児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

罪数で原判決を破ろう。

 刑法学会で会った高裁判事からは「児童ポルノ関係の罪数論はわからないから勘弁してくれ」と言われました。
 たくさん罪数があると、数個つないでも処断刑期に影響はありませんが、2個だけだと、確実に処断刑期に影響有りますよね。

注釈刑事訴訟法〈新版〉第六巻〔第351条〜第418条〕(立花書房・平10)p182
次に、罪数の評価を誤った場合、例えば、科刑上一罪を併合罪と評価しあるいはその逆に併合罪を科刑上一罪と評価したときはどうか。右の違法は構成要件的評価に影響を及ぼす場合とみるべきでなく、主刑を導き出す法的操作の誤りとして主文に影響を及ぼすかとうかという観点から判決への影響を検討すべきことは前述したo そうすると、この場合は(2)の1つの場合ということになる。判例も、このような考えに立ち、右の違法の結果処断刑の範囲に差を来たすかどうか、これが否定されるときは判決に影響を及ぼさないが、肯定されるときは判決に影響を及ぼすとしている。

東京高等裁判所判決平成5年8月20日 
次に、原判決の法令の適用について職権で判断するに、原判決は、被告人が本件覚せい剤、コカイン及び大麻樹脂を所持していたことをそれぞれ別個の所持と認めて併合罪として処断している。 しかし、関係証拠によると、既に認定したとおり、被告人は、原判示当日の早朝、ビニール袋入り本件大麻樹脂二袋及び本件覚せい剤一袋の在中する赤色小物入れを衣のポケットに入れ、金属製ケース入り本件大麻樹脂一個の入ったビニール手提げ袋を手に所持して、友人であるAの住居である原判示場所を訪れて、ソファーに横になり、右手提げ袋をソファー上の手の届く所に置いたままテレビを見るなどしていたことが認められ、同所でその日の午後逮捕されるまでの間のプラスチックケースに入れたビニール袋入り本件コカイン四袋を右手提げ袋に新たにしまいこんだ事実があったにしても、右のような事実的支配の関係は全体を一個のものとみて、観念的競合として一個の行為で三個の罪名に触れるものとして処断するのが相当であるというべきである。したがって、原判決は法令の適用を誤ったものであって、右の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 よって、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書を適用して被告事件について更に判決する。

東京高等裁判所判決平成2年12月12日
論旨は原判決の量刑不当をいうものであるが、職権をもって検討すると、原判決には法令の解釈、適用の誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすことか明らかであるから、既にこの点において原判決は破棄を免れないものである。すなわち、原判決は、「罪となるべき事実」として、被告人が、A及びBと共謀の上、横浜市金沢区《番地略》所在の甲野荘二階一号室に居住する中国人労働者から金品を強取することを企て、平成元年六月一一日午前二時三○分ころ、同室内において、就寝中のC(当時一九歳)、D(当時二六歳)、E(当時二二歳)及びF(当時二五歳)の四名に対し、順次その腹を足蹴りするなどして起こしつつ、所携の短刀及び鉄棒を示しながら、かわるがわる「金を出せ」、「持っている金を全部出せ。」などと脅迫し、更に、被告人がCに、また、BがFにそれぞれ短刀を押しつけ、あるいはB及びAがFを鉄棒で小突くなどの暴行を加え、いずれもその犯行を抑圧した上、Cから現金三一万八○○○円及びテレホンカード二枚(時価合計二〇〇〇円相当)を、Dから現金二万円びパスポート等三点を、Eから現金一万四〇〇〇円をそれぞれ強取し、その際、右暴行によりC及びFに対し、それぞれ加療約七日間を要する右上腕部刺創の傷害を負わせた旨の事実を認定し、右事実に対する「法令の適用」として、「被告人の判示所為のうち、D、E、C及びFから金員を強収するため右各人に暴行、脅迫を加え、右C及びFに傷害を負わせた各強盗致傷の点はそれぞれ刑法六〇条、二四〇条前段に該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから同法五四条一項前段、一○条により一罪として犯情の重いCに対する強盗致傷罪の刑で処断することとし」と判示している(なお、原判決は、「被告人の判示所為のうち」、「D、E、C及びFから金員を強取するため右各人に暴行、脅迫を加え、右C及びFに傷害を負わせた各強盗致傷の点」を除く、その余の所為につき、何らかの犯罪が成立するか否かという点については、明示的には何ら触れるところがない。)。しかし、本件の事実関係、特に、被告人は、共犯者であるA及びBことBと共謀の上、前記甲野荘二階一号室に起居している中国人労働者である原判示被害者らから(なお、原裁判所において取り調べた関係各証拠によれば、同室は、人材派遣を業とする乙山産業株式会社が同会社に所属する中国人労働者の寮として使用しているものであり、本件犯行当時は、同会社に所属する中国人労働者であるCが同室内の西側の部屋、すなわち玄関から入って右側の部屋に、同じくD、E及びFが同室内の東側の部屋、すなわち、玄関から入って左側の部屋に起居していたことが認められる。)各人の所持する金品を強取しようとして、同人らに対し、個々に暴行、脅迫を加えて反抗を抑圧した上、C、D及びEから各人の所持する前記各金品をそれぞれ強取し、その際、右暴行によりC及びFに対し、それぞれ原判示の傷害を負わせたという本件犯行の態様に徴すると、被告人の右所為は、負傷した被害者C及び同Fの各人ごとに強盗致傷罪が成立するほか、金品を奪取された被害者D及び同Eの各人ごとに強盗罪が成立し、以上は刑法四五条前段の併合罪として処断すべきものと解するのが相当である(なお、本件の起訴状には、「罪名・罰条」として、「強盗致傷 刑法第二四〇条前段、第六〇条」と記載されているだけであるが、「公訴事実」の欄においては、D及びE対する各強盗の事実が訴因として十分に明示されていて、被告人の防御に実質的な不利益が生ずるものと解すべき特段の事情も存しないから、被告人の本件所為に右の「刑法二四〇条前段、六○条」のほか、起訴状に記載されていない「刑法二三六条一項」を適用することも許されるものと解される。)。そうすると、これと異なり、被告人の所為については一個の強盗致傷罪だけが成立し、両者がいわゆる一所為数法の関係にあるものとして処断すべきものとした原判決は、法令の解釈、適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において原判決は破棄を免れない

東京高等裁判所判決平成元年5月10日
法令適用の誤りについて被告会社に関する量刑不当の主張について判断するに先立ち、職権によって原判決の法令の適用の当否を検討するのに、原判決は、被告人両名に関する原判示第二の事実に適用した罰条として、単に建築基準法九九条一項二号、六条一項四号、被告会社につき一〇一条等を挙げている。しかし、同法九九条一項の罰条は、昭和六二年法律第六六号「建築基準法の一部を改正する法律」によって刑の変更がなされ、改正前の罰金額が「一〇万円」であったものが、右改正によって「二〇万円」に引き上げられ、同年一一月一六日から施行されると共に、同法附則四条によって、改正前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によることとされたことが明らかである。従って、改正法施行後に判決をした原裁判所が同法を適用するに当たっては、罰則の適用に関する右経過規定によって、本件については改正前の同法同条同項を適用する旨を明示しなければならなかったのに、原判決は、その点の明示をしておらず、このままでは、法令適用の原則に従い、刑が引き上げられた裁判時法を適用したものと判断せざるを得ないから、その点で原判決には法令の適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであると考えられる。 更に、原判決は、被告人両名に関する原判示第一の廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の事実について、原判決別紙記載の番号一、二の各事実」とに同法二五条一号、一四条五項違反の罪か各別に成立するものとし、それぞれの罪について罰金刑を選択した上、併合罪として刑法四 条二項により刑の加重をしている。しかし 同法二五条一号、一四条五項違反の罪は、所定の許可を受けないで事業の範囲の変更をすることによって成立する罪であるから、例えば許可された事業の範囲に保管行為が入っていない場合に、二個の排出事業所から日時を異にして収集した廃棄物を、ある時点以降同じ場所で、同時・並行的に保管していることが事業変更に当たるという本件のようなときには、収集先や保管開始時期等は各別であっても、事業の範囲の変更はその双方につき全体として一つと考えられるから、一個の同法条違反罪が成立すると考えるのが相当である。従って、これを併合罪であるとして刑の加重をした原判決には、罪数に関し法令の適用を誤った違法かあると考えられる。そして、同罪の法定刑(一年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金)と、被告人両名について成立に争いのない建築基準゛違反の罪の法定刑(一〇万円以下の罰金)を比較対照すると、廃棄物の処理及 清掃に関する法律二五条一号、一四条五項違反の罪の法定刑の方が重いから、重い方の罪の罪数判断を誤ることは、処断刑に影響し、一般に判決に影響を及ぼすことがないとはいえないと考えられる。もっとも、罪数判断を誤った場合であっても、処断刑である刑期の範囲や合算罰金額の範囲にそれほどの変更かなく、しかも宣告刑がその処断刑期や罰金合算額の範囲内の甚だ低い方にとどまっている場合には、その法令適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない場合があると考えられるが、本件の場合には、判決に影響を及ぼすべきものといわなければならない。以上に述べたところによれば、原判決は、被告会社及び被告人乙の双方について、破棄を免れない。 次に、原判決は、被告人乙に関し、原判示第一の廃棄物の処理及 清掃に関する法律違反の事実について同法二五条一号、一四条五項、刑法六〇条を、また、原判示第二の建築基準法違反の事実について同法九九条一項二号、六条一項四号をそれそれ適用し、その上でその余の法下適用をしていることか明らかである。ところで、廃棄物の処理及び清掃に関する法律において、事業の範囲の変更につき知事の許可を受けるべきであった者は、産業廃棄物処理業の許可を受けていてその事業範囲の変更をしようとしていた被告会社であり、従って、同法一四条五項に違反したのは直接には同会社であるから、同条違反についてその行為者である同会社の代表者被告人乙を処罰するに当たっては、前記罰条の外、同法二九条を適用することが必要であると考えられる(最高裁判所昭和五五年一一月七日第一小法廷決定。刑集三四巻六号三八一頁参照)。同様に、建築基準法違反についてその行為者である同会社の代表者被告人乙を処罰するに当たっては、同法九九条一項二号、六条一項四号のほか、一○一条を適用することが必要であると考えられる。ところが、原判決は右各罰条を適用していないので、その点において法令の適用を誤ったものといわざるを得ず、その誤りは判決に影響することが明らかであるから、原判決は、その点で同被告人につき、破棄を免れない