児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「観念的競合の別罪を加えても量刑には影響ない(朝日新聞)」?

 処断刑期は変わりませんが、量刑は上がります。罪が増えるんだから。

中容疑者を起訴 弁護人「関与否定」 舞鶴・高1殺害
2009.04.29 朝日新聞
 地検はこうした現場や遺体の状況から、一連の犯行が殺人罪に加え、強制わいせつ致死罪にも問えると判断。中容疑者が約20年前に起こした女性暴行事件と今回の犯行の手口が酷似していると結論づけた鑑定書などを用い、殺害事件との共通点を明らかにして有罪を導くとみられる。一つの行為が複数の罪に問われた場合は、そのうちの重い刑で罰せられるため、強制わいせつ致死罪での起訴は量刑には影響がない。逮捕容疑の一つだった死体遺棄容疑については、量刑への影響が小さいとみて不起訴とした。
 殺害事件で、殺人と強制わいせつ致死の両罪に問われた例は、04年11月に奈良で起きた小1女児誘拐殺害事件や05年11月に広島で起きた小1女児殺害事件などがある。

第54条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。

広島地方裁判所H18.7.4
 (法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は包括して出入国管理及び難民認定法70条1項1号,2項,3条1項1号に,判示第2の所為のうち強制わいせつ致死の点は包括して刑法181条1項(176条)に,殺人の点は同法199条に,判示第3の所為は同法190条に各該当するところ,判示第2は1個の行為で2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により,1罪として重い殺人罪の刑で処断し,判示第1の罪につき所定刑中懲役刑を,判示第2の罪につき所定刑中無期懲役刑を各選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により,他の刑を科さず,被告人を無期懲役に処し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人に負担させないこととする。
 なお,弁護人は,判示第2の事実につき,1人の死を殺人罪と強制わいせつ致死罪とで二重評価するのは相当でなく,殺人罪と強制わいせつ罪の観念的競合として処理すべき旨主張する(弁論要旨91,92ページ)が,本件では,被告人は,当時7歳に過ぎない被害児童に対して,手指を陰部等に挿入して傷を負わせる強制わいせつ行為をする過程のなかで,強制わいせつ行為に引き続き,あるいは,これと並行して,同児の反抗を抑圧して強制わいせつ目的を遂げるため,ないしは,これに加えて犯行の発覚を防ぐために,同児に対する殺意をもって殺害行為に及んだ上,更に肛門部に手指を挿入するなどしているのであり,このような事実関係のもとでは,包括して強制わいせつ致死罪が成立するとともに殺人罪が成立し,両罪は観念的競合の関係に立つと解するのが相当である(最高裁判所昭和31年10月25日第1小法廷判決・刑集10巻10号1455ページ,最高裁判所昭和36年8月17日第1小法廷判決・刑集15巻7号1244ページ)

最高裁判所第1小法廷判決昭和31年10月25日
原審の是認した第一審判決が、同判決判示の罪となるべき事実を認定して(第一審判決の右認定、ことに殺意の点は、同判決挙示の証拠に照らし、当審においてもこれを是認することができる。)、強姦致死の点につき刑法一八一条、一七七条を、殺人の点につき同法一九九条を適用し、両者は同法五四条一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるとして同法一〇条に基き、重い殺人罪の刑によつて処断
すべきであるとした法律判断は正当であつて、この点に関する原審の判示は相当である。



最高裁判所昭和36年8月17日
原判決の支持した第一審判状は、「……俄に劣情を催し、右ナイフで同女を脅してこれを姦淫しようと考え、被告人の様子に不安を抱き立ち上ろうとした同女の右手首を左手で掴み右手で右ナイフの刃を起して突きつけ、ちよつと来いと申し向け同女が愕いて何をするんですかと言いながら逃げようとするとなおも離さす、同屋上の時計台下附近まで連行し、同女が抵抗しながら、大声で何をするんですか、ひと思いに殺しなさい等とわめいたので、その騒ぎを聞きつけ、人が来ることをおそれ、また同女に自分の顔を憶えられたままにしておいては犯行が発覚されるのて同女を殺害した上情慾を遂げようと決意し、いきなり左手を同女の頸部に巻いて絞めつけた上同女をその場に引倒し、仰向けに倒れた同女の横あいから両手指でその頸部を緊扼し、更に仮死状態になつた同女を屋上西側ステイーム管防護壁内部に運び入れた上完全に死に至らしめるため、同女の上に馬乗りとなり再び両手指にてその頸部を扼し更に所携の日本手拭をその頸部に巻きつけて絞扼して即時窒息死に至らしめてこれを殺害した上同女を強いて姦淫し」と認定しており、これによれば右判決は姦淫の目的の為め、その手段として判示のごとき暴行脅迫を用い結局被害者を窒息死に至らしめ、姦淫の目的を遂げたという趣旨を認定しているのであつて、本件の場合は、姦淫行為が殺害の直後てあつたとしてもこれを包括して強姦致死罪と解すべきである