児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強制わいせつ罪は傾向犯か?(広島高裁岡山支部h22.12.15)

 判例は一応、傾向犯、学説は非傾向犯です。
 こういうことを主張するから、高裁が反対の判決を書くんですよね。
 これからわいせつ行為をして性的自由を害しても「わいせつの意図がなかった」という弁解が通ることになります

(4)わいせつの意図
1 不要説
 判例は強制わいせつ罪を傾向犯だとして、性的傾向を要件とする。

最判S45.1.29
しかし、職権により調査するに、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。

 しかし、性的自由の保護という強制わいせつ罪の保護法益に鑑みると、そのような明文のない主観的要素を加えるのは妥当ではない。
2 裸体撮影行為自体にわいせつの意図が認められる。
 仮に傾向犯であるとしても、東京地裁S62.9.16も判示するように、裸の写真を撮る場合にはわいせつな意図で行われるのが通常であるから、格別に「わいせつの意図」が記されていなくても、強制わいせつ罪の成立を認めるべきである。

【事件番号】東京地方裁判所判決/昭和62年(合わ)第111号
【判決日付】昭和62年9月16日
【参考文献】判例タイムズ670号254頁
      判例時報1294号143
本件犯行場所にはポラロイドカメラ及び三五ミリカメラ各一台が置いてあつたことなどが認められる。そして、以上の各事実と、被告人の当公判廷における供述並びに検察官及び司法警察員に対する各供述調書中の本件犯行に出た際の被告人の意図に関し述べている部分とを合わせ考えれば、たしかに、本件犯行の際、被告人には、右Aを全裸にしその姿態を写真撮影することによつて、同女を被告人が営む女性下着販売業の従業員として働かせようという目的があつたことは一応肯認することができる。」「しかし一方、」前掲「証拠の標目」挙示の各証拠を総合検討すれば、「被告人が、右のように右Aを働かせるという目的とともに、同女に対する強制わいせつの意図をも有して本件犯行に及んだことも十分肯認できるというべきである。」
・・・・
してみると右Aを全裸にしその写真を撮る行為は、本件においては、同女を男性の性的興味の対象として扱い、同女に性的羞恥心を与えるという明らかに性的に意味のある行為、すなわちわいせつ行為であり、かつ、被告人は、そのようなわいせつ行為であることを認識しながら、換言すれば、自らを男性として性的に刺激、興奮させる性的意味を有した行為であることを認識しながら、あえてそのような行為をしようと企て、判示暴行に及んだものであることを優に認めることができる。

最高裁昭和45年 1月29日
事件名 強制わいせつ被告事件
 裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、いわゆる強制わいせつの罪に関する刑法一七六条の解釈につき、多数意見と根本的に立場を異にする。私は、本件第一審判決およびこれを是認した原判決の採用した同条の解釈が正当であって、本件上告趣意に対する最高検察庁検察官の弁論における主張も充分理由があると考える。それ故、本件上告は、これを棄却すべきものである。私の右反対意見の理由は、次のとおりである。
 一 刑法一七六条が、一七七条、一七八条とならんで、同法一七四条、一七五条に比し、より重い刑を定めたこと、および刑法一七六条の罪が、一八〇条一項により、一七七条、一七八条、一七九条の罪とともに親告罪とされ訴追にあたって被害者の意思が尊重されるべきことを定めている所以は、性的しゅう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとって、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴァシーと密接な関係をもっているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならないものと考えられる。このことは、改正刑法準備草案が、現行刑法一七四条および一七五条の罪に相当する罪を風俗を害する罪の章下に入れ、同法一七六条、一七七条および一七八条の罪に相当する罪を姦淫の罪の章下に入れて、両者をはっきりと区別していることからも、了解しうるところである。そして、このような個人のプライヴァシーに属する性的自由を保護し尊重することは、まさに憲法一三条の法意に適合する所以であり、現時の世相下においては、殊にこれら刑法法条の重要性が認識されなければならないのであって、これら法条の解釈にあたっては、個人をその性的自由の侵害から守り、その性的自由の保護が充分全うされるよう、配慮されなければならない。
 従って、これらの法条の罪については、行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮または刺激させたか否か、行為者自身または第三者の性的しゅう恥心を害したか否かは、何ら結論に影響を及ぼすものではないと解すべきである。このことは、当裁判所大法廷判決(昭和二八年(あ)第一七一三号、同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁)が、刑法一七五条のわいせつ文書につき、「猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によって影響されるべきものではない。」としているのと相通ずるところがあるのである。
 ところで、刑法一七六条は、「十三歳以上ノ男女ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為シタル者ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ処ス十三歳ニ満タサル男女ニ対シ猥褻ノ行為ヲ為シタル者亦同シ」と規定しているのであるから、同条の罪が成立するためには、行為者(犯人)がわいせつの行為にあたる事実を認識し、一三歳以上の男女に対しては暴行または脅迫をもって、一三歳未満の男女に対してはその有無にかかわらず、これを実行すれば必要にして充分であると解すべきである。そして、右にいうわいせつの行為とは、普通人の性的しゅう恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり、ある行為がこの要件を充たすものであるか否かは、その行為を、客観的に、社会通念に従って、換言すれば、その行為自体を普通人の立場に立って観察して決すべきものである。けだし、このような行為が、性的自由の意義を正しく理解しえないと考えられる一三歳未満の男女に対して行なわれたり、一三歳以上の男女に対しては暴行脅迫の手段をもって行なわれたりすれば、それだけで個人の性的自由が侵害されることになるからである。
 二 私は、刑法一七六条の罪は、これを行為者(犯人)の性欲を興奮、刺戟、満足させる目的に出たことを必要とするいわゆる目的犯ではないと考える。また、本条の罪をいわゆる傾向犯と解する余地も、まことに乏しいといわざるをえないと思う。たとえ、動機ないし目的が報復、侮辱、虐待であったとしても、その一事は何ら本条の罪の成立を妨げるものではなく、これと同趣旨を判示した第一審判決は正当であり、これを是認した原判決もまた相当であって、何ら所論のような法令違反はない(原判決が、「しかし報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行った被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかったとはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行った被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかったとは俄かに断定し難いものがあるのみならず」と判示したのは、原審が、本件多数意見のような考え方の存在することを顧慮してした念のためのものではないかと考えられるが、私はこれを全く蛇足無用の判示であると考える。)。
 多数意見は、本条の罪を目的犯のごとく解するようであり、多数意見によれば、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつの罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激、興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、またはこれを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきであるというのであるが、私は、上記意見および次の諸点に鑑み、右多数意見には到底賛成できない。
 (一) 行為者が一定の目的・意図をもって行為に出ることを必要とする犯罪については、刑法は、その各本条に、「……ノ目的ヲ以テ」(たとえば一五五条一項)とか、「……ヲ為ス為」(たとえば一〇七条)などの要件を付しているのである。ところが、刑法一七六条には右のような文言はなく、明文上において、本条の罪を目的犯であると解すべき根拠がない。
 (二) 尤も、一定の目的・意図、すなわち主観的意図が構成要件として明示されていない犯罪でも、構成要件の解釈上、それを必要とするものがないわけではない。たとえば、窃盗罪などの財産犯のごとく、これらの罪については、いわゆる不法領得の意思を必要とするというのが通説であり、また判例である。これは、たとえば窃盗罪についていうと、窃取という構成要件が、単に他人の所持する物を自己の所持に移すという客観的事実だけでなく、それに加えて、その物を自己の物にするという意思を必要とする行為であることによって、はじめてこれを犯罪とする意味が生ずることによるのである。ところが、本条の罪のわいせつの行為については、解釈上、行為者(犯人)自身の性的意図を必要とする理由を見出だしえないことは、すでに前記一において述べたとおりである。すなわち本条は、個人(被害者)の性的自由を侵害する罪を定めた規定であり、その保護法益は個人のプライヴァシーに属する性的自由に存するのであって、相手方(被害者)の性的自由を侵害したと認められる客観的事実があれば、当然に本条の罪は成立すると解すべく、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないというだけの理由で犯罪の成立を否定しなければならない解釈上の根拠は、本条の規定の趣旨からみて、到底見出だしえないのである。
 (三) 多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、本条の罪としては処罰できないことになるのであるが、かくては、刑法が、性的自由の保護を、財産行為の自由の保護(強盗罪に関する二三六条、恐喝罪に関する二四九条参照)および公務員の職務行為の自由の保護(職務強要罪に関する九五条二項参照)などとともに、その他一般の行為の自由の保護(強要罪に関する二二三条参照)と区別して、特に重く保護しようとしている趣旨が没却されることになる。すなわち、多数意見のように本件行為を強要罪に関する刑法二二三条によって処断するとすれば、その刑は三年以下の懲役にすぎないこととなり、刑法一七六条該当の行為が六月以上七年以下の懲役にあたるとされていることと対比し、極めて均衡を失することとなる。本条は、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図が必要とされるという点からではなく、相手方(被害者)の性的自由が侵害されるという点から、強要罪に関する刑法二二三条の特別規定となると理解してこそ、はじめてその法意が生かされることになると考えるのである。
 (四) 多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、非親告罪である強要罪その他の罪として訴追され、審理、判決されることになって、刑法一八〇条一項が、性的自由の侵害を内容とする罪を特に親告罪として、訴追にあたって被害者の意思を尊重すべきものとした趣旨が没却される点も、まことに不合理といわなければならない。
 三 これを本件についてみるに、第一審判決およびこれを是認した原判決が適法に確定した事実関係の下において、また、記録に現われた諸証拠を照合すれば、本件で問題とされている行為は、まさに刑法一七六条前段の要件を充たすものというべきである。
 以上の理由により、私は上告趣意中、判例違反をいう点については、引用の判例は、本件に適切でなく、正当な上告理由にあたらないとする点において多数意見に同調するが、その余の点については、多数意見には反対であり、本件上告はこれを棄却すべきものと考える。
裁判官 長部謹吾は、裁判官 入江俊郎の右反対意見に同調する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎) 

町野朔 犯罪各論の現在p277
平野龍一「35 強制わいせつ罪とわいせつの意思」犯罪論の諸問題(下)p308
木村光江著「刑法第3版」p275
前田雅英 刑法各論講義(第三版)p95

山口厚 刑法各論(補訂版)p105
判例においては,強制わいせつ罪の成立を肯定するためには, 「犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図」が必要であるとする考え方を採るものが存在する(最判昭和45・1・29刑集24巻l号l頁)。そこから, もっぱら被害者の女性に報復し,文はこれを侮辱し虐待する目的で,同女を裸にして写真撮影しでも,強制わいせつ罪は成立しないとされている。しかしながら,学説においては,このような「性的意図Jは,保護法益である性的自白の侵害の有無とは無関係であるとして, このような要件は不要と解すべきであるとされており(団藤491頁,平野180頁,大谷111頁,中森64頁,西田92頁,前田95頁,林94頁なと多数。これと実際上同趣旨の判決として,東京地判昭和62・9・16判時1294号143頁).正当である。

 広島高裁岡山支部H22.12.15は反対ということで。