児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

中止未遂を認めなかった事例(h18.6.28)

 最高裁webに掲載されていても、保管検察官は謄写禁止でした。
 和歌山地裁には強姦の中止未遂の判決がありました。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33556&hanreiKbn=03
事件名 強姦未遂
裁判年月日 平成18年06月28日
裁判所名・部 和歌山地方裁判所 刑事部
判示事項の要旨 強姦未遂事件において,任意に犯行を中止したものといえないとして中止未遂の主張を排斥した事例

(罪となるべき事実)
・・・強いてわいせつな行為をしているうちに,著しく性的欲望を募らせ,この上は,同女を強姦しようと決意し,上記倉庫に向かって立たせた同女に対し,その身体を背後から両手で強く押さえ付け,あるいは地面に仰向けに押し倒した同女に対し,「俺が一方的にやったら犯罪になるので,おまえが入れろ。」と申し向けるなどして,強いて同女を姦淫しようとしたが,自己の陰茎を同女の陰部に容易に挿入することができないでいるうち,同女から口淫することで許してほしい旨を告げられるなどしたため,その目的を遂げなかったものである。

3)中止未遂の成否に関する検討
そこで,次に,被告人が「自己の意思により」(刑法43条ただし書)上記実行行為を中止したか否かにつき検討する。
被告人は,上記認定のとおり,被害者に命じて自己の陰茎を同女の陰部に挿入させようとしたが,容易に挿入することができなかったため,強い射精欲求が満たされずいら立っていたところへ,第2現場においては被告人に対する手淫行為さえ拒否していた同女から,予期せぬ口淫の申出を受け,一刻も早く射精したいとの思いで,同女に口淫させることにしたものである。また,被告人は,その後,泣き出した被害者に対し,謝罪しつつも警察に通報しないよう懇願し,泣きやんだ同女が立ち去ろうとした際には,再び性欲を募らせたことから,自己が射精するまで帰らせない旨告げて,同女に自己の陰茎を手淫させ,あるいは同女の乳房を舐めるなどのわいせつ行為を繰り返し,結局射精し,自己の性的欲望を充足させるに至っている(甲6)。その一方で,被害者が上記申出をしたのは,夜間人気がなく暗い梅畑内の,倉庫の陰に隠れた人目につきにくい場所で被告人の命令により今まさに姦淫されそうになった同女において,被告人を畏怖する余り,その要求を拒絶することが極めて困難な状況に陥っていたことから,被告人から無理やり姦淫されるという女性として最悪の事態を回避すべく,被告人の性欲を口淫により減退させることを意図したためであることは明らかである。
そうすると,被告人は,被害者を利用して早急に射精の目的を遂げることによって自己の性欲を満たすことができさえすれば,その手段としては姦淫行為に必ずしもこだわるものではないという心理状態のもとで,自己の陰茎を被害者の陰部に挿入できないという犯罪遂行の物理的な障害に遭遇した際,同女から予期していなかった口淫の申出を受けて,今すぐにも可能な口淫により一刻も早く射精の目的を遂げようと考えてその方針を転換したにすぎないのである。このような事情にかんがみれば,被害者の上記申出は,性欲が著しく昂進していたという被告人の当時の心理状態のもとで,十分犯罪遂行の外部的障害となり得るものであったと評価できるし,その後,被告人が,被害者に対して執拗に口淫や手淫をさせ,実際に射精していることに照らしても,上記申出に基づく被告人の中止行為が何ら反省,悔悟,憐憫等の心情に基づくものでないことも明らかである。
したがって,本件において,被告人が自己の意思によって強姦行為を中止したとはいえないから,被告人に中止未遂は成立しない。
(4) 結論以上のとおりであって,本件強姦未遂につき被告人に中止未遂が成立する余地はないから,弁護人の上記主張は採用することができない。