児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

上田哲「刑事関係 平成18.2.20,3小決 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為と同法7条3項の児童ポルノ製造罪の成否 」(最高裁判所判例解説--平成18年2,3,10月分 平成19年2,3,10月分) (法曹時報. 61(8) [2009.8])

 上田判事曰く
   事例判決ではない。
  「姿態をとらせて」は実行行為ではないという積極説の判例
だと。

 この見解だと、送らせる製造事件の場合、撮影行為のみが実行行為になるので、児童正犯説に近づきますよ。

上田哲「刑事関係 平成18.2.20,3小決 (最高裁判所判例解説--平成18年2,3,10月分 平成19年2,3,10月分) (法曹時報. 61(8) [2009.8])
本決定の趣旨旨がどこまでの射程を有することとなるかは,今後の判例の動向を見守るべき部分も大きいと思われるが,本決定の評釈には,本件事案においては犯罪の成立を認めるべきであるが,その理由を前記4(2)ィの身分犯的な理解によったのでは,いったん法所定の姿態を児童にとらせて第I次製造行為に及んだ者であっても,その後の第2次以降の製造行為について常に本罪の成立を肯定することとなり犯罪成立の範囲が広がりすぎるとして、先行行為の存在に加えて,第1次製造行為と第2次以降の問題とされる製造行為との間の日時場所の近接性等を本葬が成立するための要件とする見解(以下「限定的積極説」という。)が主張されている。そこで,このような見解の当否ゼ含め本決定の射程について,若干付言しておきたい。
まず,第1に指摘すべきことは,本決定は.その判文に照らせば,いわゆる事例判例ではなく法理を明らかにした判例であると解されることである。
そして本決定の判旨は.前記のとおり「法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ.これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は法7条3項の児童ポルノ製造罪に当たる」というものであり,先行する「記録」行為とその後の「製造」行為との問の即時・場所の近接性等については何ら言及されていないから,限定的積極説が主張するような限定は要件と考えていないものと理解するのが素直である。
解釈論としての限定的制極説について私見を述ベるならば,本件のような事案で犯罪成立を否定するのは事案の特徴を看過するもので相当でないが,立法当局の見解等にも照らせば,身分犯的な理解によって犯罪成立の範囲を広げすぎるのは疑問であるという, 同説の問題意識は理解できるものの,法の文理解釈としては恨拠が十分でないといわざるを得ないように思われる。

もっとも,上記引用の判旨にあるとおり,本決定は「電磁的記録に係る記録媒体」に係る製造に関して判示したものであるから,その他の児童ポルノについて「児童に法所定の姿態をとらせて第1次製造行為に及んだものがその後に第2次以降の製造行為に及んだ場合に本罪が成立するかどうか」につ
いては,本決定の判旨が直接及ぶものではない。その結論は,本件で犯罪成立を認めた理由のうちで.前記4(2)ゥのような電磁的記録に係る記録媒体に特有の理由がどこまで決定的なものであったと解するかに関連する,今後の判例の集積に委ねられた問題であるといえよう。
(3) 本決定の意義
本決定は,法7条3項の製造罪の創設に伴い生じた解釈上の問題で,立法関係者による解説等に照らすと反対説にも相当の根拠があったと思われる重要論点について,最高裁が積極説に立つことを明らかにしたものである。本罪において第2次製造以降の製造が起訴されることは今後もしばしばあると思われるから,本決定の先例的価値は大きいと思われる。

 奥村弁護士は、旅に出て、判例集積してきます。
 しかし、大久保仁視(刑事局付検事)「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が、当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させた場合に、同法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するか」警察公論第61巻第12号について、「限定的制極説」と名付けた上で、「法の文理解釈としては恨拠が十分でないといわざるを得ない」と切り捨てています。検事さんまでお気の毒です。
 そもそも立法者がアレなので、解釈が決まらないということなんだから、他説を批判しない方がいいですよ。

大久保仁視「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が、当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させた場合に、同法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するか」警察公論第61巻第12号 '06.12
3)ところで,本決定がこのように解する理由については,判決の中で必ずしも明確にされていないが,本罪こ当たる第2次以降の製造行為なのか,それとも処罰対象から除外される「複製」なのかの判断は,結局のところ,当該行為が本罪の実行行為に該当するかどうか,すなわち,当該行為が「児童に姿態をとらせて描写することで児童ポルノを製造する」行為と言えるかどうかによることとなろう。
そして,その判断に際しては,児童ポルノの単純所持が処罰されないこととの均衡や,単純な「複製」を処罰から除外しようとする趣旨に鑑み,例えば,①第1次製造行為の性質(第2次以降の製造行為を予定するものかどうか等),②第2次以降の製造行為の態様,③第2次以降の製造物の性格④第1次製造行為と第2次以降の製造行為の関連性(行為者の主観,時間・場所の間隔等)等の観点から多角的・総合的に判断することとなろうが,いずれにしても,本件は,第1次製造行為が比校的容量が少なく一時的な記録媒体として使用されることの多いメモリースティックへの描写であって,多くの場合はハードディスクへの画像データコピー等の第2次製造行為が予定されていること,ハードディスクへのコピーは劣化を伴わないこと,ハードディスクに保存された画像データは更なるコピーが容易であり,なお流通の危険が高いこと,被告人は第1次製造行為の当初から第2次製造行為を行うつもりであったこと,第1次製造行為と第2次製造行為とは同じ日に行われたこと等の事情からすれば,当該ハードディスクへの画像データのコピーが本罪の実行行為に該当することは明らかと言えよう。
今後も「児童に姿態をとらせた者」による第2次製造行為が問題となることが数多く起こり得るため,本決定の先例的仙値は大きいと思われる。
ただ,個々の事例において当該第2次以降の製造行為が本罪の実行行為に当たるかどうかについては,多角的に検討を行った上で慎重に判断する必要があると思われる。

星景子「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号に該当する姿態を児童自らに撮影させ、その画像を同児童の携帯メールに添付して・・・」研修第720号も大久保検事を引用していて同旨です。

研修第720号
(5) 本事例の場合の検討
本事例では,被告人は,Vlの画像データをプロバイダー会社のサーバーに記憶蔵置させて製造し,これを更に被告人方のパソコンのハードディスクにダウンロードして複製.製造しているが.最初の製造行為は平成18年10月に,その後のパソコンのハードディスクへの製造行為は平成19年5月に至って行っている。
このように2つの製造行為の時期が長期間離れている場合には,犯意を継続して行ったという認定は難しくなることは否めないが、
そのような場合でも,例えば,プロバイダー会社のサーバーに記憶させたにとどめておくとプロバイダー会社の判断で画像が削除されてしまったり犯行が発覚するリスクもあるため,被告人が当初からいずれは自宅のパソコンのハードディスクにダウンロードするつもりでいたとか,Vlの画像をパソコンのハードディスクにダウンロードするまでに時間がかかったことにつき合理的な理由があるなどの事情が立証できれば.長時間経過後のダウンロード行為についても児童ポルノ製造罪として処罰しうる場合もあると考えられる。
したがって,同種事案の捜査処理こあたっては,こうした点の解明に留意すべきである