児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

自首は有効だと思いますけど、素人がやると、訴訟でもめることがあるので、弁護人に相談して一発で決めて欲しいと思います。

 援助交際とか淫行とか。
 うまくやると効果は大きいんですが、被疑者国選弁護人が頻繁に接見している事件でも、捜査段階での「自首」の要領が悪いとか1審で「自首」の主張をしてないとかいうのがあります。
 最悪なのは「供述」により余罪が増えて自首にはならず、重くなる場合です。弁護人に相談してからやれよという感じです。

刑法第42条(自首等)
1 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。

東京高等裁判所平成19年7月20日
 第1 法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反の主張について
 1 論旨は,要するに,原審弁護人が,原判示第1,第4ないし第6の各犯行について自首の成立を主張し,自首の要件のうち,原審検察官との間で争点となっていた「犯罪事実が捜査機関に発覚する前に申告がなされた」との要件(以下「発覚前の要件」という。)を満たすことを論証したにもかかわらず,原判決は,原審で全く争点となっていなかった「申告は自発的なものであること」との要件(以下「自発性の要件」という。)を持ち出し,この要件を満たさないとの理由で自首の成立を否定したが,このような原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反(審理不尽)がある,というのである。
 2 検討すると,原審記録によれば,自首の争点に関して,次のような審理経過が明らかである。
 (1) 原審弁護人は,原審第4回公判に行われた弁論において,原判示第1ないし第6の各犯行について自首の成立を主張し,それに対し,原審検察官は,第2及び第3の各犯行について自首が成立することは争わないが,それ以外の各犯行については,「発覚前の要件」を満たさないことを理由に,自首は成立しないと考える旨釈明した。原審裁判所は,それ以上の措置を採ることなく,結審した。
 (2) 原審第5回公判において,原審検察官からの求めで弁論が再開され,原審検察官から新たに請求されて取り調べられた書証をも踏まえ,自首の成否について,原審検察官は「意見書」に基づき,原審弁護人は「弁論要旨(補充)」に基づき,それぞれ意見を述べたが,そこでは,もっぱら,「発覚前の要件」が争点とされていた。原審裁判所は,それ以上の措置を採ることなく,改めて結審した。
 (3) 原審第6回公判において言い渡された原判決は,争いのあった原判示第1,第4ないし第6の各犯行について自首の成立を否定したが,所論指摘のとおり,その理由はいずれも「自発性の要件」を欠くというものであり,かつ,「弁護人指摘の裁判例は,『発覚前の要件』に関するものであって,本件の参考になるものではない」と付記されている。
 3 以上の審理経過に照らせば,自首の成否をめぐって,当事者が「発覚前の要件」に当たるか否かのみを争点として互いに主張を展開していた事実が明らかであるから,原審裁判所としては,当事者が問題としていない「自発性の要件」が欠けることを理由に自首の成立を否定しようとするのであれば,その要件の存否の点を争点として顕在化させた上で十分な審理を遂げる必要があると解される。しかるに,このような措置を採ることなく,当事者が争点としていなかった「自発性の要件」を欠くとして自首の成立を否定した原審の措置は,被告人に対し不意打ちを与え,その防御権を不当に侵害するものであって,審理不尽の違法があるといわざるを得ない。
 4 また,当審における事実取調べの結果(当審検1,4ないし8号証)を併せて検討すれば,原判示第1,第4ないし第6の各犯行についても刑法42条1項の自首が成立すると認めるのが相当であるから(当審検察官もこれを争わない。),これらについて自首の成立を否定した原判決には,同条項に関する法令適用の誤りがあるというべきである。
 5 しかし,本件の処断刑は,7年以上(30年以下)の懲役刑であるところ,被告人に対してこれを下回るような量刑をするのが相当とは認められず,したがって,本件で被告人に対し自首を理由に刑の減軽をする必要は認められないから,上記法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反は,いずれも,判決に影響を及ぼさないというべきである。
 6 法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反の論旨は理由がない。(須田 賢・秋吉淳一郎・横山泰造)

東京高等裁判所判決平成19年6月19日
 記録によれば,被告人が,警察官に対し,無免許運転の事実を申告するに至った経緯は,次のとおりである。
1 被告人は,無免許で,普通貨物自動車を運転中,右折禁止場所を右折したため,警察官Oから停止を求められ,右折禁止違反である旨を告げられ,免許証の提示を求められた。
2 それに対し,被告人は,免許証不携帯である旨申告するとともに,氏名等を問われたのに対し,友人で,運転免許を有するYの名前等を答えたことから,Oは,携帯用無線機によって本署宛てに免許照会を依頼したところ,被告人の申告に該当する運転免許の存在が確認された。
3 Oは,その照会結果に基づいて,ほぼ本人と断定して間違いないだろうと考えたが,免許証不携帯の取扱いにあっては,無免許の者が家族や友人の名前を偽っている場合も少なくないことを経験上知っていたことから,被告人に,本人,すなわちYであることが分かる身分証明書の提示を求めたのに対し,被告人は,何も持っていない旨答えた。そこで,Oが,車両の所有者が本人名義なら間違いないだろうと考えて,被告人運転車両の名義人を尋ねると,被告人は,会社の車だと答え,さらに,家族への連絡を依頼したところ,被告人は,今,家には親がいないので分からない旨答えた。
4 さらに,被告人は,この後に用事があり時間がない旨申し立てたことから,Oは,やむを得ずに,被告人に対し,後ほど,免許証を持参して警察署に出頭するよう依頼したところ,被告人は,午後3時までには出頭する旨申し立てたので,Oは,交通事件原票に所要事項を記載し被告人に同原票中の供述書氏名欄に署名指印させた(被告人は「Y」と署名した。)上で,再度,必ず免許証を持参して警察署に出頭するように言い渡した(その時刻は午前11時31分ころである。)。
5 しかし,被告人は,約束の午後3時を過ぎても出頭してこなかったことから,Oは,被告人から聞いていた被告人の携帯電話に連絡を取り,再度,遅れてもいいから,必ず出頭するように指示した。
6 被告人は,午後4時30分ころ出頭し,Oから免許証の提示を求められるや,Oに対し,無免許であること及び友人の名前を騙っていたことを申告した。
 以上のように,Oは,上記3の段階から,免許証不携帯を言う者の中には免許を有する他人の名を騙る者,すなわち自らは無免許の者がいることを考えて,被告人に対して自らが「Y」であることを確実な証明手段により証明させようとし,被告人が用があるというので,いったんはこれを中断することにしたものの,その後になお続行する意思で被告人に免許証の持参を約束させ,被告人が来署しないと,被告人の携帯電話に電話して,必ず出頭するよう指示し,被告人が遅れて出頭するや,被告人に免許証を提示するよう求めているのであって,このような経緯に照らせば,被告人は,捜査機関が被告人に対して被告人が免許を有する「Y」本人であることの証明をあくまで求める姿勢を明確に示し続けたことから,自らの無免許と免許のある他人の名を騙っていたことを隠しきれなくなって,これを告白したに過ぎないと認められ,「自発的に自己の犯罪事実を申告した」とはいうことができないから,自首が成立しないことは明らかである。

東京高等裁判所判決平成17年12月6日
  論旨は,要するに,原判決は,自首の成立を認めなかった点において,法令適用の誤り又は事実の誤認があって,この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
  原判決は,その(量刑理由)の項で,刑法42条1項の自首の成立を否定している。
  そこで,検討すると,被告人は,原審公判廷において,覚せい剤を使用し,ぼけた状態になったので,このままでは家族にも迷惑をかけると思い,警視庁品川警察署青物横丁駅前交番に自首するつもりで入った旨供述し,当審においても,川崎市の簡易旅館で覚せい剤を注射し,妻のいる大崎に行こうと思って電車に乗ったが,覚せい剤で頭がパニック状態で,このままでは何をやらかすかも知れないので,警察に逮捕してもらおうと思い,青物横丁駅で途中下車し,本件覚せい剤と注射器を包んだティッシュをポケットから取り出し,これを手に持って,同駅前の上記交番に入り,交番の警察官に,注射器と覚せい剤を持っているから逮捕してくれ,30分前に射ったばかりだなどと告げて,警察官にこれらを渡した,その後,本件覚せい剤の予試験が行われ,現行犯逮捕された旨供述している。一方,同交番勤務の警察官ら作成の現行犯人逮捕手続書には,同交番勤務の警察官らは,平成17年5月23日午後9時46分ころ,京浜急行青物横丁駅方向から同交番方向に歩いてくる被告人が顔全体に汗をかき周囲の様子をうかがうようにしていたことから不審と認めて職務質問のため呼び止め,「どうしました。具合でも悪いのですか。」と尋ね,路上では人通りも多いことから交番内に任意同行を求めたところ,被告人は素直にこれに応じて交番内に入ったこと,警察官らが,同交番内で,被告人の様子を観察すると,被告人が右手に白色のティッシュ様の物を握っていたことから,警察官らが「これは何ですか。」「手の中の物を見せてください。」と言うと,被告人は「おう,覚せい剤持ってるよ。」と言いながら右手に握っていた丸めたティッシュをロッカーの上に投げ出して提示したこと,警察官らが,ティッシュの中身を開示するように求めると,被告人は,「30分前に射ったばっかりだ。覚せい剤だよ。」と言ってティッシュを開いたこと,中には,注射器とビニール袋入りの白色結晶様の物が入っており,被告人は,「覚せい剤だ。渋谷でフィリピン人から買った。さっき射った。」と言ったこと,この時刻は,同日午後9時48分であったこと,警察官らは,予試験の必要性を認めて,本署に応援を求め,同日午後10時05分同交番に到着した同署刑事組織犯罪対策課警察官が,被告人の同意を得て,覚せい剤試薬により予試験を実施したところ,白色結晶様の物から覚せい剤の陽性反応が出たことから,同日午後10時08分被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕したこと,被告人は,「うん。」と言って素直に逮捕に応じたことなどが記載されている。このように,被告人が上記交番に入り,本件各犯行を警察官に申告した経緯について,被告人の述べるところと上記現行犯人逮捕手続書に記載されたところとは,若干趣を異にしている。しかし,前者によるとすれば,被告人に刑法42条1項の自首の成立を肯定できるのはもちろんであるが,後者によるとしても,被告人に自首の成立が肯定できるといわなければならない。すなわち,後者によっても,被告人は,捜査機関が未だ本件各犯行を覚知していないうちにこれらを捜査機関に申告していることが明らかである。加えて,上記のように,被告人が予め覚せい剤等を手に持った状態で交番に入り,警察官の促しですぐに覚せい剤と注射器を警察官に提示し,格別の追及を受けたわけでもないのに,提示した物が覚せい剤であることや覚せい剤を30分前に注射したことなどを警察官に申告したこと,警察官が被告人の姿を交番前で認めてから覚せい剤等を提示し本件各犯行を申告し終わるまでわずか2分間しか経過していないこと,その後,被告人が覚せい剤の予試験にも異議なく応じ,逮捕にも素直に応じたこと,などに照らせば,被告人が自発的に本件各犯行を申告し自らの処分を捜査官憲に委ねたことも明らかである。したがって,後者によっても,刑法42条1項の自首の要件がすべて充足されているということができ,被告人に同条項の自首の成立を肯認できるのである。
 以上のとおり,被告人には刑法42条1項の自首が成立するから,これを認めなかった原判決には,事実誤認又は法令適用の誤りがあることは明らかである。しかし,刑法42条1項の自首は刑の裁量的減軽事由にすぎず,原判決の量刑は自首減軽を施さなくても導ける上,原判決は量刑の因子として自首の成立を認めてはいないものの,被告人が警察官に対して素直に覚せい剤を提出したことを被告人に有利な事情として斟酌していることはその(量刑理由)の記載から明らかであるから,上記の誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。