児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ・児童買春罪の罪数処理について詳細に判示した事例(川越支部h20.3.11)

 児童買春罪と犯罪収益以外は科刑上一罪。
 児童買春罪と製造罪は併合罪だが、提供罪と製造罪は牽連犯だとか。よくわかりません。
 実はどう書いても判例違反。
 わからなければ、全部併合罪でいいんですよ。弁護人がゴニョゴニョ言おうと黙って併合罪ですよ。

犯罪事実
第1(児童買春)
1 1月1日,ホテル 児童買春罪児童A
2 3月1日,甲ホテル 児童買春罪児童A
第2(児童ポルノ製造)
1 3月1日,甲ホテル児童A 5項製造罪(不特定多数)〜撮影
2 同月21日,被告人方,5項製造罪(不特定多数)〜複製
3 8月1日,被告人方,5項製造罪(不特定多数)〜複製
第3
1児童ポルノ提供・わいせつ図画販売
2児童ポルノ提供目的所持、わいせつ図画販売目的所持
第4(犯罪収益の取得についての事実の仮装)

法令適用
判示第1(児童買春)の罪数についてみると,本件児童買春(2件)は,被告人が,被害児童との性交等の状況を撮影した画像を収録したDVD−Rを不特定多数人に販売する目的で,1か月余りの間に同一の被害児童に対し繰り返し敢行した犯行であり,同一の犯意に基づいて比較的短期間に反復された犯行であるから,犯意の継続性や犯行態様の同一性等に照らし,包括一罪になると解するのが相当である。
判示第2(児童ポルノ製造)の罪数についてみると,本件児童ポルノ製造(3件)は,被告人が,不特定多数人に販売する目的で,同一の被害児童との性交等の画像を収録したDVD−Rを繰り返し製造したというものであり,相当期間にわたり反復累行された犯行の一環であることにも照らせば,包括一罪になると解するのが相当である。
判示第3(児童ポルノ提供・同提供目的所持,わいせつ図画販売・同図画販売目的所持。以下「児童ポルノ提供等」ということがある。)の罪数についてみると,本件児童ポルノ提供・同提供目的所持は,反復累行された営業的な犯行の一環であるから,犯意の継続性や犯行態様の同一性等に照らし,包括一罪であると解される。また,本件わいせつ図画販売・同販売目的所持も,同様に包括一罪であると解される。
そして,本件児童ポルノ提供・同提供目的所持と本件わいせつ図画販売・同販売目的所持の中には観念的競合の関係に立っものも含まれているので,結局判示第3(本件児童ポルノ提供等)は全体が科刑上一罪になると解するのが相当である。
判示第1(児童買春)と判示第2(児童ポルノ製造)との罪数関係についても,同様に,両者は,罪質上通例手段結果の関係にあるとまではいえないので,両者は併合罪になると解するのが相当である。
判示第1(児童買春)と判示第3(児童ポルノ提供等)の罪との罪数関係につてみると,被告人は,被害児童との性交等の状況を撮影した画像を収録したDVD−Rを不特定多数人に販売する目的で,上記の各犯行に及んでいるが,両者は,罪質上通例手段結果の関係にあるとまではいえないので,両者は併合罪になると解するのが相当である。
判示第2(児童ポルノ製造)と判示第3(児童ポルノ提供等)との関係についてみると,両考は,罪質上通例手段結果の関係に立っので,両者は牽連犯になると解するのが相当であり,結局,これらの罪は科刑上一罪となる。
判示第3(児童ポルノ提供等)と判示第4(犯罪収益仮装)との罪数関係について,、弁護人は,①法条競合(両者の問には,予備罪一基本犯ないし基本犯一結果的加重犯の関係にある。),②観念的競合(両者の構成要件が全く重複する。),③混合的包括一罪のいずれかとすることが考えられると主張している。そこで検討するに,①については,児童ポルノ提供は,犯罪収益仮装罪の前提犯罪であり,犯罪収益仮装は,児童ポルノ提供に附随するものではあるが,両者は保護法益や罪質を異にしており,本件における犯罪収益の仮装行為(他人名義の預金口座に児童ポルノの代金を振込入金させる行為)は児童ポルノ提供自体の予備行為とはいえないし,児童ポルノ提供(販売)を基本犯とする結果的加重犯ともいえないことは明らかである。②については,児童ポルノ提供と本件における犯罪収益の仮装は,構成要件が全く重複するなどといえないことは明らかである。また,本件児童ポルノ提供(販売)は,顧客による購入の申込み及び代金の振込入金を受けて,商品(児童ポルノ)を顧客に送付するという形態であり,他人名義の預金口座に児童ポルノの代金を振込入金させるという犯罪収益仮装の実行行為は,児童ポルノの提供(販売)の実行行為と,自然的観察のもとで,社会観念上1個の行為といえるほどに重なり合っているとはいえない。③については,児童ポルノ提供は,犯罪収益仮装罪の前提犯罪であり,犯罪収益仮装は,児童ポルノ提供に附随するものであるからといって,直ちに両者が混合的包括一罪の関係にあると解するべきであるとはいえず,他にそのように解すべき根拠を見出すこともできない(弁論要旨でも,両者が混合的包括一罪の関係にあると解することが可能である根拠は明示されていない。)。
結局,判示第3(児童ポルノ提供等)と判示第4(犯罪収益仮装)は併合罪になると解するのが相当である。以上によれば,本件各罪は結局全部が科刑上一罪となるとの弁護人の主張は採用できない。

追記
 ちなみに、弁護人の主張はこうでした。数回の児童買春罪が包括一罪だという主張はしていません。

(6) まとめ
(1)提供目的製造罪と提供罪は牽連犯
(2)所持罪と提供罪は牽連犯(ないしは包括一罪)
(3)数回の製造罪は包括一罪
①製造罪(撮影)と製造罪(複製)は包括一罪
②5項製造罪は被害児童数にかかわらず包括一罪
(4)児童買春罪と製造罪(撮影)は観念的競合
(5)犯罪収益仮装罪と提供罪・販売罪は科刑上一罪である。
ということで、本件の公訴事実は、結局、科刑上一罪である。