児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

<前夫の子>届け出女性を不実記載で「誤って」起訴 地検

 捜査段階でも否認ですけど、被疑者対警察だと弁解がなかなか通らない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070216-00000115-mai-soci
<前夫の子>届け出女性を不実記載で「誤って」起訴 地検
2月16日21時28分配信 毎日新聞
 「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」とする民法772条の規定通り、離婚5カ月後に生まれた男児を「前夫の子」として出生を届け出た中国籍の女性(28)が、虚偽の届けをしたとして大阪地検から公正証書原本不実記載・同行使罪で起訴されていたことが分かった。同地検は16日、「認識不足から誤って起訴した」と発表、大阪地裁への起訴を取り消し女性に謝罪した。規定により事実と異なる出生届の提出を強いられたことが誤った起訴につながった。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070216-00000182-jij-soci
離婚後300日以内に出生した子は、離婚前の夫との子と推定するとした民法の規定に従い、中国籍の女性(28)が別の男性との間にもうけた子を「前夫の長男」と出生届を出したのに、大阪地検が「うそを記載した」と誤認して、公正証書原本不実記載、同行使罪で在宅起訴していたことが16日、分かった。
 大阪地検は同日、女性に謝罪。「民法の規定の理解が不十分だった」として公訴取り消しを申し立て、大阪地裁が公訴棄却を決めた。

第157条(公正証書原本不実記載等)
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

「次席検事の話 (担当検事は)こうした出生届を虚偽申請としては扱わないという法的な運用を理解していなかった。」ということですが(こういう時は「担当検事」が登場しますが)、公訴取消は
①「虚偽の申立」に当たらない
②期待可能性がない
という判断ですかね。
 規則128で理由は明らかにされています。

第257条〔公訴の取消し〕
公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。
第339条〔公訴棄却の決定〕
左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
一 第二百七十一条第二項〔二か月内に起訴状謄本が送達されないとき〕の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
二 起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。
三 公訴が取り消されたとき。
四 被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。

規則
第168条(公訴取消の方式・法第二百五十七条)
公訴の取消は、理由を記載した書面でこれをしなければならない。

 昔、被告人が亡くなったことがあったので、検察官に「公訴取消ですか?」って聞いたら、「339条4号で何もしなくても公訴棄却よ」って言われました。


追記
 こういう家事事件に詳しい弁護士に相談してくださいよ。
 条文を確認すると、
 戸籍法52条で出生届の義務があって、届け出ると、民法772条2項で、前の夫の子として入籍され、親子関係不存在確認の調停・審判をしないと、訂正できないわけですね。

戸籍法
第52条〔届出義務者〕
嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。

民法
第772条(嫡出の推定) 
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_07_16.html
(1) 概要
 婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子供は,婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定され,仮に他の男性との間に生まれた子供であっても出生届を提出すると夫婦の子供として戸籍に入籍することになります。
  夫との間の子供であることを否定するためには,原則として嫡出否認の手続きによることになります。
  しかし,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子供であっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母と性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子供を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,家庭裁判所に親子関係不存在確認の調停の申立てをすることができます。
  なお,上記のような父子関係不存在のほか,何らかの事情により真実の母親ではない人の子供として戸籍に入籍しているような母子関係不存在のケースも,本手続きによることになります。
  この調停において,当事者双方の間で,子供が夫婦の子供ではないという合意ができ,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認めれば,合意に従った審判がなされます。

親子関係不存在確認の調停の申立書
http://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/syosiki/syosiki_01_38.html

追記
すべての法律に精通せよとはいいませんが、民法ぐらい。

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070217ddm041040168000c.html
 「捜査を担当した検察官だけでなく、決裁した上司もミスに気付かないなんて、全く考えられない失態だ」。法務省のある幹部はそう言って絶句した。報道などで規定の問題点が次々に明らかになる中、同省は、実態調査をしたうえで、法改正や運用の見直しを検討することを明らかにしている。この幹部は「民法772条の見直し問題と、今回のミスとは直接関係ないとはいうものの非常に時期が悪い」とこぼした。
 また、規定により出生届の修正などをした経験のある親たちからは、同地検の認識不足に憤り、改めて規定の見直しを求める声が上がった。
 離婚後265日目に男児を出産し、裁判を経て今の夫の子にした神戸市東灘区の井戸正枝さん(41)は「事実と異なる出生届を出さざるを得なくしている規定の理不尽さを浮き彫りにした」。離婚後281日目で出産し前夫相手に嫡出否認の裁判をした東京都目黒区の女性(38)も「女性は法的には正規の手続きをしただけなのに罪人にされてしまった。不本意な手続きを強いられたうえに罪人にまでされたことが許せないし、悲しい」と語った。
 ◇元最高検検事の土本武司白鴎大法科大学院教授の話
 日本の検察が起訴を取り消すことはほとんどない。規定の誤解が原因となると恐らく初めてではないか。検事だから刑法だけ知っていればいいというのではなく、すべての法律に精通しておくべきだ。