児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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自首は難しい

 今日も、電話相談で「出頭すれば自首になるのか?」という話があったので、ちょっと調べました。
 自首で半分になれば大きいので、自首っぽい事実があると、弁護人は自首減軽を主張するのですが、自首にもしてくれないし、自首減軽もなかなかです。

東京地方裁判所判決平成17年9月15日
 (弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,本件において被告人が犯人であることが発覚する以前である平成16年4月中旬に,大韓民国に帰国していた被告人は日本の警察官と連絡を取り,自分が本件に関与していること等を申告したから,被告人には自首が成立すると主張するところ,被告人が日本の警察官に電話で連絡した日時は証人Bの証言でも必ずしも明らかではなく,甲の逮捕事実では被告人は共犯者とされておらず,証拠上,被告人からの電話連絡の際に,捜査機関において,既に被告人が犯人の一人であると判明していたものとは断定し難い。
 しかしながら,自首は,検察官または司法警察員に対し,書面または口頭で行わなければならない(刑事訴訟法245条,241条)ところ,「口頭」とは自首した者と自首を受理する者が相対して行うものであるのが原則であって,電話による自首は,連絡後,犯人がすぐに身柄の処分を捜査機関に委ねられるような,相対しているときに準じる状況になければならないと解される。本件では,被告人は,事件後,大韓民国に出国し,日本の捜査機関の捜査権限が及ばない同国から電話で日本の警察官に事件のことを申告したというのであって,電話による申告の直ぐ後に日本の捜査機関が被告人の身柄を確保できる状態になかったことは明らかであり,被告人の供述するような経緯があったとしても,それは情状の一要素として量刑上考慮すべき事情には当たるが,法律上の刑の減軽事由たる自首には該当しない。

東京高等裁判所判決平成17年6月22日
 そして,自首が法律上任意的又は必要的減軽・免除事由とされているのは,自首を奨励することにより,犯罪の捜査・処罰を容易にしようとするものであるから,自首自体が正に犯罪の捜査・処罰を困難にする犯人隠避の犯罪行為に当る場合にまで,これを奨励することは,とりもなおさず,犯人隠避という犯罪行為を推奨するようなものであって,到底自首制度の趣旨に合致するものではない。ところで,自首の動機には個別にみれば様々な場合があり,かならずしも真撃な意図に出るものには限られず,その内容に虚偽の部分が含まれる場合もあり,これらを指して「不実の自首」というとすれば,およそこの不実の自首に当たれば,自首の成立が認められないというわけではない。このことは,自首の成立を認めた2つの最高裁判例最高裁昭和60年2月8日第二小法廷決定・刑集39巻1号1頁,最高裁平成13年2月9日第三小法廷決定・刑集55巻1号76頁)が示すとおりである。不実の自首の場合はおよそ犯罪の捜査・処罰を困難にするからといって全て自首の成立を否定すると,多様な自首の動機を選別し,自首が成立する場合と成立しない場合とを区別する基準が一義的でなく,かえって不明確であるとの批判を招きかねない。そこで,自首の成立を広く認めて,前記のような事情は減軽すべき事由があるか否かという観点から検討すれば足りるとの考え方もあり得よう。自首が任意的な減軽事由である場合には,このような考え方も柔軟で説得力があるが,必要的減軽・免除事由である場合には,不実の自首でも必ず刑を減軽・免除するというのは行き過ぎである。しかし,任意的減軽事由の場合と必要的減軽・免除事由の場合とで,基準を異にするというのも,対象となる法律上の概念が自首という同一の用語を用いている以上,二元的な構成となって妥当ではない。
 そこで,不実の自首の中でも,少なくとも自首そのものが犯人隠避行為に該当する場合には,これを国家が慫慂し,奨励するわけにはいかないのであるから,実質的にみて自己の犯罪事実の申告があったとは認められず,自首の成立を否定すべきである。一歩進んで,自首は外形上成立するとしても,その成立が阻却されるといってもよい。以上の次第で,本件においては,被告人の自首の成立を認めることはできない。

東京高等裁判所判決平成17年3月31日
 ところで、自首が成立するためには、自発的に犯罪事実を申告することが必要である。捜査機関の取調べに対し犯行を認める供述をするのは自首でないし、自己の刑責を軽減するために犯罪事実の重要な部分を殊更隠したり、虚偽の事実を申告するのを自首ということはできない。
 原判決は、被告人の緊急逮捕手続書には、被疑事実として「金の無心に来たところ、これを断られたことから」暴行を加えて傷害を与えた旨が記載されており、その後の弁解録取の際には、前記緊急逮捕手続書の被疑事実を告げられて、「私は、自分の母親に対しその部屋内で顔面を殴り、ベッドに頭を押し付けるなどの行為をしたことは間違いない。」と答えており、前記の「金の無心に来たところ、これを断られたことから」暴行を加えたことについて、特にこれを否定していない、また、実母である被害者からたびたび金をむしり取つていた被告人にとっては、無理を言って母親から小遣いをもらうという意識が強く、それが強盗に当たるなどとはおよそ考えていなかったと思われ、自首調書において暴行の目的が明示されていなかったとしても、被告人が自己の刑責を軽減するために殊更に虚偽の事実を申告したとまでは認められないというべきである。被告人が富士見橋交番に赴いてから逮捕後自首調書が作成されるまでの一連の被告人の申述内容を実質的かつ全体的に見ると、暴行の目的が金員の入手にあったという強盗致死罪の犯行の重要部分についても申告があったと見るのが相当である、としている。
 しかしながら、前記認定の事実関係を実質的かつ全体的に見てみても、被告人が、富士見橋交番に赴いてから自首調書が作成されるまでの間に、暴行の目的が金員の入手にあったという点で認める申告をしていないと判断することができる。そうであるからこそ、前日の夜中に被害者宅前で被告人と対応し、被告人が被害者に金をせびりに来ているなどそれまでの状況をある程度分かっていたG警察官においても、被告人を傷害罪の犯人として緊急逮捕し、続いてI警察官も傷害事件としての被告人の自首調書を作成していると認められるのである。そればかりか、前記認定の事実関係のうち、被告人が、J警察官から、自首調書作成の後取調べを受け追求された際にも、奪い取っていた現金約五万六〇〇〇円について、自分の物であると言い張っていたという事実を併せ考慮すれば、それまでの時点においては、本件が金員を奪うための犯行であるということを被告人が殊更隠そうとしていたことをも語っているといえるのである(なお、原判決は、被告人がたびたび被害者から金をむしり取っていたので、無理を言って被害者から小遣いをもらうという意識が強く、本件が強盗に当たるなどとは考えていなかったと思われる、というが、被告人がいかなる罪名が成立すると考えたかはともかく、前記のとおり、金員を奪うために暴行を加えたことを明らかに隠していたと認められ、原判決の判断は誤りというほかない。)。また、被告人は、自首調書の作成を終えた段階までの時点においては、前記認定のとおり、帯を使って被害者の首を絞め、後ろ手に両手首を縛った事実についても、供述していなかったのである。これらの暴行、特に首を絞めたことは被害者の死因にも関係する重要な暴行であるが、これらについても、被告人が殊更に隠そうとしていたことも明らかである。金員強取の目的及び前記暴行について隠していたのは、被告人が自己の刑責を軽減させようと意図してしたものと考えざるを得ない。被告人は、J警察官から、傷害事件の取調べを受け、前記認定の矛盾点を突かれ、初めて金員強取の目的等、すべての事実を供述するに至ったのである。被告人が本件について自首をしたとは認められない。
 なお、原判決は、前記説示に続き、その後の取調べにおいて、所持していた五万八○○○円はすべて自分の物である旨言い張ったという事情が認められるものの、金員を実際に奪い取ったか否かは強盗致死罪の成否という観点からは重要な事実ではないことに加え、被告人が言い張ったのは一〇分から一五分と短時間であり、その後は詳細な自白に至っていることにかんがみると、前記事情は、本件において自首が成立することを妨げるものではない、としている。しかし、前記認定のとおり、被告人は、自首調書の作成を終えた段階まで暴行を加えた際金員を奪う目的があったことを殊更に隠そうとしていたことは明らかであり、また、被告人が取調べを受けた際言い張った時間が一〇分から一五分と短時間であったという事情は、自己の刑責を軽減するために殊更虚偽の事実を申告したまま押し通そうとする被告人の意思が強いものではなかったことをうかがわせるにしても、その意思がなかったことまでをうかがわせるものではない。
 そうすると、被告人に自首が成立しないのに、自首の成立を認め、選択した無期懲役刑について自首減軽した処断刑の範囲内で被告人を懲役一五年に処した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるといえる。そこで、その余の点を判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よって、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、刑訴法四〇〇条ただし書により更に判決する。

第42条(自首等)
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。