそうだ。