児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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松本剛「集団強姦未遂罪の訴因につき,同罪の成立を認めず強姦未遂罪の共同正犯の限度で犯罪が成立するとした事例(大津地裁平成21年7月16日判決判例タイムズ1317号282頁)」研修760号

研修760号
第1 はじめに
集団強姦罪は.平成16年12月の刑法改正時に新設された罪である。その後. しばらくの間,同罪については目新しい裁判例が見当たらない状態が続いたが、 平成21年になり.集団強姦罪の構成要件につき一定の解釈を示した上で集団強姦(未遂)罪が成立するとの検察官の主張を排斥した本判決が現れた。本判決は.公刊物に掲載されたものとしては初めて正面から集団強姦罪の構成要件の解釈を論じた裁判例であり,実務上参考になると思われたことから,この機会を借りて紹介することとした。
なお.本稿中に記載した内容のうち意見にわたる部分はもとより私見であることをあらかじめお断りしておく。

建造物侵入,強姦未遂,集団強姦未遂被告事件
津地方裁判所平成21年7月16日
判例タイムズ1317号282頁

(罪となるベき事実)
 被告人は,
第2(平成21年3月19日起訴・同年(わ)第160号の公訴事実)
Fと共謀の上,女性看護師を強姦しようと企て,平成17年2月27日午前3時30分ころ,滋賀県G市〈以下略〉のH病院敷地内の通路において,被告人がI(当時24歳)に対し,同人を地面に倒して同人の首を手で押さえつけ,「ほんまに殺すぞ。」などと言って脅迫し,同人の反抗を抑圧して,強いて同人を姦淫しようとしたが,通行人が通りかかったと考えて逃走したため,その目的を遂げなかった。
・・・・
 (判示第2につき,集団強姦未遂罪の成立を認めなかった理由の説明)
 本件において,被告人の共犯者であるFが実行行為を分担した事実はないが(当事者間に争いがない。),検察官は,集団強姦罪が成立するには,二人以上の者が直接姦淫行為を共同して実行する必要はなく,暴行・脅迫行為ないし姦淫行為に及んでいる者が一人であっても,現場において複数人が関与している限り,行為者がより凶悪な犯罪に及ぶことが可能となるのであるから,暴力的凶悪犯罪としての凶悪性は当然増加する。したがって,加功行為が共同正犯と認められる実質を有している限り,見張り行為であっても刑法178条の2にいう共同して犯す行為に当たると解し,判示第2の被告人の行為は,集団強姦未遂罪をもって問擬すべきであると主張する(なお,上記見解に立った場合,現場において共同したことを事実として摘示する必要がないかの疑問があるほか(平成19年版刑事判決書起案の手引97,106頁参照),本件では,いずれにせよ直接刑法178条の2の構成要件に該当することとなるから,起訴状において罰条として掲記された同法60条は不要と解される(長島敦・刑事法講座第7巻補巻1691頁,大審院昭和4年(れ)第275号同年5月2日判決・刑集8巻5号230頁ほか参照)。)。これに対し,弁護人は,刑法178条の2は典型的には輪姦行為を念頭に重罰化が図られたものであり,本件事案の内容からいっても,集団強姦事件としてとらえるべき事案とはいい難い面があるといえ,集団強姦として処罰することは相当でないと主張する(なお,Fは,共犯者として別に起訴され,自身の公判において,共謀を否認して争い,現在期日間整理手続が終了したところである。)。そこで,以下,補足して説明する。
 平成16年の刑法改正により新設された集団強姦罪は,いわゆる集団的形態の強姦については,その暴力的犯罪としての凶悪性が著しく強度であるものの法定刑の上では,一般の強姦と同様に取り扱われており,暴力的性犯罪に関する現在の国民の規範意識と合致しないとの指摘があったことから,集団的形態の強姦の実態等を踏まえつつ,一般の強姦罪の加重処罰類型を設けることとしたものである。このような立法の経緯や趣旨を踏まえ,集団的形態の強姦の事案の処罰の適正を図るとともに,罪刑法定主義に照らして処罰範囲を明確にする観点からは,集団強姦罪にいう「二人以上の者が現場において共同して……犯した」といい得るためには,少なくとも,一人が実行行為に着手し,かつ,一人以上の者が,現場において,強姦の実行共同正犯の実質を有する加功行為を行うことが必要であると解するのが相当である(佐藤弘規・ジュリスト1285号35頁,大谷實・刑法講義各論(新版第2版)116頁参照)。
 ところで,関係各証拠によれば,被告人は共犯者であるFに対して女性看護師の強姦を持ちかけ,Fがこれに応じる発言をしたこと,被告人とFは被告人の運転する自動車で深夜,病院敷地内に赴き,まず被告人が一人で犯行現場において帰寮する看護師を待ち伏せて被害者を襲ったこと,被告人はFに見張りの指示をし,Fはこれに従い,犯行現場に駐車した上記自動車付近に立って周囲の見張りをしたこと,被害者は被告人から暴行等を受けた際にFの存在を覚知したが,被害者とFとの間の距離は約20メートル程度は離れていたこと,Fは誰かが来た旨を叫んで被告人に合図し,被告人とともに上記自動車で逃走したこと,Fも被告人に引き続いて被害者を姦淫する意思があったことを自認しているが,結局,Fは遠巻きに見張りをしていたほかには,被害者を畏怖させるに足る害悪の告知等の行為をしていないことが,それぞれ認められる。
 そうすると,上記事実関係の下では,Fの加功行為は消極的で,間接的なものにとどまるというべきであって,少なくとも,Fの加功行為は,実行共同正犯の実質を有するものであるとは認められない。
 したがって,判示第2の被告人の行為は,集団強姦未遂罪をもって問擬することはできず,強姦未遂罪の共同正犯の限度で犯罪が成立するにとどまる(判示事実は訴因の範囲内の縮小認定であり,訴因変更を要しない。)。