児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

栃木署元警部補わいせつ:元警部補に有罪判決 捜査機関に厳しく /栃木(宇都宮地裁H21.3.19)

 撮影行為については、致傷罪があることから、陵虐とは被害者の身体に接触する物理的手段に限るという主張もあり得ると思います。
 しかし、東京高裁がいうように「本罪にいう「陵辱若しくは加虐の行為」の意味は、公務の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという本罪の趣旨に照らして解釈されるべきである」とすると、広く解されると思います。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090320-00000134-mailo-l09
 藤田勝春弁護士は「姦淫(かんいん)行為を認めなかった点で、緻密(ちみつ)な証拠調べに敬意を払うが、写真が陵虐行為に当たるとした認定については、被告人と相談して控訴するか決める」と話した。
 判決を受け、宇都宮地検の高崎秀雄次席検事は「判決の論理に合理性が認められるか、十分検討して適正に対処したい」とコメント。一方、県警の山手康男警務部長は「改めておわび申し上げ、再発防止を徹底していく」との談話を発表した。

刑法
第195条(特別公務員暴行陵虐)
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。
2 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。
第196条(特別公務員職権濫用等致死傷)
前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

判例コンメンタール刑法
「暴行」について、東京高判昭30・7・20は、本条に「いわゆる暴行とは、人の身体に対する直接又は間接の有形力の行使を意味する」とするが、暴行罪における暴行概念と同一で間接暴行は含まないとする見解も有力である。「陵辱」とは、精神的に苦痛を与える行為を、「加虐」とは暴行以外の方法で肉体的に苦痛与える行為を言うと解される。
・・・
他方、ここでいう苦痛は現実のものであることを要するか、あるいは被者の承諾がある場合に成立するかという問題がある。これに閲し、前掲大15・2・25は、本罪を職務違反の行為を処罰する趣旨とした上で「行為が職務違反となるや否やは義も被害者の意思如何に関せ」ずと判示し・・・

東京高裁平成15年 1月29日
特別公務員暴行陵虐被告事件
高検速報 3191号
判時 1835号157頁
橋本雄太郎・判評 560号53頁(判時1900号231頁)
小川新二・研修 665号13頁
北岡克哉・警察公論 58巻5号65頁
松宮孝明・法セ 595号121頁
したがって、本罪にいう「陵辱若しくは加虐の行為」の意味は、公務の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという本罪の趣旨に照らして解釈されるべきである。
 このような前提で検討すると、本罪の主体である「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」(以下「看守者等」という。)は、被拘禁者を実力的に支配する関係に立つものであって、その職務の性質上、被拘禁者に対して職務違反行為がなされるおそれがあることから、本罪は、このような看守者等の公務執行の適正を保持するため、看守者等が、一般的、類型的にみて、前記のような関係にある被拘禁者に対し、精神的又は肉体的苦痛を与えると考えられる行為(看守者等が被拘禁者を姦淫する行為[性交]がこれに含まれることは明らかである。)に及んだ場合を処罰する趣旨であって、現実にその相手方が承諾したか否か、精神的又は肉体的苦痛を被ったか否かを問わないものと解するのが相当である。すなわち、前記のような看守者等の立場に照らすと、看守者等が、その実力的支配下にある被拘禁者に対し、前記のような行為に及んだ場合には、当該具体的状況下において、相手方の被拘禁者がこれを承諾しており、精神的又は肉体的苦痛を被らなかったとしても、公務執行の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという観点から見た場合には、本罪の陵虐行為に当たるということができるのであって、本罪の趣旨に照らしたこのような解釈が罪刑法定主義に反するものとはいえない。
 もっとも、所論が指摘するように、本罪にいう陵虐行為の意味については、一般に、暴行以外の方法で精神的又は肉体的苦痛を与える一切の行為をいうとされているが、同時に、本罪の性格に照らして、相手方個人の承諾は本罪の違法性を阻却しないとされており、前記大審院判例も、涜職罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰する本罪において、当該行為が被害者の意思に反するか否かはあえて問うところではないと判示するところである。所論は、前記大審院判例は、現憲法下では先例的意義を有しないと主張するが、前記のとおり、公務員の法的性格が大きく変化した現憲法下でも、汚職の罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰するという本罪の基本的性格に変わりはないと考えられることに照らすと、前記大審院判例の趣旨が合理性を失ったと解することはできない。そして、相手方の承諾がある場合には、当該行為によりその相手方が精神的又は肉体的苦痛を被らない場合も十分に考えられるところ、前記のように相手方の承諾が本罪の成否に何ら影響しないということは、本罪の構成要件的行為の解釈にあたって当然考慮されるべきであり(この点を争う趣旨の所論は採用できない。)、前記のとおり、当該行為が現実に相手方に対して精神的又は肉体的苦痛を与えなかった場合にも、本罪の陵虐行為に該当すると解することが、所論がいうように本罪の予定する犯罪定型を逸脱したものであるとはいえない。
 そして、本件事実関係の概要は前記二で認定したとおりであって、性交の際の具体的な状況に関する被告人とB子の供述には食い違う部分もあるものの、B子は、原判示第一ないし第七の日時場所において、被告人と性交することに同意していたと認められ(原判決も同趣旨の判示をしている。)、その際、B子が精神的又は肉体的苦痛を感じていたことを示す明らかな証拠もない。しかしながら、前記のような本罪の趣旨に照らすと、被告人が、看守としての職務に従事していた際、所携の合い鍵を用いて、B子が留置されていた居室に入り込み、あるいはその居室からB子を連れ出した上で、B子と性交した行為は、本罪の陵虐行為に該当すると認められる。
 (裁判長裁判官 村上光鵄 裁判官 土屋哲夫 中里智美)